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第二章
11.記憶1
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「オリヴァー、兄の記憶を戻すことは可能か?」
ルーカスがオリヴァーに問い掛ける。
オリヴァーは眼鏡のブリッジをくいっと押し上げた。
「難しいと思う。操作されたものではなく、物理的な衝撃が頭部に加わって、記憶を失ったのなら」
ルーカスは嘆息した。
「そうか……」
「後で、試してはみるが」
「ああ、頼む。それと話したように生徒会メンバーの記憶は消してほしい。クリスティンがメルのことを想っているということを、彼らの記憶から全て消去してほしいんだ、オリヴァー」
「了解」
オリヴァーはクリスティンとメルに目線をすっと流す。
「二人は恋人同士なのですね」
「はい、そうですわ」
「では、あなたが、帝国の皇太子妃ということ」
彼は、クリスティンに礼をとった。
「その日が訪れるのを待ち遠しく思います」
「どうぞクラスメートとして、普通に接してくださいませ。それこそ周りに怪しまれてしまいますわ」
学園で、メルとルーカスは皇子という身分を秘している。オリヴァーは偽名ではなく、帝国の大貴族の令息という身分を隠していない。だからあまり丁重に扱われると、おかしく思われる。
「しかし、メル様とは……」
オリヴァーは先程のメルの言葉を思い返し、言いかえた。
「──メルとは違い、クリスティン様はファネル公爵家のご令嬢ですし、それなりの礼儀は取らせていただく必要があると思いますが」
「そうしたほうがいいだろう」
ルーカスが相槌を打つ。
オリヴァーはこれからの予定を口にした。
「生徒会のメンバーには、一人一人の運勢を占うと言って、個室に呼びます。そこで記憶を消しましょう。不審に思われないように、全員占います」
「オリヴァーの占いはかなり当たるよ」
クリスティンは、ちょっとわくわくとした。
「だがパワーを使う。生徒会メンバーの占いも本当にするから、一人につき多くは占えないと思うが」
ルーカスの言葉に、オリヴァーはああ、と首肯する。
「メルの幼少時の記憶については、戻るかわかりませんが……それについても、試してみます」
そうして四人は、生徒会室に向かった。
「彼が、ルーカスがこの間話していたハトコか?」
「そうだ、アドレー」
生徒会室に揃っていた役員に、ルーカスがオリヴァーを紹介する。
ルーカスはハトコが留学してくると、事前に話しており、ルーカスの推薦によりオリヴァーは、生徒会役員になることがその場で決まった。
「彼は腕の良い、占星術師でもある」
「へえ」
アドレーは興味を惹かれたようだ。
「腕が良いということは、的中率が高いのか」
「ああ。隣室が空いているし、一人一人、彼に占ってもらえばどうだ?」
「ぜひ、占わせてください」
「面白そうだね」
アドレーが言い、占ってもらう順番を皆で決めた。
「占いなど、信じん」
フンと横を向くラムゼイに、オリヴァーが彼の耳元で何かを囁いた。
「…………」
するとラムゼイは、眉を微かに動かした。
「……皆、みてもらうのなら、みてもらおう」
なぜラムゼイが考えを変えたのかはわからないが、全員、隣室で占ってもらうことになった。
記憶を消すメンバーが、まず一人ずつ入った。
それが済んだあとメルが入室し、クリスティンはメルの次だった。
「クリスティン様、どうぞ、おかけください」
オリヴァーは部屋の奥にいた。
彼と机を挟んだ、向かいの椅子にクリスティンは腰を下ろす。
「皆の記憶は、どうなりました……?」
オリヴァーはにっこりと笑った。
「消えましたよ。クリスティン様が生徒会メンバーに告げた言葉については全員、忘れました」
クリスティンはほっと息を零した。
「よかったわ……」
「今後、彼らがメルに、つらく当たることはないでしょう。ですが、メルの幼少時の記憶については、残念ながら戻りませんでした」
「そうですの……」
最初から、オリヴァーは難しいと話していたし、戻らなかったのなら仕方ない。
とにかく、生徒会の皆の記憶が消えた。
それだけでも幸いだ。
クリスティンは少々気になっていたことを訊ねた。
「そういえばラムゼイ様に先程、何を耳打ちされましたの?」
「彼のオーラについて。見たままを告げました」
なるほど……。
ラムゼイは、『暗』寄りといっているが、実際は『闇』寄り。
たぶんそれを言い当てたのだろう。
「生徒会のメンバーは、珍しい術者が多いので驚きましたよ。あなたを含めね」
ルーカスがオリヴァーに問い掛ける。
オリヴァーは眼鏡のブリッジをくいっと押し上げた。
「難しいと思う。操作されたものではなく、物理的な衝撃が頭部に加わって、記憶を失ったのなら」
ルーカスは嘆息した。
「そうか……」
「後で、試してはみるが」
「ああ、頼む。それと話したように生徒会メンバーの記憶は消してほしい。クリスティンがメルのことを想っているということを、彼らの記憶から全て消去してほしいんだ、オリヴァー」
「了解」
オリヴァーはクリスティンとメルに目線をすっと流す。
「二人は恋人同士なのですね」
「はい、そうですわ」
「では、あなたが、帝国の皇太子妃ということ」
彼は、クリスティンに礼をとった。
「その日が訪れるのを待ち遠しく思います」
「どうぞクラスメートとして、普通に接してくださいませ。それこそ周りに怪しまれてしまいますわ」
学園で、メルとルーカスは皇子という身分を秘している。オリヴァーは偽名ではなく、帝国の大貴族の令息という身分を隠していない。だからあまり丁重に扱われると、おかしく思われる。
「しかし、メル様とは……」
オリヴァーは先程のメルの言葉を思い返し、言いかえた。
「──メルとは違い、クリスティン様はファネル公爵家のご令嬢ですし、それなりの礼儀は取らせていただく必要があると思いますが」
「そうしたほうがいいだろう」
ルーカスが相槌を打つ。
オリヴァーはこれからの予定を口にした。
「生徒会のメンバーには、一人一人の運勢を占うと言って、個室に呼びます。そこで記憶を消しましょう。不審に思われないように、全員占います」
「オリヴァーの占いはかなり当たるよ」
クリスティンは、ちょっとわくわくとした。
「だがパワーを使う。生徒会メンバーの占いも本当にするから、一人につき多くは占えないと思うが」
ルーカスの言葉に、オリヴァーはああ、と首肯する。
「メルの幼少時の記憶については、戻るかわかりませんが……それについても、試してみます」
そうして四人は、生徒会室に向かった。
「彼が、ルーカスがこの間話していたハトコか?」
「そうだ、アドレー」
生徒会室に揃っていた役員に、ルーカスがオリヴァーを紹介する。
ルーカスはハトコが留学してくると、事前に話しており、ルーカスの推薦によりオリヴァーは、生徒会役員になることがその場で決まった。
「彼は腕の良い、占星術師でもある」
「へえ」
アドレーは興味を惹かれたようだ。
「腕が良いということは、的中率が高いのか」
「ああ。隣室が空いているし、一人一人、彼に占ってもらえばどうだ?」
「ぜひ、占わせてください」
「面白そうだね」
アドレーが言い、占ってもらう順番を皆で決めた。
「占いなど、信じん」
フンと横を向くラムゼイに、オリヴァーが彼の耳元で何かを囁いた。
「…………」
するとラムゼイは、眉を微かに動かした。
「……皆、みてもらうのなら、みてもらおう」
なぜラムゼイが考えを変えたのかはわからないが、全員、隣室で占ってもらうことになった。
記憶を消すメンバーが、まず一人ずつ入った。
それが済んだあとメルが入室し、クリスティンはメルの次だった。
「クリスティン様、どうぞ、おかけください」
オリヴァーは部屋の奥にいた。
彼と机を挟んだ、向かいの椅子にクリスティンは腰を下ろす。
「皆の記憶は、どうなりました……?」
オリヴァーはにっこりと笑った。
「消えましたよ。クリスティン様が生徒会メンバーに告げた言葉については全員、忘れました」
クリスティンはほっと息を零した。
「よかったわ……」
「今後、彼らがメルに、つらく当たることはないでしょう。ですが、メルの幼少時の記憶については、残念ながら戻りませんでした」
「そうですの……」
最初から、オリヴァーは難しいと話していたし、戻らなかったのなら仕方ない。
とにかく、生徒会の皆の記憶が消えた。
それだけでも幸いだ。
クリスティンは少々気になっていたことを訊ねた。
「そういえばラムゼイ様に先程、何を耳打ちされましたの?」
「彼のオーラについて。見たままを告げました」
なるほど……。
ラムゼイは、『暗』寄りといっているが、実際は『闇』寄り。
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