ゆきモノガタリ

海善紙葉

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第一話 【もうすこしだけ】

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 おしゃべりの決まりというものは、とくにありません。・・・・となりのひとが話しかけてきたら、それをきいて、じぶんなりに答えてあげればそれでいいのです。
 それをくり返していけば、しぜんと会話がなりたちます。それほどふかくなやまなくてもいいのです。

「そうだよね」

 と、こうちゃんがコクリとうなづきました。
 テレビのニュースでも、ものすごい雪になやまされるところがあるのに、冬でもゆきのふらないあたたかいところもあるとつたえています。
 
「ほんと、ふしぎだね。おなじ、にほんのくになのに……」
 こうちゃんがつづけます。
 どうやら、冬があったかくなれば、いいことばかりではないようなのでした。
 こうちゃんは、すぐよこにいるおとうさんに、
「それは、どうしてなの? さむくないのはわるいことなのかなあ?」
と、たずねました。

「うーん、そうだな、雪がふらなければ、ほら、ゆきだるまもつくれないだろ? それにね、せっかくつくっても、すぐにこわれてしまうからね」

 おとうさんのこたえは、すこぶるめいかいです。

「なるほど」

 こうちゃんは、さすが、おとうさんだとかんしんしました。 

「ねえ、雪だるまにも、おとうさん、おかあさんがいるのかなあ?」

「さあ、それはだな、ゆきだるまをつくった子どもたちが、女もののぼうしやマフラーをくびにまけば、おかあさんになるだろ? ほら、ちいちゃな雪だるまなら、それは、こどもだな、たぶん」

 なるほど。さすがだとこうちゃんはおもいました。

「ねえ、どうして、ぼくは、こうちゃんなの?」

 しばらくくびをひねっていたが、おもいついたナゾをくちにしました。

「・・・・それは、おまえをうからつくった子どもの一人が、おまえの胸に、『こうちゃん』とかいた名札をつけたからだよ。あっ、今日は、あったかそうだから、とけるのが早い・・・・また、会おうな、いつか・・・・」

 そうだね。
 こうちゃんは、もういちど、そう答えながら、となりの〈おとうさん〉の名札がぐらぐらとゆれているのをながめていました。そうです、だるまが、すこしずつ、とけているからでした。

 あーあ、もうすこしだけ、おはなしをしたかったな。と、こうちゃんはおもいました。
 でも、とけても、いつか、天にもどって、また、雪になっておちてくるんだもの。そのときに、再会できればいいな。とけかけたほほのあたりが、なんだかむずがゆくて、はみょうにそわそわしていました……


            ( 第一話 了 )
    ✱第二話も「雪」にまつわる物語です。お楽しみに🤭📶           
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