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第一章
39.覚醒2
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「クリスティン様、お呼び立てし、申し訳ありません」
「いえ……」
一体、何の話だろう……。
「ずっとお話ししたかったんです。でも学園になかなか来ることができず。……突然、色々なことが起きて……」
「ソニアさん、いえ、もうそんな呼び方失礼ですわね。ソニア様、おめでとうございます。アドレー様とご婚約なさるのですね」
「クリスティン様、申し訳ありません!」
クリスティンは目を丸くした。
ソニアは暗い顔できゅっと唇を噛みしめる。
「……ソニア様、何を謝られているの?」
「わたし、王太子殿下と婚約なんてしたくないですし、しません! でも王宮に呼ばれて、突然こんなことになって……さぞかしクリスティン様はわたしをお怨みですよね……」
感謝しているくらいである。
「ソニア様、顔をお上げになって」
クリスティンはソニアの肩に手を置いた。
「世が世なら、あなたは王女様なのですし、そんな簡単に頭を下げたりしてはいけません」
「いえ、クリスティン様……」
「ソニア様。わたくし、王太子殿下とあなたの婚約を、心から祝福しているのですわ」
「いいえ、いいえ、嘘をつかないでください、クリスティン様! 本当は傷ついてらっしゃるんでしょう!? わたし、大好きなクリスティン様を傷つけてしまって……!」
「傷ついてなどいません。謝る必要なんてありませんわ。わたくし、アドレー様と結婚することはないと思っていたのです」
「え……」
ソニアは目を見開く。夜会の日に怯え、婚約解消を願ってきた。記憶が戻ってから彼と結婚したいなんて考えたこともない。
「婚約が白紙になって、ほっとしているんですの。王太子殿下はわたくしには過ぎたお相手で、昔から彼といると魅力的に思うより、恐ろしく感じるほうが勝ってしまっていたのですわ」
「クリスティン様は誰よりも、この国の王妃となられるにふさわしいひとです!」
そう言い切るソニアにクリスティンは溜息を零す。
「ふさわしくなどありませんわ。わたくし、そんな立場など望んでおりませんし。どうか何もお気になさらず、アドレー様とご結婚なさってくださいませ」
「わたし、結婚しません!」
クリスティンが瞬くと、彼女は唇をわななかせて、訴える。
「クリスティン様が以前婚約していたかたと結婚するなんて、相手が誰であっても無理です!」
「ソニア様……」
クリスティンは困惑する。
クリスティンとしては、早く二人に本当に幸せになってもらいたい。安心したい。断罪イベントを回避したいところなのだ。
「……ソニア様、今申し上げたとおり、わたくしのことはお気になさらず。心から祝福いたしますので……」
するとソニアはじわっと涙を浮かべた。クリスティンはぎょっとする。
「どうなさったの……?」
ソニアは指で涙を拭う。
「すみません。わたし、クリスティン様が初恋で……」
クリスティンは背に冷たい汗が滲んだ。
「一方的な片思いですが、クリスティン様から祝福されると言われると悲しくて……。わたしが悪いんです。クリスティン様に、こんな気持ちを抱いてしまったわたしが……っ!」
ソニアはぽろぽろと大粒の涙を流す。
(──どうしたらいいの……)
クリスティンは狼狽した。彼女は嗚咽を漏らす。
「……王太子殿下とのご結婚を望まないのは、ひょっとしてお好きなかたがいるからなのですか、クリスティン様……?」
ソニアは鼻をすする。
「もしそうなら、おっしゃってください。わたし、そのかたとクリスティン様が結ばれるように、お力になりますから。わたし、『花冠の聖女』のようですが、実感なんてまるでありません。ただあるのは、クリスティン様への想いだけなんです。『花冠の聖女』として、クリスティン様と王太子殿下の結婚を永久に白紙にすることは可能です。それだけの力があるようで、わたしが陛下に申し上げれば、クリスティン様は解放されます。わたし、クリスティン様の味方です、永遠に」
涙を頬に流しながら、真っ赤に染まった目で、ソニアは言う。
「ソニア様……」
彼女の瞳は昏くきらきらと輝いていて綺麗だが、怖かった。
「この身は、クリスティン様と国に捧げます。生涯独身を貫きます」
(──ヒロインって……これほど激しかったかしら……?)
「いえ……」
一体、何の話だろう……。
「ずっとお話ししたかったんです。でも学園になかなか来ることができず。……突然、色々なことが起きて……」
「ソニアさん、いえ、もうそんな呼び方失礼ですわね。ソニア様、おめでとうございます。アドレー様とご婚約なさるのですね」
「クリスティン様、申し訳ありません!」
クリスティンは目を丸くした。
ソニアは暗い顔できゅっと唇を噛みしめる。
「……ソニア様、何を謝られているの?」
「わたし、王太子殿下と婚約なんてしたくないですし、しません! でも王宮に呼ばれて、突然こんなことになって……さぞかしクリスティン様はわたしをお怨みですよね……」
感謝しているくらいである。
「ソニア様、顔をお上げになって」
クリスティンはソニアの肩に手を置いた。
「世が世なら、あなたは王女様なのですし、そんな簡単に頭を下げたりしてはいけません」
「いえ、クリスティン様……」
「ソニア様。わたくし、王太子殿下とあなたの婚約を、心から祝福しているのですわ」
「いいえ、いいえ、嘘をつかないでください、クリスティン様! 本当は傷ついてらっしゃるんでしょう!? わたし、大好きなクリスティン様を傷つけてしまって……!」
「傷ついてなどいません。謝る必要なんてありませんわ。わたくし、アドレー様と結婚することはないと思っていたのです」
「え……」
ソニアは目を見開く。夜会の日に怯え、婚約解消を願ってきた。記憶が戻ってから彼と結婚したいなんて考えたこともない。
「婚約が白紙になって、ほっとしているんですの。王太子殿下はわたくしには過ぎたお相手で、昔から彼といると魅力的に思うより、恐ろしく感じるほうが勝ってしまっていたのですわ」
「クリスティン様は誰よりも、この国の王妃となられるにふさわしいひとです!」
そう言い切るソニアにクリスティンは溜息を零す。
「ふさわしくなどありませんわ。わたくし、そんな立場など望んでおりませんし。どうか何もお気になさらず、アドレー様とご結婚なさってくださいませ」
「わたし、結婚しません!」
クリスティンが瞬くと、彼女は唇をわななかせて、訴える。
「クリスティン様が以前婚約していたかたと結婚するなんて、相手が誰であっても無理です!」
「ソニア様……」
クリスティンは困惑する。
クリスティンとしては、早く二人に本当に幸せになってもらいたい。安心したい。断罪イベントを回避したいところなのだ。
「……ソニア様、今申し上げたとおり、わたくしのことはお気になさらず。心から祝福いたしますので……」
するとソニアはじわっと涙を浮かべた。クリスティンはぎょっとする。
「どうなさったの……?」
ソニアは指で涙を拭う。
「すみません。わたし、クリスティン様が初恋で……」
クリスティンは背に冷たい汗が滲んだ。
「一方的な片思いですが、クリスティン様から祝福されると言われると悲しくて……。わたしが悪いんです。クリスティン様に、こんな気持ちを抱いてしまったわたしが……っ!」
ソニアはぽろぽろと大粒の涙を流す。
(──どうしたらいいの……)
クリスティンは狼狽した。彼女は嗚咽を漏らす。
「……王太子殿下とのご結婚を望まないのは、ひょっとしてお好きなかたがいるからなのですか、クリスティン様……?」
ソニアは鼻をすする。
「もしそうなら、おっしゃってください。わたし、そのかたとクリスティン様が結ばれるように、お力になりますから。わたし、『花冠の聖女』のようですが、実感なんてまるでありません。ただあるのは、クリスティン様への想いだけなんです。『花冠の聖女』として、クリスティン様と王太子殿下の結婚を永久に白紙にすることは可能です。それだけの力があるようで、わたしが陛下に申し上げれば、クリスティン様は解放されます。わたし、クリスティン様の味方です、永遠に」
涙を頬に流しながら、真っ赤に染まった目で、ソニアは言う。
「ソニア様……」
彼女の瞳は昏くきらきらと輝いていて綺麗だが、怖かった。
「この身は、クリスティン様と国に捧げます。生涯独身を貫きます」
(──ヒロインって……これほど激しかったかしら……?)
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