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どうも、合宿です

どうも、アゲハ&ニコライです

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「闇魔法を知らないって言っても撃破数1位だし、会長が教えてるんだし、まったく知らないわけじゃないでしょ。とりあえず普段の感じでやってみてよ」

 そう言ったニコライが指で示した先には、小さなリスがいた。
 かわいらしい見かけに関わらず肉食の魔物、ニクリスである。一応魔物だが、いかんせん小さいため脅威ではない。近場の森では最多の魔物でもある。

「野生の本能が死んでいるのか…」

 アゲハは小声で呟いて悩む。アゲハの気配を前に逃げないとは、よほど間抜けか気を取られる何かがあったかだ。もしくは、「近場」というだけあって人間への危機感がないか。

「【ダークニードル】」

 アゲハが手を向けると、手のひらから5本の細い針が飛び出してニクリスを地面に磔にした。

「普段は…俺が拘束して、ルイスがドカンとやる」

 そのやり方はもっと大規模な破棄依頼で住民も皆殺しのときのやり方だが、普段から破棄依頼自体は受けているため間違ってはいない。

「おっけー。魔力をこれだけ微調整できるなら僕からは…灰魔法でも教えようかな。会長はできないやつ」

 アゲハは「殺せ」と言われていないため生け捕りにしただけなのだが、思いがけない収穫があった。灰魔法なるものはアゲハでも初耳だ。

 ニコライは「てへっ」と音が付きそうな、額に拳を当てるポーズで舌を出して笑った。

「って言っても、僕が勝手にそう呼んでるだけなんだけど。じゃあ、【灰刃】」

 ニコライは振り返って真顔になり、磔のニクリスに片手を向けると、限りなく黒に近い紫の刃でニクリスの首を落とした。

「今のは?」

 闇魔法は星の輝く夜空を思わせる紫で、ニコライの髪のような色だ。アゲハが本来得意とする黒魔法はこの世の悲哀と絶望をすべて集めたかのような漆黒。それを考えれば、先ほどニコライが使ったのは闇魔法でも黒魔法でもない。

 ニコライは再びアゲハを振り返って笑った。

「人間が黒魔法を使えないのは知っているかな? 魔王のみが使える魔法だと」

「ああ」

「これは黒魔法に限りなく近い闇魔法だよ。いつからか僕にだけ使えるようになってね…。心が淀んだら使えるのかもしれない…」

 話しながら、ニコライの紫の瞳は徐々に暗く淀んでいった。完徹の一夜漬けでテストに臨む学生の目、あるいはオールで飲み明かした大人が仲間と別れて一人になり現実を直視したときの目である。

「すごいじゃないか。闇帝でもここまで闇魔法を極められていないだろう?」

 さすがのアゲハも慰めを口にしたくなった。賞賛も本物だ。人間がここまで黒魔法に近い魔法を使えるとは。
 これは確かに、ルイスも使えない。ルイスは元々得意な光魔法や上位互換の白魔法、習得が困難な聖魔法に力を注いでいる。

 しかし、話題を間違えたようだ。

「…闇帝を知ってるの?」

 うつむきながらギョロっとアゲハを向いた目。

「あー、召喚のときにいたから」

 「アゲハ」として「異世界」を楽しむなかで最も古い記憶であり、唯一公言できる帝との接触。アゲハはなんとか絞り出した。

「ああ、そういえばそうだったね。面識はあるわけだ」

 一応会話に応じたニコライだが、まだズドーンと重い何かしらを背負っており目は死んだままだ。

「ルイスもだが、家族に苦労させられるのは同じらしいな」

「………あれ!? もしかして闇帝の正体…」

 アゲハの慰めに、ニコライはようやく顔を上げた。目は生気を取り戻している。
 シラのアイデンティティが奪われずに済んだ。

 アゲハは苦笑したフリをする。今気づいたように見せるためだ。

「魔力の波長が似ているから」

「くー…! 一番認めたくないところを…!」

 ニコライは頭を抱えて残念がる。せっかくの美人が台無しである。

 そしてアゲハも内心悔しい思いだった。予想が当たったのは喜ばしいことだろうが、できれば外れていてほしかった。

「あの変態戦闘狂が姉で、ギルドの受付とはな…」

 仕事に忠実だと感じたイナイ。あれは仮の姿で、嬉々として罪人を闇魔法でいたぶる戦闘狂が真の姿。そんなこと信じたくなかった。

「そうなんだよ! わかってくれるんだね! ほんとにうちの姉は、家督も継がずに帝だからって好き勝手を…」

 ニコライはイナイの愚痴を日が暮れるまで延々と言っていた。アゲハはテキトーに相槌を打つ。

 輝かしい生徒会メンバーでも、それなりに深い闇を抱えているらしかった。
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