闇の悪役令嬢は愛されすぎる

葵川真衣

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第一章

24.願い2

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「そうなるよう、頑張っているつもりよ」
「それでしたら、今日のようなことがあってはいけませんので、私を常に傍におつけください」
「わかったわ」
「願いを叶えてくださって、ありがとうございます。そろそろ夕食ですので、階下におりましょうか」
 
 そう言ってメルは立ち上がろうとする。

「待って。それはお願い事とは言わないわよ。わたくしに対する心配じゃないの。そうではなくて、わたくしはあなたにお礼をしたいの。欲しいものとかはないかしら? 遠慮なくなんでも言ってちょうだい」
「なんでも……」
「そう」
 
 彼はじっとクリスティンを見る。

「では……。来月、街で花祭りが開催されますよね」
「ええ」
 
 リューファス王国は花を神聖視しており、来月には王都で花祭りが盛大に行われる。
 色とりどりの花々が街中に飾られ、ロマンティックな華やぎをみせ、恋人達のお祭りともいわれる。
 
「クリスティン様と一緒に見に行きたいです」
「花祭りに?」
「はい。聞いていただけますか?」
「もちろんいいけれど」

 クリスティンも花祭りに、メルと行ってみたいと思っていたのだ。
 ゲームでも花祭りのイベントはあった。
 ヒロインはそのとき、最も好感度の高いキャラと街に出掛けるのである。

「ですが……きっとアドレー様がクリスティン様をお誘いになります」
「彼はわたくしを誘わないと思うわ。わたくしもアドレー様と行きたくないし。お願い事は、花祭りに出掛ける、本当にそれでいいの?」
「私と花祭りに一緒に行っていただきたいです」
「ええ、一緒に行きたい」
「ありがとうございます!」
 
 彼は頬を綻ばせて笑顔になった。
 感情を表に出すことが少ないメルにしては珍しい。観察するように見てしまう。

(やっぱり綺麗……)
 
 笑顔になると特に。

「? どうかされましたか」
「いいえ、なんでもないの」
 
 男にしておくには勿体ないほど美しいと思ったなんて、言えない。
 それに彼の笑顔にどきどきと心臓がやけに音を立て、自分の気持ちがどういったものなのか、そのときはよくわからなかった。 


◇◇◇◇◇


 図書館で勉強する際、自分の『星』だけではなく、他の魔力で心身を削られる者にも効く薬を探った。
 ルーカスも魔力で支障が出ているようだから。
 フレッドに勧められた本を読み、クリスティンは効果のある薬草を見つけ出した。
 実家に頼んで取り寄せ、学園内にひそかに作った薬草園で育てることにした。


◇◇◇◇◇


「どうした、クリスティン」
「ラムゼイ様」
 
 生徒会室のある東館の一階には、ラムゼイ専用の研究室がある。
 さすが貴族社会においてファネル公爵家と権力を二分する、エヴァット公爵家の人間である。
 学園に設備の整った専用の研究室を用意させていた。


「わたくし、ラムゼイ様のお力をお借りしたくてこちらに」
 
 メルからラムゼイはこの研究室にいることが多いとの情報を仕入れ、やってきた。
 ゲームでは研究室については何も語られていない。

「入学後、君がオレに頼み事をすることはなかったが。どういった内容だ?」

 クリスティンはすうと息を吸い込む。

「各魔力の術者専用の薬を、わたくし作りたいのですわ。困っているひとがいるようですので。お力をお貸しいただけないでしょうか?」
 
 ラムゼイは顎に手を置き、クリスティンを眺めた。

「君には、他にすることがあるのでは? 生徒会役員となったのに、近侍に半分は来させているだろう。君を生徒会に入れた意味がない。アドレーは君に会いたくて入れたんだ。体調は以前に比べ改善しているはずだ」
 
 ラムゼイは目を細める。
 アドレーは婚約者の義務として、クリスティンに会わなければと思い、生徒会に入れたのか。迷惑な話だ。体調は確かに改善しているが。

「君が自ら、生徒会活動に参加すること。私に君の研究を続けさせること。その二つの要求の呑むのであれば、頼みを聞いてやらんこともない」
 クリスティンはぐっと息を詰める。

(仕方ない)

「……わかりました、生徒会になるべく参加するようにいたしますわ」
 
 三回に二回は出るように心がけよう。

「研究もどうぞなさってくださいませ」
 
 ラムゼイは口角を上げる。

「ではこの研究室に通うように」
「はい」

 ラムゼイは微笑んだあと、ふっと尋ねた。

「来月の休みに花祭りがあるが、君はその日、予定はあるのか?」
「ありますわ」
 
 メルと花祭りに出かける。
 クリスティンはそれを楽しみにしていた。
 メルにお礼するはずだったのに、クリスティンのほうが、彼と見て回るのを心待ちにしている。

「それが何か?」
「いや、予定があるのならいい」
 
 休みの日に研究室に来るように言われるのかと一瞬焦ったが、そうではなくてほっと胸をなでおろした。
 
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