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第一章
48.告白2
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「治療のときも、焦げるような気持ちで、あなたに触れていました……。申し訳ありません……」
恥じるように俯いたメルの手に、クリスティンは自分の手を重ねた。
彼は顔を上げる。
「クリスティン様……」
「あなたと口づけをしているとき、わたくし、その甘さを味わっていたわ……」
「治療としてではなく、あなたに触れても……?」
頷くと、彼はクリスティンの顎に指を添え、頬を傾け唇にキスをした。
優しく触れるだけの口づけを解き、メルは艶やかに光る双眸で、クリスティンを見つめた。
「クリスティン様……ドレスが濡れてしまいます……私は先程噴水におちたので……」
「わたくしはあなたにもっと近づきたい」
次の瞬間、息も止まるほど抱きしめられ激しく口づけられた。抉るように口内を探られる。
治療でしていた口づけとは違う、情熱のこもったキスだった。
──すると、その場に足音が響いた。
クリスティンは膝が震え、腰が砕けて、動けない。
(どうしよう)
「……隠れて。人影が立ち去るまで」
クリスティンが言い、メルが木の裏側に移動するのと、ひとつの声が聞こえたのが同時だった。
「クリスティン?」
クリスティンはそちらに視線を向けた。
「ルーカス様」
木々の間から現れたのは物静かで気品あふれるルーカスだった。
「こんなところで、どうした?」
彼は繊細な眉を寄せる。
木の裏にメルが隠れたことには気づいていないようだ。
ルーカスがこちらに来ようとするので、クリスティンは手を前に突き出して必死でそれを止めた。
「ルーカス様、わたくし、一人で涼んでいたいのです」
「顔が赤いようだけど……」
「ええ。アルコールを飲んで、暑くて。ルーカス様は、どうしてこちらに」
(誰もこないような場所なのに)
「大広間にいても仕方ないから、庭を歩いていたんだ。君とアドレーの婚約を祝うような夜会になど、いても楽しくないから」
「え?」
ルーカスは横を向いた。
「……いや。この庭は美しいから、ずっと歩いていたら迷ってしまって。クリスティン、体調が悪いのか?」
「ええ少し。それでここで涼んでいるのです。ルーカス様ここから──」
「大丈夫か」
彼はクリスティンの傍まで近寄ってくる。
木の後ろには噴水におちて上半身裸のメルがいるのに。クリスティンは俯いた。
「クリスティン……?」
美しい眉目のルーカスは喉を上下に動かし、クリスティンを見ていた。
「ルーカス様……?」
彼は視線を彷徨わせ、クリスティンの胸元へと指先を向ける。
「ドレス」
──ドレスが少々着崩れている。
焦ってクリスティンは直そうとする。
しかし腰は砕けているし、メルのことを気づかれたらと動揺し、震えうまくいかない。
「俺が直そう」
ルーカスはそう言って、頬を紅潮させ、そのまま固まってしまった。
「──俺がこの間読んだ本に、異性の『風』術者が『星』術者の心臓の上に手を置き解し、唇を合わせれば、『星』術者の体力が快復するとあった。君は『星』で俺は『風』」
それはそうだが……それがどうしたのだろう。
「俺は君のことを……好きだった。アドレーに渡したくはない」
彼が更に近づいてきて、クリスティンは後ずさった。
「ルーカス様?」
「本の内容を試そう」
(試す?)
クリスティンは青ざめた。
「何をおっしゃっているのです。こんなところに、こうして二人でいれば誤解されますし、あなたもお困りになるでしょう。わたくしの体調を案じたメルが薬を持ってここにまいります。今すぐ大広間にお戻りください」
「困らない。君は以前アドレーの婚約者だったが、今は正式に婚約してはいない。クリスティン、俺とギールッツ帝国に来てくれ。俺と結婚してほしい」
クリスティンは唖然とする。
「君をずっとみていた。好きだったんだ」
ルーカスはクリスティンの肩に手をのせる。
「俺と君は風と星。相性がいい。俺が君に触れ、口づければ、きっと君の体力は快復する。それを今、証明──」
言葉の途中で、ルーカスは横に吹き飛ばされた。
木の後ろから出てきたメルが、ルーカスを殴ったのである。
恥じるように俯いたメルの手に、クリスティンは自分の手を重ねた。
彼は顔を上げる。
「クリスティン様……」
「あなたと口づけをしているとき、わたくし、その甘さを味わっていたわ……」
「治療としてではなく、あなたに触れても……?」
頷くと、彼はクリスティンの顎に指を添え、頬を傾け唇にキスをした。
優しく触れるだけの口づけを解き、メルは艶やかに光る双眸で、クリスティンを見つめた。
「クリスティン様……ドレスが濡れてしまいます……私は先程噴水におちたので……」
「わたくしはあなたにもっと近づきたい」
次の瞬間、息も止まるほど抱きしめられ激しく口づけられた。抉るように口内を探られる。
治療でしていた口づけとは違う、情熱のこもったキスだった。
──すると、その場に足音が響いた。
クリスティンは膝が震え、腰が砕けて、動けない。
(どうしよう)
「……隠れて。人影が立ち去るまで」
クリスティンが言い、メルが木の裏側に移動するのと、ひとつの声が聞こえたのが同時だった。
「クリスティン?」
クリスティンはそちらに視線を向けた。
「ルーカス様」
木々の間から現れたのは物静かで気品あふれるルーカスだった。
「こんなところで、どうした?」
彼は繊細な眉を寄せる。
木の裏にメルが隠れたことには気づいていないようだ。
ルーカスがこちらに来ようとするので、クリスティンは手を前に突き出して必死でそれを止めた。
「ルーカス様、わたくし、一人で涼んでいたいのです」
「顔が赤いようだけど……」
「ええ。アルコールを飲んで、暑くて。ルーカス様は、どうしてこちらに」
(誰もこないような場所なのに)
「大広間にいても仕方ないから、庭を歩いていたんだ。君とアドレーの婚約を祝うような夜会になど、いても楽しくないから」
「え?」
ルーカスは横を向いた。
「……いや。この庭は美しいから、ずっと歩いていたら迷ってしまって。クリスティン、体調が悪いのか?」
「ええ少し。それでここで涼んでいるのです。ルーカス様ここから──」
「大丈夫か」
彼はクリスティンの傍まで近寄ってくる。
木の後ろには噴水におちて上半身裸のメルがいるのに。クリスティンは俯いた。
「クリスティン……?」
美しい眉目のルーカスは喉を上下に動かし、クリスティンを見ていた。
「ルーカス様……?」
彼は視線を彷徨わせ、クリスティンの胸元へと指先を向ける。
「ドレス」
──ドレスが少々着崩れている。
焦ってクリスティンは直そうとする。
しかし腰は砕けているし、メルのことを気づかれたらと動揺し、震えうまくいかない。
「俺が直そう」
ルーカスはそう言って、頬を紅潮させ、そのまま固まってしまった。
「──俺がこの間読んだ本に、異性の『風』術者が『星』術者の心臓の上に手を置き解し、唇を合わせれば、『星』術者の体力が快復するとあった。君は『星』で俺は『風』」
それはそうだが……それがどうしたのだろう。
「俺は君のことを……好きだった。アドレーに渡したくはない」
彼が更に近づいてきて、クリスティンは後ずさった。
「ルーカス様?」
「本の内容を試そう」
(試す?)
クリスティンは青ざめた。
「何をおっしゃっているのです。こんなところに、こうして二人でいれば誤解されますし、あなたもお困りになるでしょう。わたくしの体調を案じたメルが薬を持ってここにまいります。今すぐ大広間にお戻りください」
「困らない。君は以前アドレーの婚約者だったが、今は正式に婚約してはいない。クリスティン、俺とギールッツ帝国に来てくれ。俺と結婚してほしい」
クリスティンは唖然とする。
「君をずっとみていた。好きだったんだ」
ルーカスはクリスティンの肩に手をのせる。
「俺と君は風と星。相性がいい。俺が君に触れ、口づければ、きっと君の体力は快復する。それを今、証明──」
言葉の途中で、ルーカスは横に吹き飛ばされた。
木の後ろから出てきたメルが、ルーカスを殴ったのである。
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