闇の悪役令嬢は愛されすぎる

葵川真衣

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第二章

10.帝国から

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 自分はタガが外れれば、暴走する。止められないと自覚している。
 
 結婚後であっても、ある程度は抑える必要があると思うくらい危ないのだ。
 彼女を壊してしまうかもしれない。
 普段の何気ない仕草も、心が疼いて仕方ないのに。あんな瞳でみられたら……。
 
 メルは庭の噴水に入り、頭から水を被った。
 彼女の部屋に戻りたい思いを、懸命に抑える。
 今より魅力的になられたら、始終心配をすることになり、きっと身が持たないだろう。
 なにしろ、彼女を狙う男は枚挙にいとまがなかった。
 特に厄介なのが、生徒会メンバーだ。
 
 王太子アドレーは、クリスティンとの婚約が流れたものの、未だ彼女を諦めていない。
 スウィジンは義理とはいえ兄なのに、クリスティンに恋情を抱いている。
 生徒会という肉食獣の群れのなかに、彼女はいる状態なのだ。
 
 しかし誰より、この自分が最も危険かもしれない。
 今すぐにでも、彼女を攫い、男たちから引き離して、自分だけのものにしたかった。
 クリスティンは、きっとついてきてくれると思う。
 だが後で、彼女が後悔してしまうかもしれない。
 
 今とは全く異なる環境となる。
 冷静に考える時間を置くべきだ。
 取り返しがつかなくなってからでは遅いから。
 彼女を傷つけるようなことになったら、悔やんでも悔やみきれない。

(……でもあんな姿で私を見、あのような言葉をかけられたら……)

 何も考えられなくなってしまう。
 決意も、理性も、消滅しそうになる。
 昼間もスウィジンがこなければ、どんなことをしてしまっていたことか……。
 どれほど魅力があるのかをクリスティンは自覚し、色々控えてほしい。

 今後、もっと自制心を強く持たなければと、メルは思った。



※※※※※



 休日が終わり、クリスティンが学園に戻ると、ルーカスの言っていた彼のハトコが留学してきた。

「オリヴァー・フォルツです」

 彼はクリスティンたちと同じクラスとなった。
 金の髪に、眼鏡の奥で光るスカイブルーの瞳、上品な口元をした少年だ。
 さすが、メルやルーカスのハトコである、美形で長身だ。
 
 放課後、中庭でルーカスから、あらためて彼を紹介された。

「同じクラスになったようだから、もう知っているだろうが、ハトコのオリヴァーだ。ギールッツ帝国の宮廷占星術師で、魔術探偵でもある」
「魔術探偵?」

 クリスティンが尋ねると、オリヴァーがそれに答えた。

「魔術探偵というのは、犯罪をおかした術者、これから犯罪を行おうとする術者を見つけ出す人間のことです」
 
 オリヴァーによれば、魔術探偵は魔力保持者のオーラがみえる。犯罪者は、魂が濁るらしい。
 オリヴァーは、クリスティンとメルにあらためて丁重に挨拶をした。

「これからどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします」

 クリスティンはふと既視感を覚えた。
 
 ──? 
 自分は彼を知って、いる?

(でも……帝国の人だし、今迄会ったことなんてないわ)

 オリヴァーは隣国皇子のハトコ。ゲームに出ていてもおかしくはない。
 これほどの美形なら、攻略対象ではなくとも、それなりに重要キャラだったはず。
『恋と花冠の聖女』に登場していなかったのは確かだ。

 では続編?
 しかし前世、自分は発売前に亡くなった。
 世界観が同じで、隠しルート、メリバルートが印象的といわれる関連ゲームもあり、それは発売済みだったが、未プレイ。

(きっと、気のせいね)
 
 クリスティンはそう結論を出した。
 オリヴァーは、メルを直視する。

「あなたはオレを覚えていないでしょう、メル様」
「敬称はいりません。メルで。私はファネル公爵家の使用人です。敬語も使わないでください。周囲におかしく思われます」

 オリヴァーは戸惑いの表情を浮かべながらも、頷いた。
 メルは続ける。

「幼少時の記憶がなく、私は確かにあなたのことを覚えていません」
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