上 下
42 / 58

42.ルートの消滅

しおりを挟む
「姉様、ぼく、留学することになりそうです……」

 エディからそう聞かされたのは、アンソニーがガーファル王国に留学してすぐのことだった。
 シャロンは目を見開いた。

「えっ?」
「父様に言われたのです」 

 シャロンは愕然とし、エディは奥歯を噛みしめた。

「ぼくと同い年のアンソニー様が先日留学されたでしょう? それを父様が知り、僕も留学をするようにと。将来領地を治めるぼくは、魔法学校の飛び入学より、視野を広く持つため一度ここを離れたほうがいいと父様はおっしゃって」

 エディは眉を寄せる。

「父様と視察に行き、父様はぼくがもっと成長しなければならないと痛感されたようなのです。姉様のことを心配するぼくのことが逆に心配だと」

 それはシャロンも思わないでもない。
 確かにエディはシャロンに関して心配性すぎる。
 ショックでしばし何も言えずにいると、エディは溜息をついた。

「父様のお言葉なので、逆らうことはできません。ぼくは今月中に留学することになります」

(今月中!?)

「そ、そんなに早くなの……!?」
「はい。魔法学校には通常の年に入学することになります。そのころには戻ると思いますが」

 そんな!
 ではゲームスタート時に、ふたりの攻略対象がいないことになってしまう……!?

(エディルートも消滅するの……?)
 
 ならばハーレムルートはやはりナシだ。
 四人中、ふたりもの攻略対象が表舞台から去ってしまって果たしてよいのか。
 ゲームに支障が出ればとシャロンは深刻な不安を覚え、エディの手を掴む。

「エディ、留学をやめることはできないかしら?」 
「父様の指示ですし、やめることはできません」

 エディは眉間の皺を深める。

「アンソニー様が留学されてしまうから。それで父様も同い年のぼくに留学をと……。ぼくは姉様のそばで、姉様を守るつもりでしたのに……!」

 エディはシャロンの手をぎゅっと握り返す。

「ライオネル様に他に良い人が現れれば、留学から戻れば、ぼく手助けしますからねっ!」

 しかしそのころにはすでにゲームが始まって大分経っている。

(大変だわ……!)
 
 シャロンはエディの留学を考え直してもらえないかと父の元に、直談判しにいった。
 ゲームではエディも留学していない。
 半分もの攻略対象がいなくなれば問題だ。

「お父様!」

 父の部屋に押しかけ、シャロンは言い募った。

「どうかエディの留学を考え直してくださいませ」

 父は首を傾げる。

「なぜだ?」
「そ、それはですね……」

 ゲームのハッピーエンドに向け、支障が出るから。
 しかしそんなこと言えない。

「……エディも留学したくなさそうですわ」
「おまえのことを心配しすぎて、そんなエディこそが心配なのだ」

 父は大きく息を吐き出す。

「第二王子のアンソニー様も留学された。エディにもこの家の跡取りとして、成長してもらいたい。これは将来の領主であるエディのために決めたことだ」

 そう言われれば、それ以上要求できない。
 ゲームの攻略対象だから、できれば残ってほしいのだが……。
 留学することで知見を得るし、父の言う通り、義弟のためになる。良い経験になるだろう。

 シャロンは父の書斎からよろけつつ出た。
 廊下で待っていたエディがシャロンに詰め寄った。

「どうでしたか、姉様」
「お父様の考えを変えることはできなかったわ……」

 エディは肩を落とすが、気を取り直したようにシャロンを見つめた。

「ぼくは、ひと回りもふた回りも成長して戻ってきます。姉様を守れる男になって!」
「エディ、頑張って。わたくしのことはいいからね」

 ──そうして月末には義弟は屋敷を離れ、国外へ出た。
 攻略対象のうち、ふたりも消えてしまった。
 
 ……しかし。
 メインヒーローのライオネルと、二番人気のルイスがまだ残っている……っ!
 大丈夫……!
 ライオネルルートに入る公算が大なのだから。
 ヒロインとライオネルがうまくいくよう、頑張ろうとシャロンはぐっと手を握りしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

処理中です...