異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、謁見です

どうも、昼食です

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「何者、か…」

 答えに窮したふりをして、警戒を強める。何がどこまでバレているのか。

 すると、回答に困ったアゲハを導くようにシラは補助的な説明を始めた。
 つくづくデートのリードのようだが、いかんせん相手が間違っている。

「勇者の巻き込まれにも異世界耐性があるってのは、大昔まで遡れば一応、1人くらいは文献にあるんだよ。世界創生のちょい後くらいまでの大昔な? でもアゲハは、使い魔召喚も不自然だっただろ? 人間を召喚したってんなら逆召喚でアゲハが人間じゃねー可能性も考えたけど……まあ堕天使ってことだし? よくわかんねーけどその辺はもう考えねーことにして」

 だるそうにしているだけかと思いきや、意外とよく考えていた。よく考えた結果考えないことにしていて、結局のところ何をどこまで知っているのか、ちょっとよくわからなかった。

「一番は……サバイバルんとき、監督に出てた俺がやられたんだよ」

 この俺が、という態度である。まあ人類最強だというのなら無理もないか。

「あの紫の柱にさ。前光帝…いやルイスも闇は使うけど、あんな使い方はしねーし、そもそもドラゴンで魔族となれば得意な光を使うだろーし。で、闇魔法で俺がやられて、残ったのはルイスと勇者と、お前だけときた。さて、お前は何者だ?」

 考えないと言う割には、やはり予想以上に大変よく考えていた。
 真面目な口ぶりなのに目が死んでいるのが不思議でならない。

「あれが勇者の可能性は考えないのか?」

「森の木まで避けて人だけを直撃させるコントロールが勇者にもありゃ、勅命の授業変更でギルド依頼になんてならねーんだよ」

 あまりにも正論すぎる。
 アゲハは言い逃れを諦めた。もとより逃げ切れるとも思っていない。

 …口では。
 力なら、そこそこの戦いにはなりそうだがなんとかなりそうでもある。いずれ戦ってみたい。

「サバイバル、シラもいたのか」

 それなら細かく魔力探知するべきだったか?
 いや、だが学園でのシラは怠惰のオーラに支配されていて、強者の魔力の魔力は出ていなかった。

 まさか、全帝であることを隠すための昼行灯教師なのか?

「そりゃ、貴族平民ごちゃ混ぜで無人島にぶち込むんだから、食糧の奪い合いで貴族が権力使ったり、仕返しで平民が貴族を無駄に痛めつけたりしないか……まあ放り込んでおいてなんだが、安全第一ってことで監督役の教師が何人かいるんだよ。ったく面倒くせー」

 いや、シラの怠惰はカモフラージュなどではなく、生粋の怠惰だった。

 そして生徒が危険物扱いされていた事実に、人類最強の全帝が、油断していたとはいえアゲハにあっさりとやられていた新事実。
 シラがアゲハの探知にかからなかった事実もある。それは面白い。

 そこでふと、アゲハは気づいた。

「シラはルイスが光帝だったと知っているんだな。ルイスはシラが全帝だと知らないようなのに」

 デカラビアとの戦闘を予期したルイスに、立ち去る前のティティスたちは「学園長には報告するがシラには言わないでおく」と言っていた。

 ティティスたちがルイスの正体を知っている、というのはアゲハの勘だとしても、ルイスが全帝の正体を知っていれば、シラにこそ報告するよう頼むだろう。

「全帝はすべての帝に勝ったと言っていたが、ルイスとは戦っていないのか?」

 一度でも戦っていれば、あのルイスが気づかないわけがない。ルイスは伊達にアゲハのお気に入りではないのだ。
 アゲハ贔屓が過ぎて封印解放なんてザマになってしまったが、実力は本物。アゲハの要望がなければあの程度の洞窟を照らすのに白魔法など使わなかったはずなのである。

 シラは先にやって来た謎の緑色の飲み物をストローで混ぜながら、あーと小さく唸った。

「俺が全帝になったのが先なんだよ。ルイスが光帝になるより。だからルイスじゃなくて、ルイスの前の光帝と戦ってんだわ。光帝がルイスに代わってから顔を合わせる機会なんて……あ、そういや勇者召喚んときだけだったか」

 たった1回、それも勇者に気を取られるタイミングだけだったのなら、気がつかなくても仕方がない。

「帝とはそこまで顔を合わせないものなのか?」

「いんや? 協同の依頼もあるし会議もあるから、結構会うぞ? でもルイスがいるなら俺いらねーし」

 全帝なのに帝の仕事もルイスに押しつけていた新事実。

 もしかすると、だから土帝の理事長はシラに教師の仕事を多く振っていたのかもしれない。せめてこっちの仕事はやれ、との念を感じる。

「ってか、俺が今ちょっと口滑らせたとはいえ、ルイスが光帝だったことまで知ってんのかよ。マジで何者だ?」

「ルイスは偶然だ。ルイスが勇者に光帝を押しつけたのは、俺たちが魔力測定にギルドまで行ったときだったからな」

「あー、なるほど。そういうつながりね。だからはじめから仲良かったんだな」

 寝ているようできちんとチームの様子も把握していたらしい。やる気さえあれば最高の教師だろうに…。無いものねだりをしても仕方ないが。

 そこでようやく料理が届いた。注文してから遅かったわけではなく、アゲハたちの会話のテンポが速かったのだ。食べる前から結構がっつり話し込んでしまった。

 シラの前には生姜焼きとポテトサラダとキャベツの千切りにパンとスープが並べられる。一度でも地球の日本で暮らしてしまうと「そこはご飯と味噌汁だろ」と言いたくなってしまう献立だ。
 アゲハの前にはシラの注文した通り熱々の鉄板に乗ったレアステーキのセットが並んだ。店員は皿を並べ終えるなりすぐに去ってゆく。客には不干渉な店らしい。

「ルイスは偶然、ってことは、他は偶然じゃないんだな……とか言いてーけど、まあ食え。もうすぐおやつの時間だしな」

「そうする。…ありがとう」

 ここは人間なら礼を言うところか、と冷静に考えたアゲハがフォークとナイフを手にしたところで、店の入口が騒がしくなった。

「おーい全…もう脱いでたのか」
「だから言ったでしょ。お気に入りの店にいるって」
「ギルドかここでしか食事しないからなあ」

 快活に呼びかけてくる赤、ドヤついた声の青、どうでもよさそうな緑。炎帝と水帝と風帝だった。
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