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第四話 感謝の対価
呼び出されたテラモン
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寺田文右衛門が、勘定吟味方の副支配、種田武雄に招かれたとき、
(世之介のことじゃな)
と、察したのは、事前に谷崎家老から
『種田の相談に乗ってやってくれ』
と、頼まれていたからであった。
テラモンは、世之介とはなんの面識はなく、賭けのことは事情通の中間、弥七から聴いていたにすぎない。
種田家は新興名門といっていい一族で、現当主の種田武雄は、まだ三十路前だが、次代の執政候補の一人であった。
御連枝衆なのである。
……御連枝とは、文字どおり、藩公の血筋に連なる一門といっていい。武雄の母は、先代藩公の姪にあたり、また、かれの実妹、桃華は、現在の藩主の側室の一人でもあった。
テラモンが丁寧すぎるほど頭を垂れ挨拶を述べると、武雄は、
「いや、こちらこそ、わざわざご老体を呼びつけてしまい申し訳なくおもっております」
と、むしろ恐縮してもの柔らかに礼を述べた。
「テラモン……いや、寺田どののお噂は、かねがね聴き及んでおりました。一度、ゆっくりと一献申さねばとおもっていたところ、こたびは、別件にてご足労をおかけします」
「これはこれはご丁寧な……。身分が違いますれば、もそっと、ぞんざいになされてくだされたほうが、このじじいめの緊張が解かれます。どうぞ、お気兼ねなくテラモンとお呼び捨てくださりませ」
「ははは、そうは参りませぬ。日頃、なにかと、わが家中の者どもが、ご老体のお智慧をお借りしているよし、合わせて礼を申しておかねばなりますまい」
「いやはや、もうそれぐらいにしてくださりませ。冷や汗が出ますゆえ」
とはいえ、実のところなにもテラモンは緊張も恐縮もしていたわけではない。ふた言三言だけのやり取りからでも、相手の器量というものは推し量れる。おそらくは、互いがそういう心眼で、目の前の人物を観察していたに相違あるまい。
湯茶を飲み終えた武雄は、急に真顔になって、
「ご相談に乗っていただきたいのは、他でもない、あの佐々木世之介のことでござる」
と、口火を切った。
(世之介のことじゃな)
と、察したのは、事前に谷崎家老から
『種田の相談に乗ってやってくれ』
と、頼まれていたからであった。
テラモンは、世之介とはなんの面識はなく、賭けのことは事情通の中間、弥七から聴いていたにすぎない。
種田家は新興名門といっていい一族で、現当主の種田武雄は、まだ三十路前だが、次代の執政候補の一人であった。
御連枝衆なのである。
……御連枝とは、文字どおり、藩公の血筋に連なる一門といっていい。武雄の母は、先代藩公の姪にあたり、また、かれの実妹、桃華は、現在の藩主の側室の一人でもあった。
テラモンが丁寧すぎるほど頭を垂れ挨拶を述べると、武雄は、
「いや、こちらこそ、わざわざご老体を呼びつけてしまい申し訳なくおもっております」
と、むしろ恐縮してもの柔らかに礼を述べた。
「テラモン……いや、寺田どののお噂は、かねがね聴き及んでおりました。一度、ゆっくりと一献申さねばとおもっていたところ、こたびは、別件にてご足労をおかけします」
「これはこれはご丁寧な……。身分が違いますれば、もそっと、ぞんざいになされてくだされたほうが、このじじいめの緊張が解かれます。どうぞ、お気兼ねなくテラモンとお呼び捨てくださりませ」
「ははは、そうは参りませぬ。日頃、なにかと、わが家中の者どもが、ご老体のお智慧をお借りしているよし、合わせて礼を申しておかねばなりますまい」
「いやはや、もうそれぐらいにしてくださりませ。冷や汗が出ますゆえ」
とはいえ、実のところなにもテラモンは緊張も恐縮もしていたわけではない。ふた言三言だけのやり取りからでも、相手の器量というものは推し量れる。おそらくは、互いがそういう心眼で、目の前の人物を観察していたに相違あるまい。
湯茶を飲み終えた武雄は、急に真顔になって、
「ご相談に乗っていただきたいのは、他でもない、あの佐々木世之介のことでござる」
と、口火を切った。
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