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どうも、サバイバルです

どうも、無人島です

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 見渡す限りの森、森、森。緑の葉が瑞々しい木々にはたくさんの赤や黄の果物が実り、垂れ下がっている。食糧には困らなさそうだ。

 とは言いつつ、魔族に食事は要らない。あくまで嗜好品だ。アゲハとしては食べなければ人間には見えないがゆえに食べている、という理由が一番。

「アゲハ、どうする? 勇者に合流?」

 使い魔なだけに引き離されなかったザガンが隣からひょっこり顔を出して尋ねる。

 転移すればまばたきする間に合流できるが、それはなんだか面白くない。

「歩くぞ。どうせ他の奴も転移は使わん」

 正しくは使わないのではなく、使えないのである。

 唯一使えるルイスに関しても、一番乗りで勇の相手をするのを避けるため使わないと予想。正直、勇と合流したいのは王女だけだろう。

 そんなことを考えながら進む。獣道を歩いているのに獣が遠ざかり、魔物はおろか小動物の類とも出会うことはなかった。

「野生の本能で避けるんだろうなあ」

「本能が生きているのは素晴らしいな」

「アゲハに近寄りたい生物なんて物好きしかいないよね」

 ひと言多かったザガンはまたたく間に地面にのめり込まされた。

「だが、俺とお前だけで散歩しても退屈なだけだ。どこかで誰かが暴れてくれれば――」

 ドガーン! と地割れか土砂崩れのような音が起きて、アゲハの言葉は遮られた。ザガンは羽を出して飛び、魔王様を遮った不敬の相手を見る。

 100メートルほど離れたところで、大きな土煙が上がっていた。

 確認だけしてアゲハのもとへ戻る。

「勇者の魔法使用を確認! 敵チームと交戦中!」

「ふむ…近くで見よう」

 気配的には勇1人対知らない奴3人といったところだ。
 勇はサバイバルまで3日間ギルドでみっちり何かを教えられていたらしいが、まだ戦闘慣れはしていないだろう。勇者がフルボッコにされるか、あるいは魔力量に物を言わせて勇者が圧倒するか……。

「第3の選択肢は考えたくないな」

 ひとり呟いたアゲハの言葉の意味を、ザガンはすぐに理解することになった。

「僕は弱い者いじめはしたくないんだ!」

「お前! 異世界から来てすぐのくせにオレたちが弱いってのか!」
「オレらは2年だぞ!」
「そんなんで魔王と戦えんのかよ!」

 1人正論がいる。2人と言えないのは…まあ、勇者のスペック上、勇のほうが強いと言わざるを得ないからだ。

「魔王とは戦う! でも君たちは魔王じゃない! 人間ならわかりあえるはずだ!」

「いいやわかり合えないね!」
「サバイバルで戦いたくないだと?」
「わかりたくねえよそんな気持ち」

 次は全員正論だった。
 学校行事でのバトルを拒むのなら、はじめから参加するなという話である。

 勇は強制参加だったが、事前に嫌だと言えば王国側もそれなりに考えたはずだ。勇者の気持ちを無下にはできないのだから。
 それなのに意気揚々と参加したのは、勇本人である。

「今回の勇者はアホなんですか?」

 ザガンの、臣下としての発言。
 アゲハたちはこの茶番を茂みの影から眺めていた。

「本気で人間なら話し合いですべて解決できると思っているのだ。一番他人の話を聞かんのは奴だと思うがな」

 アゲハは地球での日々を思い出す。あれはなかなかに酷かった。アゲハが酷いと思うくらいには酷かった。

「勇者! まったく、何をやってるんだか」

 色の違う3つの矢が飛び、2年たちのペンダントを射抜く。ペンダントが破壊されたことにより、言い争いに付き合っていた2年らは学園へ転移させられる。それがわずか2秒ほど。
 2年らが消えてから、ルイスたちが反対側の茂みから出てきた。すでにティティス、ミケルと合流している。3年生の経験は侮れない。

「生徒会長! どうして彼らを!」

「どうしてって、サバイバルだからだけど?」

 ルイスは笑顔だが、困ったように眉尻を下げていた。きっと内心では物凄く鬱陶しがっているに違いない。

「だからって、不意打ちで彼らを傷つけるなんて」

「傷つける? 私たちのコントロールを舐めないでちょうだい」

「ちゃんとペンダントだけ破壊したったわ。治療班の仕事増やすんも可哀想やからな」

 予想外の腹黒さに、ティティスとミケルへのアゲハの好感度が5上がった。
 傷つけたくないからではなく仕事を増やしたくないからとは、とてもいい性格をしている。

「でも、大勢で不意打ちなんて――」

「こっちも3人、あっちも3人。大勢じゃないし、不意討ちというなら、君が隙を作らせたんだよ勇者くん。意味がわかるかな」

 もう既に幼稚園児への態度となっているルイス。
 相当に面倒だったらしく、視線をこちらへ投げてきた。

「アゲハも。もう出てきなよ」

 その声に反応したのは、アゲハよりも勇が早かった。

「アゲハ!? いたならどうして出てこなかったの!? そしたら先輩と――」

「お前は魔力測定もできてない俺を戦わせるんだな」

 「先輩と」が「ルイスに加勢」でないことは明らかだ。ただでさえ3対3で戦ったルイスたちを責めているのに。まさかルイスたち味方と戦う気なのか。

 というか、ルイスにも「3対3」と言われていたが、既に他学年からも戦力外だと思われている勇者ってどうなんだ。

「あっ…ちが、そんなつもりじゃなくて…」

「どんなつもりだろうと、ここは戦わなければ自分や周りの大切な人が死ぬ世界なんだ。平和な世界じゃないってこと、わかってほしいな勇者様」

「でも! そんなの哀しすぎるよ!」

 アゲハへの後ろめたさで落ち込んでいた勇は、ルイスの激励で復活した。字面では感動的に思えるが、実際には鬱陶しいだけだった。

「はあ…。ティティー、ミック、アゲハ。他の1年生を探しに行こうか。来る途中にあった川の近くを拠点にしよう」

「ちょっと先輩! 話はまだ終わってないよ!」

 光帝時代に勇の頑固さを体感したルイスは、勇以外に指示を出して歩き出す。勇は聞き流すことにしたらしい。ずっと喋り、いや叫び続けているが、ルイスは無視を続ける。

「ティティーさん! ミックさん!」

「今日が初対面なのに親称で呼ばないで」
「後輩なんやから先輩に敬語使えよ」

 代わりに話しかけた先輩には一蹴され、

「…っ! アゲハぁ…」

 アゲハに泣きついたところで、

「勇様っ!!」

「マリアっ!」

 王女と再会のハグ。

「王女様ってマリアって名前やったっけ?」

「マリアツェビチ…みたいな名前じゃなかった?」

「ビッチか…」

 ルイスが爽やか笑顔に似合わない発言をしたところで、とりあえず2人でよろしくやってろよ、と冷たい空気になった。
 ……ことに、残念勇者は気づいていなかった。

「ティティー、ミック、全力で魔力探知しよう。残りの1年生たちも見つけないと」

 見つけないと…俺たちだけが勇者のお守りなんて、不公平だろ?
 というルイスの腹の中を読み取れたのはアゲハだけだった。

「……いたわ。東に250メートル」

「よし、行こう。走るぞ!」

 ティティスの声に応じてルイスは号令をかけた。皆が一斉に身体強化して走り出す。

 勇者と王女には、2人の世界に入っていて聞こえていなかったようだ。しっかりと取り残されていた。
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