闇の悪役令嬢は愛されすぎる

葵川真衣

文字の大きさ
上 下
89 / 91
第二章

22.罠?

しおりを挟む
 放課後、教科書を鞄に入れていると、机の引き出しの中に封筒があることに気付いた。

(?)

 手に取り、視線をおとせば、宛名はクリスティンで、差出人はソニアだった。
 いつからあったのだろう?
 午前中にはなかった、と思う。

(彼女は今、学園にいないのに?)

 聖女として、しばらく聖地に行っているのだが、戻ってきたのだろうか?
 
 クリスティンは椅子に座り直し、桃色の封筒から便箋を取り出した。
 丸みを帯びた丁寧な字は、ソニアのものである。
 
 手紙には、聖地から一時的に戻ってきた、大事な話がある、今日放課後、旧校舎の教室まで来てほしい、と書かれてあった。

「クリスティン様、どうされたのですか」

 椅子に座ったままのクリスティンに、メルがこちらまでやってきて尋ねた。
 クリスティンは彼に説明する。

「ソニア様の手紙が机の中にあったの」
「あのかたは、今、聖地では?」
「一時的に、戻ってきたらしいわ」
「手紙を拝見して、よろしいですか?」

 クリスティンは頷いて、メルに手紙を渡した。
 彼は便箋に目を通す。

「……本当に彼女が書いたものなのでしょうか。前見た字と確かに似ていますが」
「彼女が好きそうなレターセットだし。本人だと思うのだけれど」

 クリスティンは椅子から立つ。

「取り敢えず、旧校舎に行ってみる。ソニア様に、わたくしも久しぶりに会いたいわ、彼女の話というのも気になるから」
「念のため、私もご一緒します」
「ええ」 
 
 メルがいれば話せないことであれば、そのときは彼に席を外してもらえばいいだろう。
 
 クリスティンは教室を出て、旧校舎まで行った。
 敷地の端にある、現在使われていない校舎は、静まり返っていた。
 手紙には、地下にきてほしいとある。

 階段を降りて、指定された教室へと向かう。
 擦り切れた廊下を歩いていると、後ろで僅かに気配を感じた。

(──!?)

 振り返るとナイフを持った、黒づくめの者がこちらに忍び寄ってくるのが見えた。
 クリスティンが身構えると、クリスティンの前にメルが立った。

「クリスティン様、私が」

 メルは不審者の手首を蹴り、ナイフを弾く。
 彼が男の喉元に拳を叩きこめば、不審者はよろめいた。

「……っ!」
 
 敵わないと悟ったのだろう。
 賊は身を翻して階段を駆け上がり、逃げた。
 メルは追いかけようとし、立ち止まった。
 まだ他に今のような者がいた場合、ここにクリスティンを一人残すことは危険だと判断したのだ。

「今の、一体……」

 刃物を手にしていたし、明らかに、危害を加えようとしていた。

 メルは不審者が逃げた先を睨み据える。

「誰かわかりません。動きから、私が今まで会った者ではなさそうです」
 
 クリスティンは、地下で待っているソニアに何かあればと、ひどく不安になった。

「ソニア様のところに急ぎましょう」
「クリスティン様……ひょっとすると、これは罠なのでは?」
「罠……?」
「ええ。あの手紙はソニア様のものではなく、偽の手紙だったのでは。この場所に、おびき寄せるための」

 確かにその可能性はある。
 だが、本当にソニアが書いた手紙で、彼女がこの先で待っているのだとすれば、このまま放って帰ることなどできない。

「そうかもしれないけれど、行って確かめないと」
「わかりました」
 
 それで手紙に書かれてあった教室に二人で行き、扉を開けて中に入った。
 
 誰もいない。
 使用されていない机が並んでいる。
 まだ来ていないのか、それともやはり……。

 すると扉がひとりでに、ガシャン! と閉まった。
 クリスティンとメルは、背後を見る。

 瞬間、ぐにゃりと視界は歪み、立っていられなくなった。

 世界が崩れるような感覚。脳内が揺さぶられ、クリスティンは一気に気を失った。



 緩やかに意識が浮上し、瞼を開けると、メルと目が合った。
 クリスティンは、床に座り込んで、メルに抱きかかえられていた。

「クリスティン様、大丈夫ですか……?」
「ええ……」

 先程の教室。
 しかし、床や壁、天井は、奇妙に歪んでいた。

「地震が起きたの……?」

 最初に思ったのが、それだった。

「いえ。ここは異空間のようです」
「異空間……」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...