異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、ギルドです

どうも、光帝です

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「君が新しい光帝候補か。君には悪いけど、俺も本気でいかせてもらうよ」

「もちろんだよ! お互い全力でやろうね!」

 一行がギルド地下の訓練室へ移動したところで転移してきた光帝は、爽やかに言い放った。白いローブの下ではきっと微笑んでいるだろう。顔は見えないが爽やかな好青年風で、アゲハが地球で繕っていた姿に似ていた。

 だからなのか、無性に同情心を煽られる。

「素手の相手に剣で戦うなんてできないよ! 君も武器を構えて!」

「そう言われても…身体強化が俺の武器だからさ」

「でも生身だなんて、怪我するよ!」

「身体強化は生身ではないんだけど…。それに、君は今日初めて剣を握ったんでしょ? その程度の相手に俺は怪我しないよ」

 試合開始、とミレイが宣言したにも関わらず、この茶番である。

 光帝の魔力はきちんと制御されており、薄くではあるが手足の指の先にまで魔力がみなぎっている。臨戦体勢だ。ひよっ子勇者が剣を振ったとして、光帝が反撃や回避するほうが早いだろう。

 にも関わらず、残念で変態なお馬鹿勇者は何十分も「武器を構えろ」と言い続けている。もはやその言葉が光帝にとっても観客にとっても武器である。もう聞き飽きたって。

 通常の訓練室を使用しているためギャラリーがいたが、そろそろげんなりしてきていた。

「勇者様。試合の前にこれを言うとフェアではないと思い黙っておりましたが…そちらにいらっしゃる光帝様の二つ名は『神速の光帝』。目にも止まらぬ速さでの身体攻撃が武器なのでございます。重量のある武器を持つと速度が落ちて、戦いづらくなってしまうのです」

 兵士が渋々説明した。早く帰りたいに違いない。

 しかし、この程度の説明で自分を曲げるなら、勇者は勇者ではないのだ。

「だからって、真剣を相手に手ぶらは危ないよ! 盾とかないの? あっ、篭手とか鎧なら動きやすい? 兵士さん、貸してあげて!」

「いえ、だから重量のある物は――」

「あー、いいよ。ありがとう。じゃあギルドのを借りるよ」

 見かねた光帝が、恐らくローブ下で苦笑しながら、訓練室の壁に掛けてあった木刀を握った。

「そんな! こっちは本物の剣なのに木刀だなんて! 切れるんだよ!?」

 しかしやはり勇は引かなかった。

「全力でやろうって言ってたのに、相手が武器を構えないと戦えないってどういうことかな? 相手に隙を作らせないようにしたほうが良いでしょ?」

 戦闘の基本だというのに…と光帝は不思議そうだが、昨日召喚されたばかりの勇者に戦闘の基本などわかるはずもない。

 ならば教えを請えばいいのだが、それをしないのが神野勇という人間である。勇は自分に都合の良い概念を容赦なく押しつけるのだ。それも無自覚に。

「全力と卑怯は違う! 不意打ちなんて卑怯な真似、僕は絶対にしない!」

 だから質が悪いのだ、とアゲハは腕を組み、足を踏み鳴らしていた。いい加減飽きた。察したザガンがハラハラと、いざとなれば逃げる算段を始める。

「こんなに正面からの試合で不意打ちも何もないけど…。あー、もう始めていい? っていうか始まってるよね?」

「武器も構えていない人に攻撃するなんて卑怯なこと、僕にはできないよ!」

「えー、じゃあ俺から攻撃すればいいのかな?」

 光帝のテンションが明らかに下がっている。声のトーンも下がり始めた。鬱陶しく思っているのは明らかだ。

「うん、もう俺から行くね。まずは様子見で…【ライトレーザー】」

 やり取りに飽きた光帝の手から、細いが密度の高い魔力が射出された。

「シャイニングサン!」

 勇は魔武器の名前を呼ぶ。ぎこちない動きから察するに、シャイニングサンが勇の戦闘意思を汲んで勝手に動いたのだろう。レーザーを受け止め、反射する。

 しかしそこは光帝。反射されただけの魔法などすぐに解除し、避けることなく身を守った。

「次は僕の番だよ! 【アクアボール】【竜巻】【土煙】」

 勇は手元のメモを見ながら技名を叫んだ。

 散々卑怯だのなんだの言っておいて、1発に3発返すのか…と観客は思った。

 ボールと呼ぶには大き過ぎる水球が勇者の手から光帝へと、ゆっくりぶよぶよと形を歪ませながら飛んでゆき、光帝近くで発生した竜巻によって四散する。そこへ、舞った土埃を竜巻がさらに巻き上げ、部屋中に濡れた砂礫が舞い踊った。

「殺傷能力はないけど、嫌な魔法だね」

 結界を張るほどの威力でもなかったためあえて直撃した光帝の白いローブは砂で汚れてしまった。洗濯が大変そうだ。

 光帝だけでなく、観客も砂まみれである。アゲハだけはザガンの結界で事なきを得た。

「さっきから気になってたんだけど、そのメモは何かな?」

 光帝はローブをはたきながら尋ねた。余裕である。

「これ? これには友達が教えてくれた魔法が書いてあるんだ!」

「なるほど。道理で詠唱破棄だし、属性がバラバラなわけだ」

 水に風に土に…と、初級魔法ばかり書かれたメモは、勇者が取り巻きに教えてもらった技名である。いくら学生といえど程度が低い。

 光帝は詠唱だとか属性だとか、とりあえず帝らしいことを呟いてから提案する。

「でも今回は光属性での勝負だろう? 一発、大技で勝負するのはどうだろうか」

「わかった。じゃあ、【ライトレーザー】」

「【ライトアロー】」

 勇はさっき知ったばかりの中級魔法を、光帝は初級魔法を、お互い詠唱破棄で放つ。理論的には中級が勝るはずだが――

 勇の放ったコントロール最悪の極太レーザーを、密度の高い矢が切り裂いて進む。
 凄まじいスピードで空を切った光の矢は、勇の頭に直撃した。一方の光帝は、半身を反らしただけでレーザーを回避している。

 小さな細い矢に切り裂かれ回避されたレーザーは、細い光の束となって四方八方に飛び、訓練室の壁や天井をぶち抜いた。魔力量は多いだけに、威力だけは相当である。瓦礫が落ちてきた。

「勇っ!? 貴様、勇に何をした…!」

 気絶して倒れた勇に駆け寄り、光帝に牙を剥くミレイ。

「はいはい降参、勇者が死にそうになったから俺の負けね。治療するから退いて」

 瓦礫のせいだけどね、と光帝は小声で付け足した。

 ライトアローは初級といえど、本来なら頭を抉っていてもおかしくない強度だった。それが気絶程度で済んでいることを思えば、光帝が本気でなかったことなど明らかだ。

 しかし恋は盲目。恋するミレイの暴走は誰にも止められない。ミレイはなおも光帝を罵倒しようとした…が、光帝以上に回復に向いた人員もいないので仕方なく口を閉じた。

「勇者だけあって頑丈だね。これでも過剰だと思うけど【ヒール】すぐに目は覚めるよ」

 光帝は勇に手をかざし、ほんの少し回復魔法をかける。そして思い出したように、

「ああそうだ、俺は負けたから帝を譲らないとね。新しい光帝はこの子だよ。じゃあね。よっしゃこれでギルド移動できる!」

 最後は小声だが心底嬉しそうに、言うだけ言ってガッツポーズしながらどこかへ転移していった。

 転移する前にアゲハを見てニヤリと笑った気がしたのは、気のせいだと思いたい――

(彼奴のことを調べろ)

 アゲハからの命令が下り、やはり気のせいだと思いたかったザガンだった。
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