上 下
43 / 58

43.ゲーム開始

しおりを挟む
 春。
 魔法学校入学の日がやってきた。
 シャロンは十五歳になっていた。

 攻略対象が留学したのはゲームと異なる出来事で、想定外ではあったものの、それ以外では特に、何事も起きず平和に時間は流れた。
 なんとしてもハッピーエンドを目指すのだ。

(悪役令嬢として暗躍する!)

 シャロンが気合を入れ、馬車から降りれば、クライヴが言った。

「お嬢様、おっしゃっていたゲームがはじまるのですね?」
「そう。今日から全てがはじまるのよ……!」

 シャロンはすうと息を吸い込み、魔法学校の門をくぐった。



 ヒロイン──ドナ・イームズとは同じクラスとなった。
 彼女はゲーム通りの容姿で、見た瞬間にヒロインだとわかった。
 
 可愛らしい姿をしている。
 ミルクティー色の珍しい髪に、緑青色の瞳、小さな鼻、艶々した唇。
 数ヵ月前、魔力保持者と判明した彼女は、王都の親戚に引き取られ、魔法学校に入学することになったのだ。
 
 これから、心躍る恋がはじまる──!
 乙女ゲー『聖なる魔法と恋』、シンデレラストーリーの開始だ!
 
 さて、彼女はどちらと恋をするのだろうか。
 それをシャロンは見守る。時に意地悪をし、恋の後押しをして。
 他人事ながら、どきどきと胸が高鳴った。
 
 父に命じられ、自分と入学を合わせることになったクライヴも同じクラスである。
 彼はゲームに登場していなかった。申し訳ないし自分に合わせる必要はないと父に話したが、クライヴが一緒に入学すると言ったので、結局合わせてもらうことになったのだ。
 
 ──魔法学校の初日が終了した。
 
 教室から出ると、目の前を歩いていたヒロインが、鞄をおとして中身を廊下にぶちまけた。

「す、すみません!」
 
 周りの同級生は平民のドナを無視し、嘲るように見ている。
 拾って渡してあげたいところだが、自分は悪役令嬢。
 彼女に意地悪をしなければならない宿命である。

 するとシャロンの隣にいたクライヴが、ドナの荷物を拾い、彼女に渡してあげていた。
 さすがやさしい。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」

 ヒロイン、ドナはクライヴを見、頬を染め上げる。
 現在十七歳のクライヴは水も滴る美少年だ。
 攻略対象に引けを取らないイケメンである。 
 ドナはぽうっと彼に見惚れ、頭を下げた。
 


 それから、シャロンはヒロインを秘かに観察した。
 彼女が攻略対象と急接近している様子はみられない。
 ふたりの攻略対象が消えたため、四人全員と結ばれるハーレムルートのセンはない。
 
 しかもライオネルは数日前から外交で学校を離れている。
 シャロンは、悪役令嬢としての役回りを兼ね、現状を知るため威圧的にヒロインに声を掛けた。

「あなたにお話がありますの、ドナさん」
「お話ってなんでしょう……」

 屋上に呼び出し、睨み上げればドナは怯えをみせた。
 名家の令嬢で、眼差しが鋭く、いかにも悪役の自分に呼び出されたらこうなるというもの。
 
 貴族の多い学校内で肩身の狭い思いをしている彼女に同情するが、シャロンは悪役をまっとうするしかない。
 放課後の屋上で、いいがかりをつけた。

「あなた、生意気よ!」

 とりあえずゲームにあった台詞を吐く。
 あれほどのことはできないけれど。

「わたくしの婚約者、ライオネル様に近づいたでしょう!」

 指を突き付けて叫んでみれば、彼女は青ざめながら、首を傾げた。

「ライオネル様というのは……?」
「──え?」
 
 彼女はこの国の王太子の名前をまだ知らないのか。
 入学式でも新入生代表として彼は挨拶をしたのに。
 あれだけ目立つ人物を、いまだ把握できていないことにシャロンは驚愕しつつ、説明した。

「ライオネル様というのは王太子殿下で、この学校で最もきらきらしているかたよ」
「知りませんでした」

(……おかしいわ)

 ライオネルと出会う共通イベントが、すでにあったはず。
 入学してすぐ、ヒロインは校内で迷い、そこに通りがかったライオネルが道を教え、会話を交わす。
 シャロンは自分がいれば邪魔になるので、このシーンの確認を行わなかったけれど。

(たぶん……ヒロインは天然だから、ライオネル様と出会ったけれど、彼が王太子殿下だとまだ気づいていないのだわ!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

処理中です...