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どうも、国対抗戦です
どうも、敵対です
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「素手じゃないか! 危ないよ!」
「それも聞いたことあるなあ。これは魔武器だよ。それに君は散々素手の俺に剣を向けてきたじゃないか。今さらだよ」
アゲハが操っているとわかっていてもルイスは余裕の笑みだ。それはひとえに、自分の力を信じているから。学園最強、神速の光帝と呼ばれていた己の力を十分に理解しているからである。
「僕は武器を持たない相手に攻撃する卑怯者じゃ…って、あれ? なんで!?」
勇は一歩深く踏み込んでルイスを袈裟斬りにする。それだけでは足りず、さらに踏み込んで水平斬りに斬り上げ、衝撃波まで飛ばす。
当然、アゲハが操っている。
「じゃあ今までの君は卑怯者だってことだね。でも君は、剣だけが武器じゃないことを知ったほうがいい…って、言うの何度目かな」
ルイスはバックステップに体を反らして軽々と剣先を躱し、衝撃波も飛び越える。それから光で身体強化して、さらに速度を増したところでひたすら殴る蹴るの猛攻に入る。
「ふむ…。まあルイスなら大丈夫か」
何がだ? とシラが胡乱げな目を注ぐ中、アゲハが考えていたことは、勇を通じて顕現した。
すなわち……迫りくるルイスに向かって真剣を振り下ろした。
「君も本気だってことかな?」
ルイスは勇の剣を腕で受け止めて不敵に笑う。
笑っているが、思いっきり刃を前腕で止めている。血が滴って……と誰もが予想し息を飲んだ。
しかし、その瞬間は一向に訪れない。
「えっ…?」
アゲハの指示とはいえ斬りかかった当人すら困惑する。だってまさか、剣の刀身を生身で受け止めるだなんて。
「俺の魔武器は装備した瞬間から全身に鎧を纏っているのと同じ効果があるんだ。だから俺は、その辺の鈍らじゃ斬れない。それに――」
そしてルイスは、がら空きになっている勇の腹を渾身の力で蹴り飛ばした。
「金属で殴られたように感じるほど、打撃も強化されるんだ」
特に避ける指示を与えられていなかった勇は、ルイスの会心の一撃を思いっきり鳩尾に浴びて吹き飛んだ。腰を抜かしたような間抜けな姿勢で背面から低空滑走し、闘技場の端の壁にぶち当たる。
轟音とともに、勇者の体は壁にめり込んだ。壁にも相当なヒビが入っている。
「…ここの壁って、確か鉄だよな…?」
「武国の建物だから、そうだろうな…」
「鉄に、ヒビ…」
フレイ、クレア、ペタの3名が唖然とする横でアゲハは呟く。
「あれは当たったら痛そうだな」
「避けてやらなかったのか?」
シラがジト目でアゲハを見下ろす。シラが姿勢を正しているとは、それほど新旧部下同士の戦いは見応えがあったのだろうか。
「勝敗にまで手を出すとルイスに怒られるだろう。途中でやめるつもりだったんだ」
だからって、あのどう考えても必殺技を出すみたいな空気のときにやめなくても、とシラは思ったが、よくよく考えれば勇に対して日頃から鬱憤が溜まりまくっていたので、最終的に「よくやった!」とアゲハを褒めたくなった。
とりあえずアゲハの頭をわしゃわしゃしながら確認してみると、既に勇への魔力は感じられなかった。マリオネットは解いたのだろう。
「にしても…まるでルイスにも勝てるような口ぶりだなー」
シラはようやく生きる屍に戻った。
「俺が負けるとでも?」
アゲハにとっては「魔王が勇者以外に負けるとでも?」との意味だ。勇者にも負けたことはないが。
ただシラにとっては、数ヶ月前にこちらの世界にやってきた勇者に不運にも巻き込まれた少年が勇者本人より強いと豪語し、あまつさえこの世界で人類最強の座に最も近い者にも勝てるとのたまったのだ。これは自らの地位を揺るがす脅威……
「へー」
などと、シラは考えなかった。
「なんと、ルイス・アルフォードが勇者に勝ちました! なんと勇者が負け……ん? なになに? ルイス・アルフォードはセイントのアルフォード将軍の息子? 勇者は召喚されてまだ数ヶ月? なんと! それは勝てませんね! 無理もありません!」
とても冷静に大会を進行していた司会だが、勇者が敗れるまさかの結果に驚き…としているうちに伝令が入りカンペが出され、勇者が弱いんじゃないルイスが強いんだ的な空気を出すよう強要されていた。
観衆も「あのアルフォード将軍の?」「なら仕方ねえな」と納得している。
「あの親父…!」
ルイスだけは拳を握りしめている。せっかくの晴れ舞台でせっかくの勝利を父親のおかげのように扱われては気分が悪いだろう。どうやらルイスの受難は姉と婚約者だけではなかったようである。
「さて、優勝者が決まったところで彼に登場してもらいましょう! 我らが世界の誇る侍、最後の英雄、ヤマト・タケルとのエキシビションマッチです!」
「ああ! ミコトか」
歓声が上がる中でアゲハは呟いた。反逆者の宣戦布告を待っていたため、冥王に引き渡した哀れな人間など綺麗さっぱり忘れ去っていたのである。
アゲハは闘技場に目を落とす。扉が開き、気絶しているらしい勇者が回収され、新たな影が蠢いていた。
「それも聞いたことあるなあ。これは魔武器だよ。それに君は散々素手の俺に剣を向けてきたじゃないか。今さらだよ」
アゲハが操っているとわかっていてもルイスは余裕の笑みだ。それはひとえに、自分の力を信じているから。学園最強、神速の光帝と呼ばれていた己の力を十分に理解しているからである。
「僕は武器を持たない相手に攻撃する卑怯者じゃ…って、あれ? なんで!?」
勇は一歩深く踏み込んでルイスを袈裟斬りにする。それだけでは足りず、さらに踏み込んで水平斬りに斬り上げ、衝撃波まで飛ばす。
当然、アゲハが操っている。
「じゃあ今までの君は卑怯者だってことだね。でも君は、剣だけが武器じゃないことを知ったほうがいい…って、言うの何度目かな」
ルイスはバックステップに体を反らして軽々と剣先を躱し、衝撃波も飛び越える。それから光で身体強化して、さらに速度を増したところでひたすら殴る蹴るの猛攻に入る。
「ふむ…。まあルイスなら大丈夫か」
何がだ? とシラが胡乱げな目を注ぐ中、アゲハが考えていたことは、勇を通じて顕現した。
すなわち……迫りくるルイスに向かって真剣を振り下ろした。
「君も本気だってことかな?」
ルイスは勇の剣を腕で受け止めて不敵に笑う。
笑っているが、思いっきり刃を前腕で止めている。血が滴って……と誰もが予想し息を飲んだ。
しかし、その瞬間は一向に訪れない。
「えっ…?」
アゲハの指示とはいえ斬りかかった当人すら困惑する。だってまさか、剣の刀身を生身で受け止めるだなんて。
「俺の魔武器は装備した瞬間から全身に鎧を纏っているのと同じ効果があるんだ。だから俺は、その辺の鈍らじゃ斬れない。それに――」
そしてルイスは、がら空きになっている勇の腹を渾身の力で蹴り飛ばした。
「金属で殴られたように感じるほど、打撃も強化されるんだ」
特に避ける指示を与えられていなかった勇は、ルイスの会心の一撃を思いっきり鳩尾に浴びて吹き飛んだ。腰を抜かしたような間抜けな姿勢で背面から低空滑走し、闘技場の端の壁にぶち当たる。
轟音とともに、勇者の体は壁にめり込んだ。壁にも相当なヒビが入っている。
「…ここの壁って、確か鉄だよな…?」
「武国の建物だから、そうだろうな…」
「鉄に、ヒビ…」
フレイ、クレア、ペタの3名が唖然とする横でアゲハは呟く。
「あれは当たったら痛そうだな」
「避けてやらなかったのか?」
シラがジト目でアゲハを見下ろす。シラが姿勢を正しているとは、それほど新旧部下同士の戦いは見応えがあったのだろうか。
「勝敗にまで手を出すとルイスに怒られるだろう。途中でやめるつもりだったんだ」
だからって、あのどう考えても必殺技を出すみたいな空気のときにやめなくても、とシラは思ったが、よくよく考えれば勇に対して日頃から鬱憤が溜まりまくっていたので、最終的に「よくやった!」とアゲハを褒めたくなった。
とりあえずアゲハの頭をわしゃわしゃしながら確認してみると、既に勇への魔力は感じられなかった。マリオネットは解いたのだろう。
「にしても…まるでルイスにも勝てるような口ぶりだなー」
シラはようやく生きる屍に戻った。
「俺が負けるとでも?」
アゲハにとっては「魔王が勇者以外に負けるとでも?」との意味だ。勇者にも負けたことはないが。
ただシラにとっては、数ヶ月前にこちらの世界にやってきた勇者に不運にも巻き込まれた少年が勇者本人より強いと豪語し、あまつさえこの世界で人類最強の座に最も近い者にも勝てるとのたまったのだ。これは自らの地位を揺るがす脅威……
「へー」
などと、シラは考えなかった。
「なんと、ルイス・アルフォードが勇者に勝ちました! なんと勇者が負け……ん? なになに? ルイス・アルフォードはセイントのアルフォード将軍の息子? 勇者は召喚されてまだ数ヶ月? なんと! それは勝てませんね! 無理もありません!」
とても冷静に大会を進行していた司会だが、勇者が敗れるまさかの結果に驚き…としているうちに伝令が入りカンペが出され、勇者が弱いんじゃないルイスが強いんだ的な空気を出すよう強要されていた。
観衆も「あのアルフォード将軍の?」「なら仕方ねえな」と納得している。
「あの親父…!」
ルイスだけは拳を握りしめている。せっかくの晴れ舞台でせっかくの勝利を父親のおかげのように扱われては気分が悪いだろう。どうやらルイスの受難は姉と婚約者だけではなかったようである。
「さて、優勝者が決まったところで彼に登場してもらいましょう! 我らが世界の誇る侍、最後の英雄、ヤマト・タケルとのエキシビションマッチです!」
「ああ! ミコトか」
歓声が上がる中でアゲハは呟いた。反逆者の宣戦布告を待っていたため、冥王に引き渡した哀れな人間など綺麗さっぱり忘れ去っていたのである。
アゲハは闘技場に目を落とす。扉が開き、気絶しているらしい勇者が回収され、新たな影が蠢いていた。
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