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第二章
22.罠?
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放課後、教科書を鞄に入れていると、机の引き出しの中に封筒があることに気付いた。
(?)
手に取り、視線をおとせば、宛名はクリスティンで、差出人はソニアだった。
いつからあったのだろう?
午前中にはなかった、と思う。
(彼女は今、学園にいないのに?)
聖女として、しばらく聖地に行っているのだが、戻ってきたのだろうか?
クリスティンは椅子に座り直し、桃色の封筒から便箋を取り出した。
丸みを帯びた丁寧な字は、ソニアのものである。
手紙には、聖地から一時的に戻ってきた、大事な話がある、今日放課後、旧校舎の教室まで来てほしい、と書かれてあった。
「クリスティン様、どうされたのですか」
椅子に座ったままのクリスティンに、メルがこちらまでやってきて尋ねた。
クリスティンは彼に説明する。
「ソニア様の手紙が机の中にあったの」
「あのかたは、今、聖地では?」
「一時的に、戻ってきたらしいわ」
「手紙を拝見して、よろしいですか?」
クリスティンは頷いて、メルに手紙を渡した。
彼は便箋に目を通す。
「……本当に彼女が書いたものなのでしょうか。前見た字と確かに似ていますが」
「彼女が好きそうなレターセットだし。本人だと思うのだけれど」
クリスティンは椅子から立つ。
「取り敢えず、旧校舎に行ってみる。ソニア様に、わたくしも久しぶりに会いたいわ、彼女の話というのも気になるから」
「念のため、私もご一緒します」
「ええ」
メルがいれば話せないことであれば、そのときは彼に席を外してもらえばいいだろう。
クリスティンは教室を出て、旧校舎まで行った。
敷地の端にある、現在使われていない校舎は、静まり返っていた。
手紙には、地下にきてほしいとある。
階段を降りて、指定された教室へと向かう。
擦り切れた廊下を歩いていると、後ろで僅かに気配を感じた。
(──!?)
振り返るとナイフを持った、黒づくめの者がこちらに忍び寄ってくるのが見えた。
クリスティンが身構えると、クリスティンの前にメルが立った。
「クリスティン様、私が」
メルは不審者の手首を蹴り、ナイフを弾く。
彼が男の喉元に拳を叩きこめば、不審者はよろめいた。
「……っ!」
敵わないと悟ったのだろう。
賊は身を翻して階段を駆け上がり、逃げた。
メルは追いかけようとし、立ち止まった。
まだ他に今のような者がいた場合、ここにクリスティンを一人残すことは危険だと判断したのだ。
「今の、一体……」
刃物を手にしていたし、明らかに、危害を加えようとしていた。
メルは不審者が逃げた先を睨み据える。
「誰かわかりません。動きから、私が今まで会った者ではなさそうです」
クリスティンは、地下で待っているソニアに何かあればと、ひどく不安になった。
「ソニア様のところに急ぎましょう」
「クリスティン様……ひょっとすると、これは罠なのでは?」
「罠……?」
「ええ。あの手紙はソニア様のものではなく、偽の手紙だったのでは。この場所に、おびき寄せるための」
確かにその可能性はある。
だが、本当にソニアが書いた手紙で、彼女がこの先で待っているのだとすれば、このまま放って帰ることなどできない。
「そうかもしれないけれど、行って確かめないと」
「わかりました」
それで手紙に書かれてあった教室に二人で行き、扉を開けて中に入った。
誰もいない。
使用されていない机が並んでいる。
まだ来ていないのか、それともやはり……。
すると扉がひとりでに、ガシャン! と閉まった。
クリスティンとメルは、背後を見る。
瞬間、ぐにゃりと視界は歪み、立っていられなくなった。
世界が崩れるような感覚。脳内が揺さぶられ、クリスティンは一気に気を失った。
緩やかに意識が浮上し、瞼を開けると、メルと目が合った。
クリスティンは、床に座り込んで、メルに抱きかかえられていた。
「クリスティン様、大丈夫ですか……?」
「ええ……」
先程の教室。
しかし、床や壁、天井は、奇妙に歪んでいた。
「地震が起きたの……?」
最初に思ったのが、それだった。
「いえ。ここは異空間のようです」
「異空間……」
(?)
手に取り、視線をおとせば、宛名はクリスティンで、差出人はソニアだった。
いつからあったのだろう?
午前中にはなかった、と思う。
(彼女は今、学園にいないのに?)
聖女として、しばらく聖地に行っているのだが、戻ってきたのだろうか?
クリスティンは椅子に座り直し、桃色の封筒から便箋を取り出した。
丸みを帯びた丁寧な字は、ソニアのものである。
手紙には、聖地から一時的に戻ってきた、大事な話がある、今日放課後、旧校舎の教室まで来てほしい、と書かれてあった。
「クリスティン様、どうされたのですか」
椅子に座ったままのクリスティンに、メルがこちらまでやってきて尋ねた。
クリスティンは彼に説明する。
「ソニア様の手紙が机の中にあったの」
「あのかたは、今、聖地では?」
「一時的に、戻ってきたらしいわ」
「手紙を拝見して、よろしいですか?」
クリスティンは頷いて、メルに手紙を渡した。
彼は便箋に目を通す。
「……本当に彼女が書いたものなのでしょうか。前見た字と確かに似ていますが」
「彼女が好きそうなレターセットだし。本人だと思うのだけれど」
クリスティンは椅子から立つ。
「取り敢えず、旧校舎に行ってみる。ソニア様に、わたくしも久しぶりに会いたいわ、彼女の話というのも気になるから」
「念のため、私もご一緒します」
「ええ」
メルがいれば話せないことであれば、そのときは彼に席を外してもらえばいいだろう。
クリスティンは教室を出て、旧校舎まで行った。
敷地の端にある、現在使われていない校舎は、静まり返っていた。
手紙には、地下にきてほしいとある。
階段を降りて、指定された教室へと向かう。
擦り切れた廊下を歩いていると、後ろで僅かに気配を感じた。
(──!?)
振り返るとナイフを持った、黒づくめの者がこちらに忍び寄ってくるのが見えた。
クリスティンが身構えると、クリスティンの前にメルが立った。
「クリスティン様、私が」
メルは不審者の手首を蹴り、ナイフを弾く。
彼が男の喉元に拳を叩きこめば、不審者はよろめいた。
「……っ!」
敵わないと悟ったのだろう。
賊は身を翻して階段を駆け上がり、逃げた。
メルは追いかけようとし、立ち止まった。
まだ他に今のような者がいた場合、ここにクリスティンを一人残すことは危険だと判断したのだ。
「今の、一体……」
刃物を手にしていたし、明らかに、危害を加えようとしていた。
メルは不審者が逃げた先を睨み据える。
「誰かわかりません。動きから、私が今まで会った者ではなさそうです」
クリスティンは、地下で待っているソニアに何かあればと、ひどく不安になった。
「ソニア様のところに急ぎましょう」
「クリスティン様……ひょっとすると、これは罠なのでは?」
「罠……?」
「ええ。あの手紙はソニア様のものではなく、偽の手紙だったのでは。この場所に、おびき寄せるための」
確かにその可能性はある。
だが、本当にソニアが書いた手紙で、彼女がこの先で待っているのだとすれば、このまま放って帰ることなどできない。
「そうかもしれないけれど、行って確かめないと」
「わかりました」
それで手紙に書かれてあった教室に二人で行き、扉を開けて中に入った。
誰もいない。
使用されていない机が並んでいる。
まだ来ていないのか、それともやはり……。
すると扉がひとりでに、ガシャン! と閉まった。
クリスティンとメルは、背後を見る。
瞬間、ぐにゃりと視界は歪み、立っていられなくなった。
世界が崩れるような感覚。脳内が揺さぶられ、クリスティンは一気に気を失った。
緩やかに意識が浮上し、瞼を開けると、メルと目が合った。
クリスティンは、床に座り込んで、メルに抱きかかえられていた。
「クリスティン様、大丈夫ですか……?」
「ええ……」
先程の教室。
しかし、床や壁、天井は、奇妙に歪んでいた。
「地震が起きたの……?」
最初に思ったのが、それだった。
「いえ。ここは異空間のようです」
「異空間……」
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