【淀屋橋心中】公儀御用瓦師・おとき事件帖  豪商 VS おとき VS 幕府隠密!三つ巴の闘いを制するのは誰?

海善紙葉

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7 影絵茶屋

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 の幼馴染みが行方不明というのならば、大志郎には手をこまねいている暇はない。
 人々が〈猥雑小屋〉、あるいは〈影絵茶屋〉と呼んでいる小屋の内部で何が行われているのか。
 いまの大志郎なら、薄々察することができる。
 このあたりは遊里ではないので、当初は、私娼窟だと踏んでいたが、そうではなかった。
 女人の裸体を襖障子ふすましょうじ越しに眺める┅┅らしいのだ。
 小屋主は見物料で儲ける。
 さらに周辺の飲屋、飯屋、物売りらの売り上げの上前をはねるのだろう。
 
 元禄時代は、いわばバブル経済の時代で、庶民も好景気に沸いたが、このところ急に不景気感が増してきていた。
 ちなみに、それまで一日二食というのが大方おおかたの日本人の食生活だったのだが、この元禄あたりから一日三食のスタイルが定着していった┅┅。


 大和川の川違かわたがえ工事は、一種の大規模公共投資のようなもので、再び活気を取り戻すことができそうだという共同幻想を町衆に植え付けた側面もいなめない。
 川違えとは、川の流れを人工的に変えてしまうことである。
 大和国から河内国を西に流れる大和川は、柏原から北へと流れを変え、複数の河川を合わせみながら大坂城の東で淀川に合流する。流域一帯は低湿で土砂が堆積たいせきしやすいため、たびたび大洪水、大氾濫に悩まされてきた。

 記録によれば、元和元年(一六一五年)から元禄にいたる約六十年間で、実に十二回もの氾濫が発生している。
 そこで、幕府は、柏原から流れを西に変えて、堺の北辺で大坂湾へ注がせることを計画し、この年の二月から工事がはじまっていた。

 この影絵茶屋をどうするか。
 一度二度は奉行所でも議題にのぼったことはあるらしい。けれど、いつの間にか立ち消えになった。
 もっともそれには理由があった。
 大坂は、町人による町人自治が徹底していた、日本の封建社会下にあっても特殊な位置付けができる都市であった。
 各町には町会所があり、町年寄まちどしよりは、町人によって選挙で選ばれる。町年寄は、公儀(幕府)からの触書ふれがきを通達するだけでなく、訴訟事件があれば、和解調停役として奔走ほんそうした。
 この町年寄たちの上には、やはり町人である惣年寄そうどしよりが複数名存在する。惣年寄たちは惣会所に詰めて、いわば集団指導体制で行政に携わった。お上の意向というものは、大坂の地ではそれほど通用しないのだ。
 
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