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第一部

彼の暮らす塔

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 リアは隣家に行き、イザークを誘った。
 毎日こうして共に勉強している。 
 父も母も博識で、沢山のことを教えてくれる。
 今日は、帝国の歴史を学んだ。

「あなた達は良い生徒ね」
 
 母は口元を綻ばせる。

「わたくしがあなた達と同じ年頃のときには、家庭教師の先生から逃げだして、困らせて、よく叱られたの」

 おっとり微笑む母は、いつまでも少女のようで、可愛らしい。
 しかし意外とおてんばだったようだ。



◇◇◇◇◇



「今日は、親戚皆、珍しく外出してるんだ」

 いつも三人で遊んでいる待ち合わせ場所に行くと、パウルがそう言った。
 イザークはそれなら、と身を乗り出した。

「一度、塔の中に入ってみたかったんだ。行ってもいい?」

 パウルはこくりと頷く。

「いいよ」
 
 それでリアとイザークは、パウルに連れられて彼の暮らす塔に行ってみた。
 
 内階段をのぼり、一番上にあるパウルの部屋に入る。
 塔の外観と同じく、飾り気のないシンプルな内装だ。
 机とテーブルが置かれ、書架には本が多く並んでいる。

「いっぱい本があるのね」

 様々な種類の本が揃い、外国の本もある。

「他にもあるよ。階下は書庫になってるんだ。僕は行動を制限されているから、読書をして過ごすようにということだと思う。あらたな本が次々増えていく」
「へえ」

 イザークは書架を眺める。

「気に入ったのがあったら、二人とも持っていって」
「ありがとう!」
「サンキュ」


 それから三人はしばらくそこで読書をした。
 リアとイザークは本を何冊か借りて、パウルと塔から降りた。

「パウル、あの建物、何?」
 
 イザークは敷地内の奥にあるひとつの建物を指さす。

「ああ、あれは」

 パウルは眉間を皺めた。

「立ち入り禁止になっている場所なんだ。僕が外に出るとき使う、抜け道が近くにあって。あの場所には親戚も近づかないから、僕も気づかれず、抜け出せてる。あの場所はなんともいえない空気が漂っていて……。抜け道を使うとき以外は、僕も行かない」
「ふうん……」

 イザークは顎に手を置く。

「気になるな」

 ぽつりと彼は呟いた。
 リアもイザーク同様にそう思った。

(立ち入り禁止といわれれば、なんだか気になってしまうわ……)
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