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どうも、教国です

どうも、復活です

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~アゲハ&闇帝~

 アゲハより先行したことからもわかる通り、闇帝に監視する気など毛頭なかった。
 彼女はただの戦闘狂、いや断罪狂。闇魔法で断罪するのが大好きなのである。

「いる? いない? いる? いない? いる…と思ったらイナーイ! 【コンヴィクション】【コンヴィクション】【コンヴィクション】【コンヴィクション】【コンヴィクション】【ダークインフェルノ】!」

 鬱陶しい自己紹介をしながら進む闇帝。正体をバラしているがそれでもいいのか。

 細かいことはともかく、闇帝の目に触れたキメラは次々に首を落とされ、肉体を再生する余地も与えられず塵まで焼かれている。対魔物戦の実力だけは見事だ。テンションは鬱陶しいのに。あと側転やバク転しながら魔法を使うところも鬱陶しいのに。

「闇帝、街は任せるぞ。俺は中央を叩く」

「いってらっしゃーい【ゲート】【ゲヘナインフェルノ】【コンヴィクション】【ダークインフェルノ】!」

 闇帝にとっては数多くの悪を裁いてこその愉しみだ。政治的な思惑など興味はない。中央にいる権力者にも興味がない。そっちの人数は少ないというし、だったら哀れな民間人だったモノを断罪していたい。

 だから気が付かなかった。アゲハが不吉な笑みを浮かべていたことに。

 アゲハは民間の屋根を飛び移り駆け上り、そしてあっという間に教国の中心部、教会へと達した。

「邪神復活の儀式は地上の魔法陣を使う。ならば1階か」

 教会は塔のように階層を増すほど細くなっていて、魔法陣を描けるような広さを有していない。
 恐らく塔には生贄となる元人間キメラを保管しているのだろう。数が足りなくなれば外から調達することにしているに違いない。

「そうでなければ…書けないからな」

 邪神復活の魔法陣は生贄の血で描く必要がある。血の調達のためにも、ある程度の生贄は教会内に保管されているはずだ。

 スペアとしてキメラ化された人間が哀れでならない…かもしれないが、ここにいるのは冷酷無比な魔王である。人間が哀れだとは微塵も思わなかった。
 むしろ自業自得である。愚行に走るからそうなるのだ。たかが人間ごときに邪神の復活など、できやしないのに。

 アゲハは教会の扉を開ける。木製の大扉はキィーッと軋みながら、ゆっくりと開いた。

「誰だ!」

「これはちょうどいい時に来たようだな。さすがは我だ」

 後光の射す黒い十字架の前、黒く塗られた教壇に集っていた人間たちが口々に誰何すいかするなか、アゲハは素に戻って自らの幸運を称えた。

「貴様らには死んでもらう」

「はあ?」
「誰だか知らんが――」

 その続きをアゲハが聞くことはなかった。誰も聞けなかった。全員の首が胴体とさよならしていたからである。

 血飛沫、なんて比ではない大量の血が流れ出る。床に描かれた魔法陣は邪神復活のためのものだろう。アゲハはその中央に立ち、手を振り上げた。

 瞬間で、天井が崩れ落ちる。瓦礫が注ぎキメラが降り、また瓦礫が注ぐ。頂上まで貫く魔力により、塔が瓦解していた。

 もちろんアゲハに被害などない。闇の魔力がアゲハを包み、守り抜いた。周りのキメラは圧死したりアゲハの魔力に当てられて死んだりと、とにかく全滅である。

 アゲハは魔法陣をわずかに書き換える。幸い血は大量にある。

「貴様らの血肉でもって、我が肉体を再生しよう」

 魔法陣が青黒く発光する。教会の床一面に広がった魔法陣が浮き上がり、どこからともなく風が吹き荒れる。アゲハの体を包むように、魔法陣は発光したままに。

「フハハハハハハハハッ!」

 そしてアゲハは笑う。久方ぶりの、心の底からの高笑いが廃墟と化した教会の中でこだまする。

 そこへ飛び入る、生存反応がひとつ。

「魔王様!」

 そこでザガンが見たのは、懐かしい幼馴染の、そして敬愛してやまない主の姿だった。

「ザガンか。見よ」

 人間やキメラの死体を踏みつけて頂点に君臨するアゲハの頭には1対の長い角が生えている。縦長の瞳孔は赤く輝いており、背には魔族の証の翅が生えている。ドラゴンの背にあるものと似ていて、大きく逞しく、翼と呼ぶに近い。

 そこへ転移してくる反応が3つ。

「我が君」
「我が主」
「魔王陛下」

 四天王の残り3人、バアルにイポスにバルバトスである。

 魔法陣の光が消える。それにならうように風もやんだ。

「魔界に伝えよ。我は完全復活したとな」

「御意に」
「仰せのままに」
「我らが主の御心のままに」

 人間に見つかるわけにはいかない3人は、跪いて深く頭を垂れたのち、主に従って魔界へと転移した。

 あとには人化したアゲハと、ザガンが残った。
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