45 / 58
45.好きなひと
しおりを挟む
(どうすればいいの?)
ヒロインが、攻略対象ではない人間を好きになった。
完全に予想外だが、クライヴなら納得できてしまう。
攻略対象と並び立つ美貌の持ち主で性格もいい。
だからこそ、シャロンも最初彼を見て警戒心をもったのだった。
真面目で、誠実でやさしく。
廊下でヒロインが鞄を落としたとき、皆無視していたけれど、クライヴは拾って渡してあげていた。
(本当どうすればいいのかしら……)
攻略対象以外とヒロインは結ばれ、ハッピーエンドとなる? 世界と、シャロンの命は救われる?
悩みながら、教室に戻った。
そこにはシャロンを待つクライヴの姿があった。
今は彼を見れば頭痛がしてしまう。
「お話は終わりましたか」
「いつの間にか終わっていて、どうやってこの教室に来たかあやふやだわ……」
「何かあったのですか?」
クライヴは眉を曇らせた。
「ゲームをハッピーエンドにするために、暗躍する、と意気込んでらっしゃいましたが……。やはり意地悪をするなんて、お嬢様には難しいことです」
「いえ、意地悪な言葉はかけてきたわ」
「頑張られたのですね」
「ええ……」
ちゃんと頑張れたかわからない。驚いて最後あたりは呆然自失状態であった。
「? どうしたのですか?」
彼に椅子に座るように言い、シャロンも椅子に腰を下ろした。
辺りを見まわし、誰もいないのを確認してから口を切る。
「実は──ゲームのヒロイン、ドナさんはあなたに恋をしたの。攻略対象ではなく、あなたが好きみたいよ」
「何かの間違いでは。俺はゲームには登場していないらしいですし……」
「話を聞いてみると、本当にあなたに恋をしていて。好意をもっているということを、あなたに伝えてほしいとドナさんに言われたわ」
「俺は彼女の気持ちに応えられません」
「そこをなんとか付き合ってみてはもらえないかしら?」
シャロンにはヒロインの恋を叶えるという使命がある。キューピッドとなり彼らを結びつけるしかない。
クライヴはかぶりを振った。
「申し訳ありませんが、難しいです。彼女に興味がありません。お嬢様のおっしゃるゲームのヒロイン、という以外に、何の関心もありません」
「まだ知り合って二週間よ。彼女可愛いし、これから興味が出てくるかもしれない。結論を出すのは早いわ」
ドナは天然だが、ゲームのヒロインなだけあって美少女なのである。
「俺の趣味じゃありません」
今まで彼とこういった会話をしたこともなかったので、シャロンは少々気になって訊いてみた。
「あなたの趣味はどんななの?」
「恋自体に関心がありません。俺には不要なものですから」
シャロンはぱちぱちと瞬いた。
「あら、それはどうかしらね。恋は人生を彩ってくれるし、良い事ばかりではないかもしれないけれど、一度くらい経験してもいいんじゃない」
恋をしなくても生きてはいける。
他に楽しく熱中できることはたくさんあるけれど、恋のない人生は単色で、味気ない気もする。
「心を豊かにし、きっと人間の幅を広げるわ。だからドナさんとの恋を考えてみてはくれないかしら? 彼女可愛いし、まっすぐでいい子よ」
シャロンは食い下がり、彼の説得を試みた。
「申し訳ありませんが、考えられません」
彼は頑固であった。
ゲームで彼女は攻略対象全員をメロメロにしたのだ。
クライヴもヒロインと過ごせば、きっと好きになるのではと思うのだが。
クライヴは目を伏せる。
「俺はほかに好きなひとがいますので」
シャロンはまじまじと彼を見た。
「クライヴ、好きなひとがいるの?」
「はい」
初めて聞いた。
九歳のときに知り合ったけれど、今までそんなこと耳にしたことも、それらしきひとを見たこともなかった。
「わたくしの知っているひと?」
彼に好きなひとがいるのなら、その恋を引き裂き、ヒロインと強引に結びつけるのは問題が出てくる。
「ええ」
彼は視線をおとしたままで認めた。
「誰?」
屋敷のメイドか、学校の生徒だろうか。
入学してまだ二週間だが。
(ヒロインの例があるし、わからないわ)
いったい誰なのかと好奇心いっぱいで訊いてみれば、彼は視線をあげ、シャロンを見つめた。
「あなたです」
ヒロインが、攻略対象ではない人間を好きになった。
完全に予想外だが、クライヴなら納得できてしまう。
攻略対象と並び立つ美貌の持ち主で性格もいい。
だからこそ、シャロンも最初彼を見て警戒心をもったのだった。
真面目で、誠実でやさしく。
廊下でヒロインが鞄を落としたとき、皆無視していたけれど、クライヴは拾って渡してあげていた。
(本当どうすればいいのかしら……)
攻略対象以外とヒロインは結ばれ、ハッピーエンドとなる? 世界と、シャロンの命は救われる?
悩みながら、教室に戻った。
そこにはシャロンを待つクライヴの姿があった。
今は彼を見れば頭痛がしてしまう。
「お話は終わりましたか」
「いつの間にか終わっていて、どうやってこの教室に来たかあやふやだわ……」
「何かあったのですか?」
クライヴは眉を曇らせた。
「ゲームをハッピーエンドにするために、暗躍する、と意気込んでらっしゃいましたが……。やはり意地悪をするなんて、お嬢様には難しいことです」
「いえ、意地悪な言葉はかけてきたわ」
「頑張られたのですね」
「ええ……」
ちゃんと頑張れたかわからない。驚いて最後あたりは呆然自失状態であった。
「? どうしたのですか?」
彼に椅子に座るように言い、シャロンも椅子に腰を下ろした。
辺りを見まわし、誰もいないのを確認してから口を切る。
「実は──ゲームのヒロイン、ドナさんはあなたに恋をしたの。攻略対象ではなく、あなたが好きみたいよ」
「何かの間違いでは。俺はゲームには登場していないらしいですし……」
「話を聞いてみると、本当にあなたに恋をしていて。好意をもっているということを、あなたに伝えてほしいとドナさんに言われたわ」
「俺は彼女の気持ちに応えられません」
「そこをなんとか付き合ってみてはもらえないかしら?」
シャロンにはヒロインの恋を叶えるという使命がある。キューピッドとなり彼らを結びつけるしかない。
クライヴはかぶりを振った。
「申し訳ありませんが、難しいです。彼女に興味がありません。お嬢様のおっしゃるゲームのヒロイン、という以外に、何の関心もありません」
「まだ知り合って二週間よ。彼女可愛いし、これから興味が出てくるかもしれない。結論を出すのは早いわ」
ドナは天然だが、ゲームのヒロインなだけあって美少女なのである。
「俺の趣味じゃありません」
今まで彼とこういった会話をしたこともなかったので、シャロンは少々気になって訊いてみた。
「あなたの趣味はどんななの?」
「恋自体に関心がありません。俺には不要なものですから」
シャロンはぱちぱちと瞬いた。
「あら、それはどうかしらね。恋は人生を彩ってくれるし、良い事ばかりではないかもしれないけれど、一度くらい経験してもいいんじゃない」
恋をしなくても生きてはいける。
他に楽しく熱中できることはたくさんあるけれど、恋のない人生は単色で、味気ない気もする。
「心を豊かにし、きっと人間の幅を広げるわ。だからドナさんとの恋を考えてみてはくれないかしら? 彼女可愛いし、まっすぐでいい子よ」
シャロンは食い下がり、彼の説得を試みた。
「申し訳ありませんが、考えられません」
彼は頑固であった。
ゲームで彼女は攻略対象全員をメロメロにしたのだ。
クライヴもヒロインと過ごせば、きっと好きになるのではと思うのだが。
クライヴは目を伏せる。
「俺はほかに好きなひとがいますので」
シャロンはまじまじと彼を見た。
「クライヴ、好きなひとがいるの?」
「はい」
初めて聞いた。
九歳のときに知り合ったけれど、今までそんなこと耳にしたことも、それらしきひとを見たこともなかった。
「わたくしの知っているひと?」
彼に好きなひとがいるのなら、その恋を引き裂き、ヒロインと強引に結びつけるのは問題が出てくる。
「ええ」
彼は視線をおとしたままで認めた。
「誰?」
屋敷のメイドか、学校の生徒だろうか。
入学してまだ二週間だが。
(ヒロインの例があるし、わからないわ)
いったい誰なのかと好奇心いっぱいで訊いてみれば、彼は視線をあげ、シャロンを見つめた。
「あなたです」
160
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる