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36 伊左次、福島源蔵を大いに戒める!

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 二日二晩、久富大志郎とともに過ごした福島源蔵は、喋り疲れたのかぐったりと寝転んでいる。息せき切って一人で駆けつけた伊左次をチラリと見ても、うんともすんとも言わない。
 大志郎に墨屋の清兵衛の供述を簡単に伝えたあと、伊左次は左脚で源蔵の太腿をつついた。

「おい! ゲンよ! 起きろっ!」

 いきなり怒鳴りつけた伊左次に驚いたのは源蔵ではなく大志郎であった。だがめなかった。伊左次の江戸での不祥事というものがだとは大志郎は知っていた。それはにも伝えていない秘密である。
 けれど十二年前、女をめぐって一体どんな騒動があったのか、大志郎は興味があった。ここは成り行きを見守ろうと腹を決め、伊左次と源蔵の二人の様子を覗った。
 ……その源蔵は、町人髷ちょうにんまげの伊左次をみても、怪訝けげんそうに目をしばたいている。

「ゲン、まだ、わからぬのかっ!」

 を放った伊左次をじっと睨み返していた源蔵が、
「や!」
と、叫んで飛び起きるや刀の鞘を掴んだ。
 その手を足払いした伊左次は奪い取った刀を抜いた。
 そのまま切っ先から刃文はもんみねまで目を追ってから、伊左次は鞘に戻した。

「ゲン、まだ、ひとを斬ってはおらぬようだな」
「△○■▼△○」

 源蔵が発した声はことばにはならず、獣のうめきのように大志郎の耳には聴こえた。

「おのれ、△○■▼○■」

 源蔵の舌がもつれている……。

「ゲン、、仇討ちの真似事まねごととは、どういうことだ? いやなに、おまえが、いまだにわしを恨むそのこころねはわかる……けれど、ゲン、おまえ、誰にそそのかされて、大坂までやってきた? 大曽根兵庫とか申す公儀の犬に、一体、なにを吹き込まれたというんだ!」
「・・・・・・・」
「ふん、いいように利用されていると、わからぬのかっ!」

 伊左次の叱声しっせいは、なぜかこちらに向けられているように感じた大志郎は、動悸が高鳴るほどの気まずさを覚えて顔をしかめた。
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