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第一章
番外編 二人の風邪3
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「気持ちがいいです。さっぱりします」
「よかったわ」
メルとこの間、口づけを交わし、彼のことが好きだとクリスティンは気づいた。
好きな相手が傍にいて、しかも彼は半裸。
鼓動が胸を大きく叩き、頬に朱が散る。
すると彼は手を伸ばして、クリスティンの頬に触れた。
「頬が」
「え……?」
「赤いです」
「そ、そうかしら?」
「はい。私の風邪がうつってしまったのでしょうか」
彼は心配そうに呟いた。クリスティンは首を左右に振る。
「ち、違うの……」
頬が赤いのは、メルを意識したためである。
(……不謹慎だわ)
ひどく焦りつつ、なんとか拭き終えた。メルは新しい服を着、クリスティンに礼を言った。
「ありがとうございました。もうお休みください、クリスティン様。私のもとであまり長く過ごすと、本当に風邪がうつってしまいますから」
「あなたが快復するまでいたいの」
「ですが」
「学園は、明日は休みだもの。傍にいさせて」
一旦クリスティンは部屋を出て、手早く自身の食事と入浴を済ませ、その日はずっと彼の傍についていた。
朝には、メルの風邪は治ったのだが。
──翌日、クリスティンが熱を出し、寝込むこととなった。
「申し訳ありません……」
メルはクリスティンに平身低頭、謝罪する。
「風邪をうつしてしまい……お許し下さい」
項垂れる彼に、寝台にいたクリスティンは半身を起こした。
「メルは悪くないわ。熱が下がったばかりなのだし、わたくしのことはいいから、部屋に戻って」
「お世話をさせてください。私はもう完全に治りました。お願いします」
自分も昨日、看病したかったから、気持ちはよくわかるが、彼の身体が心配だ。
クリスティンは悩んだ末、答えた。
「わかったわ。でもメル、具合が悪くなったら、すぐに休んでね?」
「はい」
もし彼の体調が悪化するようだったら、即休んでもらおう。
──そしてメルに看病してもらうことになったのだが、彼は病み上がりであるのに、甲斐甲斐しく動いてくれた。
彼の作った料理は、格別に美味しく、クリスティンの額に載せた布も、温くなる前に、頻繁に変えてくれた。
首筋を冷やし、喉の渇きを覚えると、飲み物を色々と用意してくれ、適宜部屋に風を通してくれる。
とても快適に過ごせた。
が、申し訳ない。
「ごめんなさいね」
「私がクリスティン様のお世話をするのは当然です。クリスティン様、お身体を拭きます」
クリスティンはびっくりした。
「えっ?」
彼は真剣な顔だ。
「そ、それは、いい。してもらわなくて」
「私はクリスティン様にしていただきました」
「けれど」
クリスティンは身を染めた。
「私に触れられるのは、お嫌でしょうか」
彼は眉を寄せ、尋ねる。
クリスティンは、掛布団を指で摘まんで揉む。
「嫌とかではなく……」
「なら、私に任せてはいただけませんか」
彼はクリスティンの好きな相手だ。
昨日もくらくらしてしまったが、それ以上に意識してしまう。
「お願いします」
が、彼に引く気配はみられない。
「……わかったわ……」
クリスティンは頷いた。
「では拭いてくれる……?」
彼はポケットからハンカチを取り出した。
「はい。それでは、これで私の目を覆っていただけますか?」
「……」
胸元は手で隠すし、クリスティンは彼に信頼をおいている。目隠しなんてしなくても構わない。
「そんなのしなくていいけれど」
「いえ、駄目です」
クリスティンは吐息をついた。いつも彼は生真面目に、こうなのだ。
それでメルの言うとおり、彼の目元をハンカチで覆った。
そのあと、メルは冷たい水に布を浸し、クリスティンの肌を拭いてくれた。
丁寧で慎重だ。肌に直に手が触れないように彼は細心の注意を払っている。
が、好きな相手に優しく拭われ、クリスティンは息を呑みこむ。
(…………)
鼓動は早くなって、熱は高くなりそうである。
「よかったわ」
メルとこの間、口づけを交わし、彼のことが好きだとクリスティンは気づいた。
好きな相手が傍にいて、しかも彼は半裸。
鼓動が胸を大きく叩き、頬に朱が散る。
すると彼は手を伸ばして、クリスティンの頬に触れた。
「頬が」
「え……?」
「赤いです」
「そ、そうかしら?」
「はい。私の風邪がうつってしまったのでしょうか」
彼は心配そうに呟いた。クリスティンは首を左右に振る。
「ち、違うの……」
頬が赤いのは、メルを意識したためである。
(……不謹慎だわ)
ひどく焦りつつ、なんとか拭き終えた。メルは新しい服を着、クリスティンに礼を言った。
「ありがとうございました。もうお休みください、クリスティン様。私のもとであまり長く過ごすと、本当に風邪がうつってしまいますから」
「あなたが快復するまでいたいの」
「ですが」
「学園は、明日は休みだもの。傍にいさせて」
一旦クリスティンは部屋を出て、手早く自身の食事と入浴を済ませ、その日はずっと彼の傍についていた。
朝には、メルの風邪は治ったのだが。
──翌日、クリスティンが熱を出し、寝込むこととなった。
「申し訳ありません……」
メルはクリスティンに平身低頭、謝罪する。
「風邪をうつしてしまい……お許し下さい」
項垂れる彼に、寝台にいたクリスティンは半身を起こした。
「メルは悪くないわ。熱が下がったばかりなのだし、わたくしのことはいいから、部屋に戻って」
「お世話をさせてください。私はもう完全に治りました。お願いします」
自分も昨日、看病したかったから、気持ちはよくわかるが、彼の身体が心配だ。
クリスティンは悩んだ末、答えた。
「わかったわ。でもメル、具合が悪くなったら、すぐに休んでね?」
「はい」
もし彼の体調が悪化するようだったら、即休んでもらおう。
──そしてメルに看病してもらうことになったのだが、彼は病み上がりであるのに、甲斐甲斐しく動いてくれた。
彼の作った料理は、格別に美味しく、クリスティンの額に載せた布も、温くなる前に、頻繁に変えてくれた。
首筋を冷やし、喉の渇きを覚えると、飲み物を色々と用意してくれ、適宜部屋に風を通してくれる。
とても快適に過ごせた。
が、申し訳ない。
「ごめんなさいね」
「私がクリスティン様のお世話をするのは当然です。クリスティン様、お身体を拭きます」
クリスティンはびっくりした。
「えっ?」
彼は真剣な顔だ。
「そ、それは、いい。してもらわなくて」
「私はクリスティン様にしていただきました」
「けれど」
クリスティンは身を染めた。
「私に触れられるのは、お嫌でしょうか」
彼は眉を寄せ、尋ねる。
クリスティンは、掛布団を指で摘まんで揉む。
「嫌とかではなく……」
「なら、私に任せてはいただけませんか」
彼はクリスティンの好きな相手だ。
昨日もくらくらしてしまったが、それ以上に意識してしまう。
「お願いします」
が、彼に引く気配はみられない。
「……わかったわ……」
クリスティンは頷いた。
「では拭いてくれる……?」
彼はポケットからハンカチを取り出した。
「はい。それでは、これで私の目を覆っていただけますか?」
「……」
胸元は手で隠すし、クリスティンは彼に信頼をおいている。目隠しなんてしなくても構わない。
「そんなのしなくていいけれど」
「いえ、駄目です」
クリスティンは吐息をついた。いつも彼は生真面目に、こうなのだ。
それでメルの言うとおり、彼の目元をハンカチで覆った。
そのあと、メルは冷たい水に布を浸し、クリスティンの肌を拭いてくれた。
丁寧で慎重だ。肌に直に手が触れないように彼は細心の注意を払っている。
が、好きな相手に優しく拭われ、クリスティンは息を呑みこむ。
(…………)
鼓動は早くなって、熱は高くなりそうである。
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