闇の悪役令嬢は愛されすぎる

葵川真衣

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第一章

17.学園入学の日2

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 騒がしかった講堂内は、しんと静まる。
 お祝いの言葉、教育方針、激励など学園長の長い話が終わると、新入生の宣誓となった。
 フレッドが行っている。
 緊張しつつも、姿勢を正し、頑張っている。
 
 在校生代表は、アドレーである。
 通常、最上級生が行うが、王太子であるアドレーは生徒会長も在校生代表も務めている。
 壇上のアドレーに、皆は羨望の眼差しを送っていた。
 クリスティンはどうしても気になって、斜め前方のソニアに視線を向けてしまう。
 彼女は、肩に力を入れて座っている。
 その姿をみて、こちらまで緊張してきた。
 ソニアの心は不安でいっぱいで、今日初めて、この国の王太子が生徒会長をしていることを知るのである。
 彼女はここでアドレーと目が合うはず……。

 クリスティンは、今度は壇上に立つアドレーのほうへ、視線を移動させた。 
 すると彼はこちらを直視していて、ばちっと目が合った。
 アドレーは、口角を上げてクリスティンに微笑みかける。
 それに気づいた新入生が、ちらちらとクリスティンのほうを見る。

「王太子殿下の……」
「ああ、婚約者であられる……」

 ぼそぼそ周囲で囁かれる言葉に、クリスティンは心の中で答えた。

(今は婚約者でも、約一年後、こっぴどく婚約破棄されます)


◇◇◇◇◇


「アドレー様、ずっとクリスティン様のほうを見ていましたね」
 
 講堂をあとにして、メルが溜息交じりに言った。

「目が合ってびっくりしてしまったわ」

 別にアドレーはこちらをずっと見ていたというわけではないだろうけど。

 
 同じクラスにはヒロインのソニアも、魔術剣士リーも、飛び入学したフレッドも、メルもいた。
 攻略対象の王太子アドレー、彼の参謀ラムゼイ、義兄スウィジンは一学年上なので、クラスは違う。
 
 
 オリエンテーションが終わり、教室を出ると、クリスティンはヒロインに突如呼び止められた。
 
「あの!」

 びくっとクリスティンは肩が揺れる。

「……何でしょう……?」

 心臓に悪い。

「式のときは、失礼しました。ぶつかってしまって」
「いいえ、お気になさらないで」

 ヒロインは、じっとクリスティンを仰ぐ。

「ええとわたし、ソニア・ブローンといいます。同じクラスになりましたし、これからよろしくお願いします!」
 
 名前はもちろん、経歴も全て知っている。

「クリスティン・ファネルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
 
 彼女に極力関わらず、存在感を消して三年間を過ごすつもりだ。

(王太子の婚約者ということでただでさえ目立ってしまうのだから。行動には気を付けなければ……)

 女王様のように振る舞って、気に食わない人間、特にヒロインをいびっていたゲームのような真似をする気は一切ない。


 クリスティンはメルと教室を出て、東館の三階へと向かった。
 ぎゅっと胸の前で両の手を握りしめる。

「これから何事もなく過ぎてくれればよいのだけれど……」

 メルはくすっと笑う。

「大丈夫ですよ。あの少女よりクリスティン様のほうが何倍も魅力的ではないですか。はるかにクリスティン様が勝っています」
 
 贔屓目で、当然とばかりにそう言うメルに、クリスティンは淡く息をついた。

「勝ち負けではないのよ。わたくしが求めているものはただ平穏なのよ」


◇◇◇◇◇


 東館の階段を上って生徒会室と書かれた扉を開ける。

「失礼します」

 豪華で広々とした室内のテーブルにアドレー、ラムゼイ、スウィジンの姿があった。

「入学おめでとう、クリスティン」

 アドレーが微笑んでこちらに歩み寄ってくる。

「壇上で、君に向けて祝辞を述べた。わかってくれたかな。目が合ったよね」
「他の新入生とも、目が合いましたでしょう」
「え?」
「わたくし、生徒会には入りません。それだけを申し上げに参りました。入学初日で色々多忙でして、恐れ入りますがこれで失礼いたします」

 クリスティンがすぐさま帰ろうとすると、スウィジンに腕を掴まれて、引き留められた。

「クリスティン? 僕も殿下も、おまえが入学し、生徒会に入ってくれるのを心待ちにしていたんだよ? 学年が違うから、なかなか会えはしないだろう」

 特段会いたくはない。

「わたくし、入学したばかりで生徒会の仕事についてよくわかりませんから」

 ラムゼイがフンと鼻を鳴らす。

「一年生なら、他にもいるぞ。ほら」

 ラムゼイの指し示す方向を見ると、リーの姿があった。

「リー様」

 白いソファに腰を下ろしていたリーは笑顔で立ち上がる。

「やあ。おれも勧誘されて入ることになったんだ。クリスティン嬢も入りなよ」

 魔術剣士としての腕をみこまれ、ゲームでもリーは生徒会入りする。
 彼はこちらに近寄って、そっと耳打ちした。

「頼む。上からの圧力が強くてさ。君を説得するよう言われてて。おれの顔を立てると思って」

 彼は目線で一学年上の三人を示す。

「学園でも剣の相手するから。稽古の都合つけやすくなるし」

 惨劇回避のために、稽古は必要である。

「剣の稽古でしたら、クリスティン様、私がいたします」
 
 最近はメルも加わり、三人で剣を合わせていた。
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