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どうも、謁見です

どうも、親です

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 3人の色鮮やかな帝はそのままアゲハたちの席に直進し、店員に椅子を運ばせて勝手に同席した。

「お前らなあ…」

 シラは死んだ顔で呆れている。
 ここまで表情筋が働かないなら死神と同じだ。彼らも表情筋がないくせに表情豊かな一族である。

 死神といえば……ミコトはどうなっただろうか。まあエキシビションマッチとやらでわかるか。秒で興味が失せた。

「だって巻き込まれ君だけ連れて行くなんてさ」
「絶対にご飯奢る気でしょ? ワタシたちも連れて行ってくれていいじゃない」
「私はリズがいないならどうでもいいんだけどね…」

 子供っぽく文句を垂れる赤、扇で口元を隠す青、娘以外はどうでもよさそうなのにちゃっかり便乗している緑。

「先にアゲハに自己紹介しろ」

「炎帝だ!」
「水帝よ」
「風帝だよ」

 あまりにも簡単すぎる自己紹介に、帝の来店だと店中から集まっていた視線が散った。それぞれの席で聞き耳を立てていた客たちが顔を背け、声を押し殺して笑ったのだ。
 まさかギルドのトップオブトップがこんなアホ集団だとは思ってもみなかったことだろう。

 帝の一行は、そんな周りの客は無視してゴーイングマイウェイを続ける。

「自己紹介したからいいよな?」

「お前らには奢らね―」

「なによ、お金持ってんでしょ?」

「持ってない」

「またまたー」

 帝でもあり属性貴族でもある三家がチンピラよろしくシラにたかる。
 わざわざ奢られに来るほど財産が少ないわけではないだろうに。

 すると、シラの表情筋がようやく動いた。渋い顔をしている。似合わない。生きているのに死んだ顔のほうが似合う不思議。

「最近出費が凄いんだよ」

「ああ、もしかして勇者関連の弁償ってシラが…?」

 アゲハが悟った。

 ルイスの明かさなかった金の出どころはシラだったのか。

 なるほど、担任で全帝ともなると勇者の後見人的な立ち位置になるのだろう。実働は生徒会に投げられても、金銭負担を生徒には投げられない。

「ルイスが労力、シラが財力か…」

 地球にいた頃にはどちらもアゲハが担っていた役割だ。

 とはいえ、勇はこちらへ召喚されて力を手に入れている。以前はチンピラに負けていたが、今は大量殺戮も可能な魔力量を保持しているのだ。身体能力も底上げされている。そうなると、地球にいた頃よりも被害は甚大になっているだろう。単純比較はできない。

「え、勇者関連の弁償って何?」

 炎帝が間抜けに尋ねる。

 シラは溜息をついてから、壊れた机や椅子の修理費、怪我人の治療費など、ごくかるーくうっすらと説明した。勇者の名誉を守るためというよりは、今日はもう口を動かしすぎて面倒くさいのだろう。

「お前らの子供はそこのアゲハとよくつるんでるから、勇者から守られてんだよ。ちゃんと礼言っとけよー。あーもうやる気しねー」

 そこまで言うと、シラはいつものシラに戻った。3人が来たことで、アゲハの正体を探るのは諦めたらしかった。

「なんだ、うちの子と? それは大変だ。【遮音結界】オレはフレン・ファイア。炎帝で炎の属性貴族。フレイの父でもある。オレが言うけど、フレイはそそっかしくないか? 心配してるんだ」

「ワタシはピコ・ウォーター。水帝で水の属性貴族で、ペタの母よ。あの子は人見知りだから、迷惑をかけてないかしら」

「私はリシル・ウインド。風帝で風の属性貴族で、うちのかわいいリズベットの父だよ。あの子は昔からかわいいから何をしてもかわいいと思うけど――」

「黙れ親バカ」

 各々が各々らしい自己紹介をしたが、最後だけはシラを含めた風帝以外の帝3人でハモっていた。

「親同士の仲が良いからか、クレアも含めて皆仲良くしているようですよ。フレイは若干テンションが高いけど賢いし、ペタは最近ハキハキ喋るようになっていますし、リズはかわいい毒舌で楽しませてくれます」

 アゲハは偽の微笑を湛えつつ、そつのない受け答えをする。
 かわいい毒舌とは、という話だが、親バカにはこれでいいだろう。

 突然、炎帝がガハハと笑った。顔が見えないだけに脈絡なく笑われると驚く。

「全帝が敬語なしで喋らせてる相手に敬語使わせることはできないぜ」

「そうか。ではそうしよう」

「ペタがハキハキ…。何があったのかしら」

「サバイバルで前光帝に特訓を受けていた」

「娘がリズと呼ぶのを許しているのだから、君は親しい相手なんだろうね…。でも娘はやらん!」

「結構だ」

 三者三様に喋られるとここまで疲弊するとは。見かけも役どころも色物なくせに。アゲハは相当失礼なことを考えていた。

 当の色物たちは学園での娘息子の様子を知れて嬉しそうにしている。
 風帝だけは、アゲハがリズを狙っていないと知れて嬉しそうに、しかし娘のどこに欲しくない要素があるのかと真剣に考えていた。

「息子のことを教えてくれたお礼に、君にも教えておこう。トップシークレットだ」

 炎帝が口元に人差し指を当てた。しーっ、と言わなくとも遮音結界で周りには聞こえないし、アゲハに話せば魔界に伝わったのと同義だ。何の意味もない。

「闇ギルドのことは知ってるか?」

「ああ」

「ちょ…、知ってんのかよ…」

 それまで傍観していたシラがさらにうなだれた。

「実は闇ギルドのほうも帝を立てる話があってな。魔帝と黒帝といって、2人いるらしいんだ。暗殺はもちろんだけど、特に殲滅戦に強くてその被害が凄まじいらしい。会わないように気をつけてくれ」

「わかった」

 裏の帝など、どうせルイスとアゲハのことだろう。

 表の依頼ばかり受けていた数日でそんなことになっているとは。これはマスターに問い詰めなければならない。アゲハは早速ルイスに念話した。

 何かを察したシラは、やたらと疲れた顔をしていた。

「ところで」

 アゲハは切り出す。
 帝3人は「ん?」と前のめりで尋ねる。

「ここは飲食店だろう? 何か頼んだほうがいいと思うのだが」

 そう、帝3人が頼んだのはまだ椅子だけなのである。

 魔王に人間界の常識を指摘され、帝3人は慌てて結界を解き、近くで困惑していた店員にドリンクやらパフェやらを頼んでいた。

「あの……ご注文はチェック表にお願いします」

「バカだろお前ら」

 店員が申し訳なさそうに伝える横で、3人の注文を聞き取ってチェック表に記入していたシラが死んだ顔で呆れた。
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