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どうも、合宿です
どうも、ペタ&ルイスです
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ニコライが姉の苦労話に花を咲かせていた頃。
同じく姉に苦労させられたせいもあり闇堕ちしたルイスは、爽やかな笑顔をキープしながらペタの指導にあたっていた。
ペタが水色の目と髪をしていることも幸いしていた。姉や父を思い出さずに済む。
本当はアゲハを鍛えたかったが、属性ばかりは仕方がない。それにニコライによって鍛えられたアゲハと対戦するのも楽しみだ。無双状態の対抗戦に、少しはハリが生まれるというものである。
そんなルイスは、アゲハが愚痴聞きに回ってまともな練習ができていないことを知らない。
「前は窒息させて仕留める方法を教えたけど、たとえば魚型の魔物が相手だと、水での攻撃は相手を回復させてしまうよね」
「たし、かに…」
ペタは真剣だ。大きな水色の瞳に尊敬の念を湛えながら、しっかりとルイスを見上げている。
魚や、水辺に生きる魔物にとって、通常の水魔法による攻撃は無効である。それに気づかなかったのは、陸上の魔物を相手にする機会のほうが多いから。
気づく機会をくれただけで、ペタのなかでルイスへの尊敬は増すばかりだ。
「じゃあ水辺の魔物に水属性は効かないのかな?」
「…針?」
「それも正解。針や槍なんかのニードル系で突き刺してもいい。じゃあ小さいのがたくさんいるときは? 小さなニードルをたくさん出して個別に操作できるといいけど、まだ君にそんな魔力操作はできないよね。じゃあ1匹ずつ倒すしかないのかな?」
ルイスに「君にはできない」と言われても、ペタはその通りだと受け入れて真剣に考える。しかしいくら考えても答えが出ない。突き刺す以外の水の攻撃。雨や滝を降らせる。水の檻。水で窒息。それから……。
「それじゃ、やるよ」
ちょうどよく、森の中の泉についた。浅く煌めいており、小魚とも言えない小さな魚やサワガニのようなものしかいない。水深が数センチしかないため大型魚は存在できないのだ。
「【フローター】」
ルイスは泉の水を少量、魔力ですくい上げて浮かせる。水は魚やカニを含んだまま、宙空で球体となった。
「風属性があれば水の周りの圧力を下げて水を蒸発させられるし、火属性があれば水を熱して中の生き物を仕留めればいいんだけど」
他の属性を持ち出して説明するルイスにペタの顔がくもった。全属性持ちのルイスとは違い、ペタは水属性しか持っていない。
水の貴族であるため魔力量は多いのだが、水属性のみしか発現しない縛りがあるのだ。
ペタの顔色の陰りを見たルイスは、優しく説明を続ける。
「水属性は水そのものへ力を加えられる。だから水を引き伸ばして…【ウォーターバインド】」
言葉通り、水は細長い蛇のようにびよーんと伸びて曲がってうねった。小魚が数匹、水から弾き出される。
「陸に打ち上げて自然に息絶えるのを待ってもいいし、そのまま圧縮して…【ウォーターボール】」
球体に戻った水は、ルイスの言葉に従ってみるみる小さくなってゆく。透明な水が澄んだ青に見えるほど圧縮されて縮み、ビー玉ほどのサイズになる。もちろん、中の小魚やカニなどは姿も見えない。圧死して消え失せたのだろう。
「押しつぶすこともできる。群れならこっちのほうが楽でいいし、水の圧縮には魔力が大量に必要だから、ペタに向いてると思うよ」
技自体は初級の誰でも使えるもので、それぞれ拘束とぶつける攻撃を目的としたものだ。なのに、こんな使い方があったとは。それに、自分に向いている…!
ペタはルイスの言葉を反芻して歓喜した。
「すごいです! ありがとうございます!」
ルイス相手ならハキハキ話すペタ。水色の瞳はさらに爛々と輝いている。
「ありがとう。でも君ができないと特訓にならないからね。幸い水はたくさんあるし、ティティーがベアを狩ったらしいから夕飯の心配もない。できるまでやってみて」
「はい!」
ルイスの「できるまでやる」が過酷なことは勇者が一番よく知っているだろう。
しかし、ここにいるのはルイスを崇拝するペタである。ここから始まったルイスの鬼指導を、ペタは喜んで素直に聞き入れた。
一人で竜を倒せるほどのペタの膨大な魔力が尽きたときも、ペタはまだ笑顔で練習を続けようとしていた。
「ここまで慕われるのも怖いな…」
魔力が底をつき泉の横で倒れているのに顔は笑っているペタを見下ろしながら、ルイスは己の人誑し技術の高さに少し引いた。
同じく姉に苦労させられたせいもあり闇堕ちしたルイスは、爽やかな笑顔をキープしながらペタの指導にあたっていた。
ペタが水色の目と髪をしていることも幸いしていた。姉や父を思い出さずに済む。
本当はアゲハを鍛えたかったが、属性ばかりは仕方がない。それにニコライによって鍛えられたアゲハと対戦するのも楽しみだ。無双状態の対抗戦に、少しはハリが生まれるというものである。
そんなルイスは、アゲハが愚痴聞きに回ってまともな練習ができていないことを知らない。
「前は窒息させて仕留める方法を教えたけど、たとえば魚型の魔物が相手だと、水での攻撃は相手を回復させてしまうよね」
「たし、かに…」
ペタは真剣だ。大きな水色の瞳に尊敬の念を湛えながら、しっかりとルイスを見上げている。
魚や、水辺に生きる魔物にとって、通常の水魔法による攻撃は無効である。それに気づかなかったのは、陸上の魔物を相手にする機会のほうが多いから。
気づく機会をくれただけで、ペタのなかでルイスへの尊敬は増すばかりだ。
「じゃあ水辺の魔物に水属性は効かないのかな?」
「…針?」
「それも正解。針や槍なんかのニードル系で突き刺してもいい。じゃあ小さいのがたくさんいるときは? 小さなニードルをたくさん出して個別に操作できるといいけど、まだ君にそんな魔力操作はできないよね。じゃあ1匹ずつ倒すしかないのかな?」
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「それじゃ、やるよ」
ちょうどよく、森の中の泉についた。浅く煌めいており、小魚とも言えない小さな魚やサワガニのようなものしかいない。水深が数センチしかないため大型魚は存在できないのだ。
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水の貴族であるため魔力量は多いのだが、水属性のみしか発現しない縛りがあるのだ。
ペタの顔色の陰りを見たルイスは、優しく説明を続ける。
「水属性は水そのものへ力を加えられる。だから水を引き伸ばして…【ウォーターバインド】」
言葉通り、水は細長い蛇のようにびよーんと伸びて曲がってうねった。小魚が数匹、水から弾き出される。
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「ここまで慕われるのも怖いな…」
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