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第四話 感謝の対価
世之介の周辺
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早朝から暮れ時まで、テラモンは“賭け”に参加している主だった面々の家を回っていた。
誰がなにを世之介に贈り物をしたのか、しなかったのか・・・その詳細をつぶさにまとめ、整理する役目を種田武雄から指示されていたのだ。
さらにもう一つ。誰がどこの女人を、世之介の嫁として世話しようとしているのか、それについては、中間の弥七らにも手伝ってもらうことにした。
ところが、嫁の来手のない世之介に“家付きの嫁”を世話してやろうという申し出を、かれはことごとく撥ね付けているらしいのだ。
(おやまあ、変わり者とは聴いてはいたが、申し出のすべてを断るとは……)
テラモンは吐息をはいた。世之介が見合いをすべて拒否するならば、わざわざ嫁候補を探るのは無意味である。
(わしとしたことが、先走りすぎたか……なにをやっているのだ、この齢になって、なんともこう情けなきことじゃわい)
テラモンは吐息を吐く。その息さえ、なにやらたわんで汚水のごとく濁っているようにも思えてくるのだ。
(よし、こうなれば……)
埒が開かないのなら、自ら開けてやるしかない。テラモンはそうおもい、世之介が住む“剣術長屋”まで歩いていった。
そのとき、遠目に視た佐々木世之介の姿態に、テラモンはハッと身構えた。
(や! こ、こやつ・・・・)
思わずテラモンは後退ってしまい、気がついたときには、脇差の柄に手をかけていた。
(ひゃあ・・・・)
このときテラモンが、刹那、羞恥にまみれたことを誰も気づかない。かれは若き頃のおのれの血汐の熱さをたった今、感得したのだ。
久方ぶりに往年のおのれの勇姿を思い返したのは、世之介が只ならない剣客であると思い知らされたからであった。
剣の達人は、刃を交叉せずとも、かすかな相手の息遣い、佇まいから腕の良し悪しを見抜く。だからこそ、テラモンは遠目ながらも、世之介の本性に近づいた。
いうならば、そういうテラモン自身が無意識に放った殺気を、世之介は鏡のごとくに撥ね返したもので、数瞬、テラモンは後退ってしまい、本能的に脇差の柄に手をかけてしまった……のである。
(なんということだ・・・・知らずにおのれが放ってしまった殺気に、おのれ自身がおののくとはの・・・・)
これが、テラモンが羞恥をおぼえた理由であった。
そして、ますます世之介なる人物に興味をもった。いや、持たざるを得なかった。
誰がなにを世之介に贈り物をしたのか、しなかったのか・・・その詳細をつぶさにまとめ、整理する役目を種田武雄から指示されていたのだ。
さらにもう一つ。誰がどこの女人を、世之介の嫁として世話しようとしているのか、それについては、中間の弥七らにも手伝ってもらうことにした。
ところが、嫁の来手のない世之介に“家付きの嫁”を世話してやろうという申し出を、かれはことごとく撥ね付けているらしいのだ。
(おやまあ、変わり者とは聴いてはいたが、申し出のすべてを断るとは……)
テラモンは吐息をはいた。世之介が見合いをすべて拒否するならば、わざわざ嫁候補を探るのは無意味である。
(わしとしたことが、先走りすぎたか……なにをやっているのだ、この齢になって、なんともこう情けなきことじゃわい)
テラモンは吐息を吐く。その息さえ、なにやらたわんで汚水のごとく濁っているようにも思えてくるのだ。
(よし、こうなれば……)
埒が開かないのなら、自ら開けてやるしかない。テラモンはそうおもい、世之介が住む“剣術長屋”まで歩いていった。
そのとき、遠目に視た佐々木世之介の姿態に、テラモンはハッと身構えた。
(や! こ、こやつ・・・・)
思わずテラモンは後退ってしまい、気がついたときには、脇差の柄に手をかけていた。
(ひゃあ・・・・)
このときテラモンが、刹那、羞恥にまみれたことを誰も気づかない。かれは若き頃のおのれの血汐の熱さをたった今、感得したのだ。
久方ぶりに往年のおのれの勇姿を思い返したのは、世之介が只ならない剣客であると思い知らされたからであった。
剣の達人は、刃を交叉せずとも、かすかな相手の息遣い、佇まいから腕の良し悪しを見抜く。だからこそ、テラモンは遠目ながらも、世之介の本性に近づいた。
いうならば、そういうテラモン自身が無意識に放った殺気を、世之介は鏡のごとくに撥ね返したもので、数瞬、テラモンは後退ってしまい、本能的に脇差の柄に手をかけてしまった……のである。
(なんということだ・・・・知らずにおのれが放ってしまった殺気に、おのれ自身がおののくとはの・・・・)
これが、テラモンが羞恥をおぼえた理由であった。
そして、ますます世之介なる人物に興味をもった。いや、持たざるを得なかった。
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