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どうも、合宿です

どうも、フレイ&ティティスです

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「どうせ誰も夕飯のことなんて考えていないだろうし、私たちで大物を狩っておきましょ。特訓はそれから」

「はい!」

 憧れの美人副会長ティティスにバカ正直フレイが逆らうことはない。嬉々として返事をする。
 近場の森とはいえ王都の中心部から身体強化で走り続けたせいで息は切れていたが、深呼吸して返事をする。

 同じく身体強化で走っていたのにまったく息切れしていないティティスは、本来ならこうして同じ空間で特訓できることもあり得ない存在なのだ。持つべきものは交友関係の広い友達である。
 などとちゃっかり考えているフレイは、ティティスが自分の父の補佐をしていることを知らない。

「とりあえず魔力探知ね。魔物を探しましょ。できる?」

「やってみます!」

 とりあえずやってみろ。それが熱血な火の貴族当主である父の教えだ。はじめから「できない」「無理」は許されない。

 返事のいいフレイに全帝から無茶振りされたときの主の姿を重ねながら、ティティスは目を閉じて集中するフレイを眺めていた。

「……いた! 南西に大きな反応が――」

 敵を見つけたと嬉しそうに笑って振り向いたフレイの頬すれすれを、こぶし大の火の玉が飛び抜けた。当たっていないのに、熱風で頰が焼けたかのように熱い。

「索敵中は防御が手薄になるし、反応も遅れるの。気を抜かないで」

 ティティスが大真面目な顔をして立っていた。
 さすがは副会長。味方に奇襲をかけてから説明するとは、ピンクの髪の愛らしい見た目をしていても、ルイスと同等かそれ以上にスパルタである。

「…はい!」

「それで? 南西にどの程度進むの?」

「ええっと…ちょっと離れているような…」

 距離までは正確に把握していなかったフレイは、頬をさすりながらしどろもどろになる。

 それも当然で、1年の授業ではまだ試合形式は1対1、ギルドの依頼でも目の前の魔物との戦いであって、魔力探知は次の攻撃が来る方角を察知するためにしか使わないのだ。

 見えない敵を探す唯一の機会はサバイバルだったが、あのときは序盤だからとティティスやミケルが索敵していたし、いざ戦闘本番となるとドラゴンの乱入によりサバイバルが中止され、結局フレイたちはバーベキューを楽しんだだけで終わってしまった。

 そんなこんなで勇者の実力不足を憂いた国王がカリキュラムにいろいろと口出ししてきたのは、また別の話。

 とにかくフレイには、魔力探知による索敵には方角と距離の2つが重要という認識がなかったのである。

「もう1回やってみて。周りの気配にも気をつけながらね」

「はい!」

 特訓はあとで、などと言いつつ、ちゃっかり特訓は始めていたティティス。この辺りは炎帝にしっかり影響されている。何事にも手を抜けないのだ。実は生徒会随一の熱血キャラであった。
 属性もしかり、フレイと相性もいいだろう。ルイスの采配は正しい。

「…南西、1キロ先です」

 索敵できたからといっていちいち騒がず、今度は冷静にフレイが告げた。

「惜しいわね。そっちにもいるけど、東南350m先のほうが近いわ。少し小さいから見落としたのね。南西のは大型だから、あとで行きましょ」

「くー…! わかりました!」

 近くの魔物を見落としたとあってフレイは悔しそうだ。

 悔しがりながらティティスのあとに続くと、突然ティティスが横へ跳ねた。

「痛っ!」

 次の瞬間、何かに腕を噛まれる。
 よく見ると、ウサギ型の魔物がフレイの前腕に噛みついてぶらさがっていた。

「フレアボムだけで倒してね」

「え? はい! 【フレアボム】!」

 木陰からのティティスの指示に従い、フレイは腕にぶらさがったまま全然離れないウサギへフレアボムを放つ。
 大きなボールほどの火の球が放たれてすぐに爆発し、フレイの前腕もろともウサギを焼き尽くす。

「痛…」

 煤だらけになった腕を見ながらフレイは放心してしまう。痛すぎて言葉が出てこない。自分で自分の腕を焼く日が来ようとは。

 ティティスは木陰から出てきて分析を始める。

「魔力を込めすぎたのね。あの大きさの魔物なら威力はもっと低くていいし、自分と近いならなおさら、込める魔力は少なくしないと。もしくは結界を張りながら攻撃だけど…そんな器用なことはなかなか難しいし、魔力調整の訓練をしたほうが……これ、ルイスも言ってたわね」

「はい…」

 とりあえず実戦だと、自分は退いてあえてフレイに戦わせたティティスはサバイバルのときのルイスと同じ結論に至った。

 一撃でフレイの改善点を見抜いたルイスは余程の実力の持ち主…などということをフレイが考えることはなく、先輩2人に同じことを指摘され恥じていた。

「対抗戦までに克服するわよ。【ヒール】」

 ティティスはフレイの腕を取り、叱咤激励を飛ばしながら回復魔法を使った。
 火属性の回復魔法は、ぬるめの風呂のような温度で傷口を燃やすように修復する。火属性の回復魔法は一見攻撃魔法のようで、フレイはあまり好まれない理由がわかった。

「即死以外は治せるし、即死しても3秒までならルイスを呼んで治せるわ。3秒ルールね」

「………」

「あら、笑うところよ?」

 ティティスは微笑んでいるが、即死も含めた怪我を事前通告されたも同然なフレイは笑えなかった。

「はい、治った。じゃあ今日はフレアボムで全部敵を倒してもらうわよ」

「はい! ありがとうございます!」

 煤まで取れて綺麗になった前腕を眺めてからフレイは頭を下げた。
 その瞬間、足下に大きな影ができる。

「さすがに今度は! 【フレアボム】!」

 飛び退って最大出力の炎を放つフレイ。
 倒れる毛むくじゃらの巨体。

「やるじゃない」

 いつの間に逃げたのか、木陰で拍手するティティス。

「縄張りを荒らされたら怒るワイルドベアね。それも結構な大きさ。一撃で仕留めるなんてすごいわ」

「…! ありがとうございます!」

 美人に褒められたフレイは少し照れた。

「もしかして弱く加減するのが苦手なのかしら。ギルドランクも確かAよね?」

「え…? はい、そうですけど…」

 そんな話をしたことがあっただろうか、と首を傾げるフレイと、炎帝から聞かされていたため当然知っていたティティス。

「…じゃあ夕飯はこの子にして、次行くわよ。小さな魔物を狙って行きましょ」

 自分が炎帝補佐なのは当然ながら、炎帝だって正体は家族にも明かせないはずだ。バレてしまうのはさておき、自ら口外することは禁じられている。だからどこまで秘密でどこまで知られているのか……と、迷ったティティスは、戦闘で会話を押し流すことにした。

 べ、別にごまかしが苦手だとか嘘が下手だとか、そんな理由ではないのである。ただフレイの特訓のため! そう、フレイの訓練のためなのである。
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