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45.好きなひと

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(どうすればいいの?)
 
 ヒロインが、攻略対象ではない人間を好きになった。
 完全に予想外だが、クライヴなら納得できてしまう。
 攻略対象と並び立つ美貌の持ち主で性格もいい。

 だからこそ、シャロンも最初彼を見て警戒心をもったのだった。
 真面目で、誠実でやさしく。
 廊下でヒロインが鞄を落としたとき、皆無視していたけれど、クライヴは拾って渡してあげていた。

(本当どうすればいいのかしら……)

 攻略対象以外とヒロインは結ばれ、ハッピーエンドとなる? 世界と、シャロンの命は救われる?

 悩みながら、教室に戻った。
 そこにはシャロンを待つクライヴの姿があった。
 今は彼を見れば頭痛がしてしまう。

「お話は終わりましたか」
「いつの間にか終わっていて、どうやってこの教室に来たかあやふやだわ……」
「何かあったのですか?」

 クライヴは眉を曇らせた。

「ゲームをハッピーエンドにするために、暗躍する、と意気込んでらっしゃいましたが……。やはり意地悪をするなんて、お嬢様には難しいことです」
「いえ、意地悪な言葉はかけてきたわ」
「頑張られたのですね」
「ええ……」

 ちゃんと頑張れたかわからない。驚いて最後あたりは呆然自失状態であった。

「? どうしたのですか?」
 
 彼に椅子に座るように言い、シャロンも椅子に腰を下ろした。
 辺りを見まわし、誰もいないのを確認してから口を切る。

「実は──ゲームのヒロイン、ドナさんはあなたに恋をしたの。攻略対象ではなく、あなたが好きみたいよ」
「何かの間違いでは。俺はゲームには登場していないらしいですし……」
「話を聞いてみると、本当にあなたに恋をしていて。好意をもっているということを、あなたに伝えてほしいとドナさんに言われたわ」
「俺は彼女の気持ちに応えられません」
「そこをなんとか付き合ってみてはもらえないかしら?」

 シャロンにはヒロインの恋を叶えるという使命がある。キューピッドとなり彼らを結びつけるしかない。
 クライヴはかぶりを振った。

「申し訳ありませんが、難しいです。彼女に興味がありません。お嬢様のおっしゃるゲームのヒロイン、という以外に、何の関心もありません」
「まだ知り合って二週間よ。彼女可愛いし、これから興味が出てくるかもしれない。結論を出すのは早いわ」

 ドナは天然だが、ゲームのヒロインなだけあって美少女なのである。

「俺の趣味じゃありません」

 今まで彼とこういった会話をしたこともなかったので、シャロンは少々気になって訊いてみた。

「あなたの趣味はどんななの?」
「恋自体に関心がありません。俺には不要なものですから」

 シャロンはぱちぱちと瞬いた。

「あら、それはどうかしらね。恋は人生を彩ってくれるし、良い事ばかりではないかもしれないけれど、一度くらい経験してもいいんじゃない」

 恋をしなくても生きてはいける。
 他に楽しく熱中できることはたくさんあるけれど、恋のない人生は単色で、味気ない気もする。

「心を豊かにし、きっと人間の幅を広げるわ。だからドナさんとの恋を考えてみてはくれないかしら? 彼女可愛いし、まっすぐでいい子よ」

 シャロンは食い下がり、彼の説得を試みた。

「申し訳ありませんが、考えられません」

 彼は頑固であった。
 ゲームで彼女は攻略対象全員をメロメロにしたのだ。
 クライヴもヒロインと過ごせば、きっと好きになるのではと思うのだが。
 クライヴは目を伏せる。

「俺はほかに好きなひとがいますので」

 シャロンはまじまじと彼を見た。

「クライヴ、好きなひとがいるの?」
「はい」

 初めて聞いた。
 九歳のときに知り合ったけれど、今までそんなこと耳にしたことも、それらしきひとを見たこともなかった。

「わたくしの知っているひと?」

 彼に好きなひとがいるのなら、その恋を引き裂き、ヒロインと強引に結びつけるのは問題が出てくる。

「ええ」 
 
 彼は視線をおとしたままで認めた。

「誰?」

 屋敷のメイドか、学校の生徒だろうか。
 入学してまだ二週間だが。

(ヒロインの例があるし、わからないわ)

 いったい誰なのかと好奇心いっぱいで訊いてみれば、彼は視線をあげ、シャロンを見つめた。

「あなたです」
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