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どうも、戦闘訓練です

どうも、俺の召喚です

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「ほら、空いてるぞ。さっさと行けよ」

「あ…うん、そうだな」

 散々ネーミングをいじられていじけたフレイはアゲハに八つ当たりするが、答えるアゲハの歯切れは悪い。

 それもそのはず。
 自分の使い魔はブラックドラゴンの長である下僕だ。召喚したって下僕が出てくる。

 アゲハは全員の記憶操作をするか気絶させるか悩んだ末、穏便に結界を張って召喚することにした。

 陣の前に立ち、ゆっくりと手を斎藤で切る。
 怯えているようにしか見えないだろうが、アゲハとしては陣が壊れないように、垂らす血を最小限にするためだ。
 魔王の血に込められた魔力は、それほどまでに高い。

 1滴の血が滴り落ちるとともに、陣から今まで以上の閃光が放たれる。

 それと同時に、アゲハは防視結界を張った。

「ふむ…。今はおやつの時間ではないはずだがな? それにおやつは禁じたはずだ」

「主! まさかいきなりこのような場所から喚ぶとは…」

 たらいに入った木の実をガツガツと食べていた下僕は、尻尾をふりふり抗議する。

 それもそのはず。
 アゲハが召喚陣を使って下僕を喚んだことは、ただの一度もない。

『来いと言われたら来い』

 命令は簡潔だが、常にアゲハの声に耳をすませていなければならない。

 しかしだからこそ、アゲハの声のしなかった今は対応できなかった。

「何か言ったか?」

「なんでもないのだ主よ…」

 おやつを奪われまいと、下僕は怒られる前に下手に出た。

「…まあよい。実は召喚使い魔が必要なんだが、お前は魔王の使い魔として知られすぎている。別の奴を呼んで来い」

 アゲハは取り上げるのも面倒になり、おやつは見逃してやることにした。同胞には甘いアゲハである。

 しかし甘いとはいえ、喚び出しておいて、まさかの帰れ発言。

 一方で、下僕も伊達にアゲハの使い魔をしていない。
 この程度の横暴には慣れているし、おやつを取り上げられないなら許せるのだ。

「主よ、それは二重召喚…。禁忌だぞ?」

 ただ主の横暴を正すのも使い魔の役目なのである。
 その点において、下僕は損な役回りだった。

「だからどうした?」

 答えるアゲハの目は冷酷極まりなく、魔王が禁忌を犯して何が悪い、と傲岸不遜な態度だ。果てしなく魔王である。

 二重召喚の禁止は使い魔の保護と勝手な軍備の拡張を防ぐ目的で設けられたルールだ。一体の追加、それも魔界を統べる魔王がともなれば、問題は少ないだろう。

「………主の命は絶対じゃ。呼んでくる。しばし――」

「俺は待つのが嫌いだ」

 下僕は説得を諦めた。そもそも説得など一度もできた試しはない。
 だからこそアゲハは転生させられたのだ。

 待て、という下僕の言葉を遮り、防視結界を良いことに豪奢な椅子を創り出してかけるアゲハ。脚を組んでくつろぎの姿勢にも見えるが、片手では指を鳴らしている。

 怒らせてはまずいと、下僕は急いで転移した。

「というわけじゃから、急いで誰か来てくれぬか?」

 突然四天王を呼び出し謁見の間に少々小型化して現れた上、「というわけ」でまったく説明のできていない下僕に、四天王全員が首を傾げた。

「なんの話かさっぱり見えないのだが…」

 不安げなバアルは、猫の首も一緒になって首を傾げている。

「とりあえず来いとおっしゃるのであれば…」

 なんとかアゲハの意思を読み取ろうとするバルバトス。

「あんたが逝きな幼馴染」

 魔王の次に暴虐説があるイポスは、ザガンの尻を蹴飛ばした。

「嘘~!? まあいいけど」

 ノリが軽いザガンは、尻をさすりながら承諾した。

 短い話し合いの末、アゲハとの付き合いが長い――というよりも転生時期がほぼ同じだった――ザガンが下僕とともにアゲハのもとへ向かうことになった。

 1人と1匹? むしろ2匹? は召喚陣から転移する。

 キラキラと足下から消えていくその様を見届けたところで、残された3人は会話する。

「ノワール様から呼び出し…ただ事ではないな…」

 やはり心配性のバアルは不安げにしている。

「そうかー? 意外とあっさり片付くことかもしれねーぜ? あの人、人使い荒いから」

「と貴様が言っていたことを報告しようか?」

 ノワール至上主義かつ魔族の教育係を務めるバルバトスは、口の悪いイポスを脅……窘める。

「いやそれはマジで勘弁…」

 訂正。
 イポスが魔王の次に暴虐と言われているのは、力ではなく口調だけだった。
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