20 / 91
第一章
20.図書館にて
しおりを挟む
「新入生代表に選ばれたということは、あなたがとても優秀だということでしょう。素晴らしいですわ。やっかむ者の言葉など、気にすることはありません」
彼は、瞳を潤ませ、眼差しを伏せた。
「ありがとうございます……」
栗色の髪に、淡いブルーの瞳、すっとした鼻、爽やかな口元。
彼はイケメンで、可愛らしい。
母性本能を擽ると、プレイヤーに人気があった。
(攻略対象ではないのを、彼も残念がられていたわね)
フレッドはヒロインと親しい人物。
攻略対象でなくとも、関わり合いになるべきではない。
さっきは無意識に身体が動いてしまった。
クリスティンは指で髪を耳にかけた。
「ではわたくし、図書館に参りますので。ごきげんよう」
「図書館で勉強を?」
「ええ」
「それでしたら、ぼくもご一緒してもよいですか?」
クリスティンは困った。あの場所から彼を連れ出すため、ああ言ったが、ソニアの友人の彼と接触をもつべきではないのだ。
「ぼくも図書館に行くつもりだったのです。よろしければ、本を探したり、クリスティン様のお役に立ちたいです」
言い募られて、クリスティンは弱った。
「でも……」
「お願いします。邪魔は決してしませんから」
真剣に必死に言うフレッドにクリスティンは遂には折れた。
「……わかりました」
助けられた借りを返したいと彼は思っているのだ。
本探しを手伝ってもらえば、それで彼も気が晴れるだろう。
クリスティンはフレッドと共に大きな図書館に入った。
「『星』魔力に関しての本を探しているんです」
「なら二階ですよ」
まだ入学してそれほど経っていないのに、彼は中を熟知しているようだ。
「あなたはここによくいらっしゃるのね」
「はい。ほぼ毎日来ています」
ゲームでもそうだった。
彼の特等席が、二階奥の窓際にあるのだ。
広い館内を、彼は泳ぐように進んで行き、その後にクリスティンも続いた。
「この辺りです」
彼は立ち止まり、本棚から一冊の本を取り出した。
「これには珍しい内容が多く載っていましたよ」
「ありがとう。早速読んでみますわ」
クリスティンは彼から本を受け取る。
系列化されてはいるが、自分一人なら、探すのにかなり時間がかかっただろう。
フレッドはにこにこと微笑む。
「静かでいい席があります。窓の外も綺麗な緑が広がっていて。人が少なく穴場なのです」
フレッドに案内されて行くと、近くに回転式本棚のある、ひんやりと滑らかなオークの机の前で彼は足を止めた。
傍には大きな窓があり、その席はゲームの世界で彼が使っていた場所であった。
(スチルにもあった……)
今の自分は悪役令嬢で、全く立場は違うけれど、少し懐かしく思う。
クリスティンは彼の隣の席に座った。
渡してもらった本は、彼が言うように、今まで知らなかった珍しい内容が記されていた。
じっと集中して読み込み、理解できないところがあると、それに気づいたフレッドが詳しく説明をしてくれる。
クリスティンは彼の知識量に舌を巻く。
「あなたは『大地』の術者ですわよね? 異なる魔力なのに、お詳しいんですのね」
「魔力の勉強が好きなのです。放課後いつも図書館に来ていますので、よければ一緒に、これからも勉強しませんか」
「ええ」
それでクリスティンは週一、図書館で彼と魔力について学ぶことになった。
「ぼくのことはフレッドと呼んでください」
「わたくしのこともクリスティンでよいですわ」
「いえ、クリスティン様はファネル公爵家のご令嬢です。ぼくとは身分が違います。王太子殿下の婚約者でらっしゃいますし」
彼は伯爵家の令息であるが、謙虚にそう言う。
充実した時間を過ごし、陽も暮れる頃、二人は椅子から立った。
寮へと歩きながら、彼は人懐っこく笑む。
「ソニアが、クリスティン様はお優しいかただと話していましたが、本当でした。あ、ソニアっていうのはぼくの友人で、クリスティン様とも同じクラスで」
「わたくし、そのかたに何もしていないと思うのですけれど」
「講堂で勢いよくぶつかっても、怒らないでいてくれて、クラスが同じになって挨拶をしたら、優しく微笑んでくれたと」
クリスティンは、どうしても気にかかってソニアを見てしまう。
彼女はいつも、色々と危なっかしいのだ。
「ソニアは貴族ではないため、からかわれることもあって。でもクリスティン様は一切そういう態度をとられないと言っていました」
フレッドは彼女を心配しているのである。彼自身も辛い目に遇っていながら、優しい。
「陰口なんて気にすることないですわ。ソニアさんもあなたも。悪いことなんて、何もしていないのですから」
「ありがとうございます。ソニアにも伝えておきます」
互いの寮の分かれ道に差し掛かり、二人は立ち止まった。
「クリスティン様、今日は本当にありがとうございました」
「いいえ、こちらこそありがとうございました」
クリスティンは彼と別れ、寮に入ってから、深く息をついた。
(──ああ)
ソニアの友人フレッドに近づいてしまった。
ヒロインやその周辺とは距離を置くべきなのに。
しかし放っておけなかったし、良い人物だったので、一緒に学ぶ約束までしてしまった……!
クリスティンは頭を抱え、階段を上る。
(……あまり、考えないようにしましょう)
断罪されるような行為を、しなければよいはず……。
学園内で目立つ行動をとること自体、控えようと、クリスティンは決意をあらたにした。
彼は、瞳を潤ませ、眼差しを伏せた。
「ありがとうございます……」
栗色の髪に、淡いブルーの瞳、すっとした鼻、爽やかな口元。
彼はイケメンで、可愛らしい。
母性本能を擽ると、プレイヤーに人気があった。
(攻略対象ではないのを、彼も残念がられていたわね)
フレッドはヒロインと親しい人物。
攻略対象でなくとも、関わり合いになるべきではない。
さっきは無意識に身体が動いてしまった。
クリスティンは指で髪を耳にかけた。
「ではわたくし、図書館に参りますので。ごきげんよう」
「図書館で勉強を?」
「ええ」
「それでしたら、ぼくもご一緒してもよいですか?」
クリスティンは困った。あの場所から彼を連れ出すため、ああ言ったが、ソニアの友人の彼と接触をもつべきではないのだ。
「ぼくも図書館に行くつもりだったのです。よろしければ、本を探したり、クリスティン様のお役に立ちたいです」
言い募られて、クリスティンは弱った。
「でも……」
「お願いします。邪魔は決してしませんから」
真剣に必死に言うフレッドにクリスティンは遂には折れた。
「……わかりました」
助けられた借りを返したいと彼は思っているのだ。
本探しを手伝ってもらえば、それで彼も気が晴れるだろう。
クリスティンはフレッドと共に大きな図書館に入った。
「『星』魔力に関しての本を探しているんです」
「なら二階ですよ」
まだ入学してそれほど経っていないのに、彼は中を熟知しているようだ。
「あなたはここによくいらっしゃるのね」
「はい。ほぼ毎日来ています」
ゲームでもそうだった。
彼の特等席が、二階奥の窓際にあるのだ。
広い館内を、彼は泳ぐように進んで行き、その後にクリスティンも続いた。
「この辺りです」
彼は立ち止まり、本棚から一冊の本を取り出した。
「これには珍しい内容が多く載っていましたよ」
「ありがとう。早速読んでみますわ」
クリスティンは彼から本を受け取る。
系列化されてはいるが、自分一人なら、探すのにかなり時間がかかっただろう。
フレッドはにこにこと微笑む。
「静かでいい席があります。窓の外も綺麗な緑が広がっていて。人が少なく穴場なのです」
フレッドに案内されて行くと、近くに回転式本棚のある、ひんやりと滑らかなオークの机の前で彼は足を止めた。
傍には大きな窓があり、その席はゲームの世界で彼が使っていた場所であった。
(スチルにもあった……)
今の自分は悪役令嬢で、全く立場は違うけれど、少し懐かしく思う。
クリスティンは彼の隣の席に座った。
渡してもらった本は、彼が言うように、今まで知らなかった珍しい内容が記されていた。
じっと集中して読み込み、理解できないところがあると、それに気づいたフレッドが詳しく説明をしてくれる。
クリスティンは彼の知識量に舌を巻く。
「あなたは『大地』の術者ですわよね? 異なる魔力なのに、お詳しいんですのね」
「魔力の勉強が好きなのです。放課後いつも図書館に来ていますので、よければ一緒に、これからも勉強しませんか」
「ええ」
それでクリスティンは週一、図書館で彼と魔力について学ぶことになった。
「ぼくのことはフレッドと呼んでください」
「わたくしのこともクリスティンでよいですわ」
「いえ、クリスティン様はファネル公爵家のご令嬢です。ぼくとは身分が違います。王太子殿下の婚約者でらっしゃいますし」
彼は伯爵家の令息であるが、謙虚にそう言う。
充実した時間を過ごし、陽も暮れる頃、二人は椅子から立った。
寮へと歩きながら、彼は人懐っこく笑む。
「ソニアが、クリスティン様はお優しいかただと話していましたが、本当でした。あ、ソニアっていうのはぼくの友人で、クリスティン様とも同じクラスで」
「わたくし、そのかたに何もしていないと思うのですけれど」
「講堂で勢いよくぶつかっても、怒らないでいてくれて、クラスが同じになって挨拶をしたら、優しく微笑んでくれたと」
クリスティンは、どうしても気にかかってソニアを見てしまう。
彼女はいつも、色々と危なっかしいのだ。
「ソニアは貴族ではないため、からかわれることもあって。でもクリスティン様は一切そういう態度をとられないと言っていました」
フレッドは彼女を心配しているのである。彼自身も辛い目に遇っていながら、優しい。
「陰口なんて気にすることないですわ。ソニアさんもあなたも。悪いことなんて、何もしていないのですから」
「ありがとうございます。ソニアにも伝えておきます」
互いの寮の分かれ道に差し掛かり、二人は立ち止まった。
「クリスティン様、今日は本当にありがとうございました」
「いいえ、こちらこそありがとうございました」
クリスティンは彼と別れ、寮に入ってから、深く息をついた。
(──ああ)
ソニアの友人フレッドに近づいてしまった。
ヒロインやその周辺とは距離を置くべきなのに。
しかし放っておけなかったし、良い人物だったので、一緒に学ぶ約束までしてしまった……!
クリスティンは頭を抱え、階段を上る。
(……あまり、考えないようにしましょう)
断罪されるような行為を、しなければよいはず……。
学園内で目立つ行動をとること自体、控えようと、クリスティンは決意をあらたにした。
70
お気に入りに追加
3,566
あなたにおすすめの小説

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる