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第一部

会合

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 リアはなぜ婚約となったのか、まるでわからなかった。

 皇宮の美麗な庭園で、再度ジークハルトと会った。
 そよ風が花々の香りを運ぶ中、ほぼ無言で過ごし、紅茶を飲み干すと彼は帰っていった。
 

 二度目の会合はそれで終わった。
 碌に話などしていない。
 やはり、彼はリアを気に入ってなどいない。

(なのにどうして、婚約を?)

 謎だ。
 ジークハルトは、パウルと似ているので、リアとしては複雑であった。 
 パウルの面影がよぎり、胸が疼く。
 
 たとえ無言が続いても構わない。
 彼といると、懐かしさと嬉しさと悲しさの感情が混じる。
 
 公爵家に迷惑をかけることは絶対にしたくなかった。
 彼との婚約が決まったからには、それを受け入れるつもりだ。



◇◇◇◇◇



 三度目の会合は、数日後。
 
 前回と同じ場所で、同様に二人でお茶をする。
 彼は飲み終わると、立ち去ろうとしたので、リアは声をかけた。

「あの」

 彼は不機嫌に動きを止め、腰を戻した。

「なんだ」

 リアはずっと気になっていたことを訊ねた。

「どうして、私と婚約をなさったのですか?」
 
 先日は聞けなかったが、今回は聞こうと、心に決めてきたのである。
 ジークハルトは気だるげに瞬いた。

「どうして? すでに話してあるだろう」

(いつかしら……?)

 リアは考えてみたがわからなかった。

「話していただいた覚えがないのですが……」
「最初に言ったじゃないか」
「申し訳ありません。どうかお教えいただけますか?」

 彼は髪を片手でかきあげる。

「面倒、だからだ」

 リアは唖然とした。

「……面倒?」
「ああ。今日は覚えて帰ってくれるか」
「……はい」

 彼は足を組み、説明した。

「オレは、今までも多くの花嫁候補と会ってきた。今後も同じことを繰り返すのはもう御免だ。それで君に決めた。面倒だから。以上だ。わかったか」

 馬鹿にするような目だ。リアは非常にむっとした。

「そんなことで、結婚相手を選ばれたのですか?」
「どういう理由で決めようが、オレの勝手では?」
「……けれど大切なことだと思いますわ。一生のことですもの。ジークハルト様は私を結婚相手に決めてしまわれて本当によろしいのですか」

 そんな理由で。

「誰と結婚しようが同じだ。大して変わりはしない」

 彼はそう言って、フンと横を向く。
 王侯貴族の婚姻は、制約が多く、自由にできるものではない。
 だから彼は自棄になっているのだろうか。

「なんだ? 文句でもあるわけか」
「……文句なんてありませんが」
「しかし何か言いたげだ」

 彼はテーブルに手を置き、リアに視線を流す。

「言いたいことがあるのなら、さっさと言えばいい」

 怜悧な眼差しや、威圧感のある態度、そっけなさは、パウルと全然違う。
 しかし彼を見ていると、パウルを思い出して仕方ない。
 姿が似ている彼を前にし、胸が切なくきゅっと締め付けられる。

「両親は愛しあっていて、幸せそうでしたから……」

 リアは元々、結婚は愛する相手とするものだと思っていた。
 だが公爵家の養女となってからは、それは不可能だと覚悟した。
 公爵家の人間として、家の利益となる相手と婚姻を結ぶことになる。
 
 頭で理解はしている。
 
 ジークハルトとの婚約が決まり、それに対して異議を唱える気も逆らう気もない。
 だが感情はあった。
 
 それをついつい口にしてしまった。

「好きな相手と結婚するのが一番だと思うのですが」
「好きな相手……?」
「はい」

 ジークハルトは唖然と目を見開いたあと、くっと肩を揺らして笑った。リアが心配するくらい長い間。

「ははは! これはいい」
「…………」

 リアは感情をそのまま言葉にしたことを後悔した。
 笑い続けるジークハルトを前に、彼がおかしくなってしまったのかと徐々にリアは焦りも覚えた。
 青ざめてしまうと、彼はようやく笑いをおさめた。

「君は本当に面白い女だ」

 ジークハルトは椅子から立ち上がる。そのまま帰るのかと思ったが、彼はこちらを振り返った。

「来い」
「……はい」
 
 躊躇したけれど、彼について歩いた。
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