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18 不可解な介入
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分部宗一郎の身なりは、着流しのままで、大刀も差していない。脇差だけなので、頭に手拭いでも巻けば、遠目には町人と変わらない。
六畳間の蒲団をたたみ、分部を招き入れた大志郎は、
「夜半に訪ねるつもりだった」
と告げた。
それを分部は一笑に付した。
「馬鹿な!夜ほど目立つぞ。わたしの家にも、胡散臭い連中の見張りがついているようだ……どうしても久富に伝えておきたいことがあって参った。以降は、わが家の小者をつなぎに使うとしよう」
そう言ってから、分部は、いきなり伊左次のことを大志郎に訊いてきた。
「……あの伊左次は、江戸で何を仕出かしたのだ?誰かに、仇と付け狙われる理由でもあるのか?」
「や!」
「伊左次が、おまえの剣の師であることぐらいは存じている。また、大坂に来たのは十二年前とも聴いている……十二年前、江戸で何があったのだ?おまえが十歳ほどの頃だったとおもうが……」
「……」
これには大志郎にも答えられない。伊左次との約定は、いかに相手が数少ない友である分部であっても洩らすことはできない。
「さようか、申せぬのか……ならば無理には聴かぬ。伊左次は、いま、わたしの妻の実家、堺に匿っている……これは、寺島の惣右衛門どのも承知のこと。ただ、寺島の職人たちには、伊左次は惣右衛門どのの代理で江戸に発ったことにしている」
それから分部は、江戸から来た福島源蔵なる者が、伊左次を仇討ちの相手として探っていること、幕閣の勘定奉行荻原重秀の密命を帯びた大曽根兵庫が暗躍していることを、ありていに大志郎に告げた。
「解けた!」と、叫んだのは大志郎であった。
「“上”の意向というのは、やはり幕閣のことであったか」
「……勘定奉行荻原様は、どうやら、ご老中首座柳沢様のお指図でうごいておられるようだ」
「ご、ご老中!」
目を見開いて大志郎は唸った。
けれども、お民の死の真相と、老中の意向というものが、一体どのように重なり合うというのだろうか。
呆気にとられている大志郎に向かって、分部はおときが襲撃に遭ったことを淡々と告げた。
けれど、おときがモン様と呼んでいる近松門左衛門の正体はあえて告げなかった。
なぜなら、狭い空間に監禁同然の身である大志郎に、一挙に情報を与え過ぎると、おときに勝るとも劣らない無鉄砲なところがある大志郎が暴挙に出ないとも限らないからだ。
分部宗一郎は、近松門左衛門が武芸達者であることを伊左次から聴かされていたので、そのことだけを言い添えておいた。伊左次の代わりに、おときの用心棒がつとまるだろうから、心配無用だと強調しておきたかったのだ。
「……あ、あの初老の男が?武芸達者?」
驚いている大志郎に、さらに分部は、意外な一言を放った。
「わたしなりに調べは続けるつもりだが、かりに、主君土岐家に禍が及ぶようなことあらば、久富、わたしはおまえの敵になるやもしれぬ。そのことを、直接、伝えに来たのだ」
ふたたび呆気にとられて大志郎は、陽の影がおのれの顔に渡りつつあるのを、他人事のように感じていた。
六畳間の蒲団をたたみ、分部を招き入れた大志郎は、
「夜半に訪ねるつもりだった」
と告げた。
それを分部は一笑に付した。
「馬鹿な!夜ほど目立つぞ。わたしの家にも、胡散臭い連中の見張りがついているようだ……どうしても久富に伝えておきたいことがあって参った。以降は、わが家の小者をつなぎに使うとしよう」
そう言ってから、分部は、いきなり伊左次のことを大志郎に訊いてきた。
「……あの伊左次は、江戸で何を仕出かしたのだ?誰かに、仇と付け狙われる理由でもあるのか?」
「や!」
「伊左次が、おまえの剣の師であることぐらいは存じている。また、大坂に来たのは十二年前とも聴いている……十二年前、江戸で何があったのだ?おまえが十歳ほどの頃だったとおもうが……」
「……」
これには大志郎にも答えられない。伊左次との約定は、いかに相手が数少ない友である分部であっても洩らすことはできない。
「さようか、申せぬのか……ならば無理には聴かぬ。伊左次は、いま、わたしの妻の実家、堺に匿っている……これは、寺島の惣右衛門どのも承知のこと。ただ、寺島の職人たちには、伊左次は惣右衛門どのの代理で江戸に発ったことにしている」
それから分部は、江戸から来た福島源蔵なる者が、伊左次を仇討ちの相手として探っていること、幕閣の勘定奉行荻原重秀の密命を帯びた大曽根兵庫が暗躍していることを、ありていに大志郎に告げた。
「解けた!」と、叫んだのは大志郎であった。
「“上”の意向というのは、やはり幕閣のことであったか」
「……勘定奉行荻原様は、どうやら、ご老中首座柳沢様のお指図でうごいておられるようだ」
「ご、ご老中!」
目を見開いて大志郎は唸った。
けれども、お民の死の真相と、老中の意向というものが、一体どのように重なり合うというのだろうか。
呆気にとられている大志郎に向かって、分部はおときが襲撃に遭ったことを淡々と告げた。
けれど、おときがモン様と呼んでいる近松門左衛門の正体はあえて告げなかった。
なぜなら、狭い空間に監禁同然の身である大志郎に、一挙に情報を与え過ぎると、おときに勝るとも劣らない無鉄砲なところがある大志郎が暴挙に出ないとも限らないからだ。
分部宗一郎は、近松門左衛門が武芸達者であることを伊左次から聴かされていたので、そのことだけを言い添えておいた。伊左次の代わりに、おときの用心棒がつとまるだろうから、心配無用だと強調しておきたかったのだ。
「……あ、あの初老の男が?武芸達者?」
驚いている大志郎に、さらに分部は、意外な一言を放った。
「わたしなりに調べは続けるつもりだが、かりに、主君土岐家に禍が及ぶようなことあらば、久富、わたしはおまえの敵になるやもしれぬ。そのことを、直接、伝えに来たのだ」
ふたたび呆気にとられて大志郎は、陽の影がおのれの顔に渡りつつあるのを、他人事のように感じていた。
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