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どうも、謁見です

どうも、謁見です

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 予想した通り、激おこぷんぷんした親は学園長を出せとしぶとかった。

 もう何時間も経っている。そろそろ謁見は終わっただろうか。少なくとも、帝の誰かは謁見の間から出ただろうか。

(ヴィー、少しの間代わってくれるかな。少し本気を出したいんだ)

 念話で呼び出すと、ツヴァイゲルトは縦巻きロールと長いスカートを揺らしながら応接室までやって来た。

「改めて学園長に連絡してみます。少々お待ちください」

 ルイスは伝えて席を立つ。

「もうこっちは何時間も待ってんだよ!」

 貴族とは思えぬ口調で責められる。

 俺たちだってもう何時間も待ってるんだよ、と思いながら、入れ違いざまにツヴァイゲルトに目配せして扉を閉めた。

 身分のしっかりしている彼女には、いくら怒っていても強引な手段には出られない。そういう点では安心できるが、彼女の話し方が鼻につかないかは疑問の残るところだ。一刻も早く学園長を呼び戻したい。そうでなくとも――

(学園長。土帝。じいさん。おいジジイ!)

 ルイスは深呼吸して目を瞑り、集中して怒りをぶつけた。

 国王のいる場所の結界が最も強い。謁見の間、国王の執務室と寝室。よく過ごすその3室には厳重な警備と結界が施されている。

 ただ、城の結界だけならば集中すれば破れるかもしれない。

 やろうと思ったことすらもなかったため初の試みだが、今はやるしかない。光帝時代にも滅多に出さなかった本気を出し、理事長の頭をハゲ散らかすイメージで念話を飛ばした。

(おぬし、ちょっと会わんうちに口が悪くなったのう)

(いいから聞け。場所は学園の応接室。10秒以内に来なければ命はないと思え)

 一方的に言うだけ言って反論は聞かない。
 この程度でここしばらくの憤懣を晴らすことはできないが、少しはストレス発散になった。

 光帝と土帝は対等だが、それはあくまで地位の話だ。
 ルイスは「全帝になり損ねた男」。特殊属性を除くすべての属性を持ちすべての帝に勝ちながらも、全帝と戦う機会がなかったために全帝にはなれなかった。

 今思えば避けられていたのだろう。全帝は危機察知能力の優れた人だと聞いている。

 ともかく、ルイスは全帝に次ぐ権力を認められていた。今は生徒会長と理事長という間柄でも、長年の関係はそうそう覆らない。

 すなわち、理事長は即座に現れた。

「はてさて呼んだかの? ああ、これはこれは。ご子息のお怪我の具合はいかがですかな?」

 応接室に直接転移してきた理事長は、即座に状況を理解したようだ。なんやかんやと相手を宥めつつ、ツヴァイゲルトから金銭面での説明も受けている。

 扉の外で立ち聞きしていたルイスは、そこでようやく歩き出した。まだ生徒会室にたくさん仕事がある。早く片付けなければ――

(ルイス! 男子生徒の乱闘、2階と1階でもやってるみたいや! あと、勇者と戦う会? なんか暴動も起こっとる!)

「はあ…」

 こんな調子で、勇者はこの先世界平和などもたらしてくれるのだろうか。にわかに信じがたい。

「あ、会長! 外に兵隊さん来てるよ」
「ルイスの再招聘? 難しいこと騒いでいたわ」

 女子寮を鎮めて帰ってきたのだろうニコライとティティスが走り寄りながら伝えてくれる。

「わかった。行ってみるよ。2人はこのままミックのサポートに回ってくれるかな? 2階と1階の男子生徒の鎮圧と、なんとかの会って暴動を鎮める…詳しくはミックに聞いてほしい。俺が戻らなければ、あとはティティーに任せる。ヴィーももうすぐ手が空くはずだ」

「わかったよ」
「気をつけてね」

 急な話でも2人は快諾した。

 光帝と炎帝補佐が会長と副会長になってしまったために、会長補佐などという人員を増やすことになったが、臨機応変さやチームワークを考えればこの人選で良かったのかもしれない。
 …選んだのは、何も知らない生徒たちだが。

 炎帝補佐のティティスはもちろん、闇の属性貴族のニコライもそこそこ腕は立つ。学生の暴動程度であれば自分がいなくとも鎮圧できる。ルイスは校門までの道を急いだ。

 門へ到着すると、豪奢な2頭立ての馬車と城の衛兵が何人もいた。

「ルイス・アルフォード。国王陛下がお呼びである。今すぐ城へ馳せ参じるようにと――」

「今すぐでいいんだね」

 イライラしていたルイスは馬車に乗ることなく、城へ直接転移した。

「曲者だ! 捕らえろ!」

「なるほど、怒りで限界は超えられるらしいね」

 謁見の間に現れたルイスは当然ながら城の兵に取り囲まれたが、ぽつりと感嘆の声を漏らしてから、全員を光鎖で捕縛して逆に転がしてやった。

 謁見の間へは念話も難しいが、それはあくまで結界を保持しながらの話。結界を壊していいとなれば話はまた違ってくる――

「ば、ばかな……。光帝が城の結界を壊すなど…」

 それでも城の結界は壊せなかったはずなのだが、イライラしすぎて限界突破したルイスは、以前よりも強くなっているらしい。

「前光帝、ルイス・アルフォード。陛下の命により馳せ参じましたが、ご用件はなんでしょう」

 ルイスはまっすぐ国王に向かって歩く。両脇で衛兵が芋虫のようにぴょこぴょこうねうねしているが、お構いなしだ。間違いなくアゲハの影響を受けている。

「そ、そちは……」

「陛下ぁ! 只今何者かに結界を破られましたぁ!」

 謁見の間に駆け込んでくる衛兵。

 ルイスは「頼むから話を進めてくれ」と思ったが、話が進まないのは正規の手順を無視したルイスのせいである……と、闇ギルドに染まってしまったルイスは思わなかった。

「陛下、ご用件は手短かにお願いします」

「は、はい……」

 なぜ我が国の帝はこうも王に高圧的な人間が多いのじゃ、と国王は思ったが、ルイスの爽やかな笑顔にある笑っていない瞳がよく見る怒ったときの誰かに似ていて、そう言えなかった。

(ルイス、今晩ギルドに顔を出せるか)

 アゲハから念話が入ったのは、ちょうど国王を脅して……いや、国王とお話ししている最中のことだった。

 彼には念話防止結界なんて関係ないのか、と思わず苦笑する。

「なんじゃ前光帝?」

「いえ、それで? 魔族がドラゴンを操ってサバイバル中に襲撃してきた目的なんて、俺が知るはずないですよ。魔族じゃないですし。勇者の実力を見に来たんじゃありませんか? 知りませんが」

 ミケルのよく言う「知らんけど」が伝染った。

「直接魔族に聞けばいいんじゃありませんか?」

 そう言ってからアゲハの使い魔が魔族だったことを思い出したが、もちろんルイスは言わなかった。
 やはりルイスはきちんと腹黒なのだった。
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