異世界へ追放された魔王、勇者召喚に巻き込まれて元の世界で無双する

朔日

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どうも、戦闘訓練です

どうも、授業開始です

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 きちんと、とあえて言うのは、着いていない輩もいるからである。

「じゃあ戦闘訓練の授業を始めるぞ~」

 シラがだるそうに宣言する。
 戦闘訓練の授業の担当はシラらしい。

 確かに一介の教師にはあるまじき勘の良さだよな、怠惰だが。俺がせっかく身に余る魔王のオーラを隠してやっているというのに、奴は身に余る怠惰のオーラを垂れ流している…などとアゲハが余計なことまで考え終わってから、シラが口を開いた。

「ん? なんだ、勇者がまだじゃないか」

 シラがそう言った瞬間に、後ろからドタドタと音が近づいてくる。

 そう。もちろん、着いていない輩とは残念勇者様御一行である。

 アゲハは足音を聞きながら、どうやらゴブリンの群れでも接近してきたようだ、とのんびりしていた。
 そのくらい、時間的にも余裕があったということだ。

「お~い勇者、初日から遅れるな~? しかも戦闘訓練だぞ~?」

 なんだ、ゴブリンではなかったか。しかし知能はゴブリン並みと考えて問題ないな。と、失礼なことを考える暇さえある。

「すみません! 教室がわからなくて…」

「そこの取り巻きたちに聞けよ、アゲハはちゃんと着いてんぞ~」

 女子たちは教師にも取り巻き認定されていた。あれほど騒がしければ無理もないだろう。

 休み時間も勇者の取り合いをしていて移動授業に気づかなかったんだろうな、と皆が推測していた。

「勇者様のせいではありませんわ‼ この方々が勇者様の取り合いをするから…」

「な…⁉ 王女様! 王女様も勇様を自分のものにしようとなさっていたではありませんか‼」

「そうですわ‼ わたくしたちにだけ責任を押し付けるなんて…」

「いくら王女様でも、酷いですわ‼」

 令嬢を貶める王女と、王女を責めているように見えて、ちらちらと残念の様子を窺っている令嬢。

「ふむ、茶番だな」

 アゲハは小さく呟く。

 自分のために他者を貶すとは…。醜悪とされている魔族よりも余程醜悪だ。
 そして魔族は醜悪ではない。体のつくりが人間とやや異なるだけだ。頭がふたつあったり、腕が六本あったり…うむ、個性だな。

 と、旧友を思い出していると、鋭い声に邪魔された。

「っ‼ わたしは王女なのよ? 国の代表たる勇者様の傍にいて当然なのですわ!」

「勇者様は民衆の英雄です! 王女様のものではないのですわっ!」

 そこから再開された言い争いは、けたたましい以外の何物でもなかった。個人個人が口々に、あまりにも叫ぶように主張している。

 なんだ、ゴブリンのほうが可愛いかったか。
 アゲハは溜息をつく。

 収束がつかなくなったところへ、バンバンバンバンと何かをぶつける音が響いた。

「授業始めるから静かにしろ~」

 気だるそうなシラが出席簿で女子生徒たちの頭を叩いていた。
 ついでに勇も。

 叩かれた女子生徒が涙目でシラを見上げる。

「叩くなんて酷いですわ!」
「暴力教師!」
「なんで僕まで!?」

「戦闘訓練なんだから攻撃は当たり前だぞ~」

 口答えすると、さらに出席簿を翳して叩くフリをするシラ。

「ふむ、良い性格だな」

「普段は怠そうにしてるだけなんだけどな」

 つい漏れてしまった本音にフレイが答える。

「シラ先生が動くところはなかなか見られないんだ」

 ほう。うちのケルベロスと同じか。
 彼奴もなかなか動かないが、動けば一歩で城壁を壊せる。門番には最適…いや、最適か? まあバアルがいるから心配ないか。

 珍獣扱いされているらしいシラを興味深く眺める。

 だるそうだが一切隙のない身のこなしに、完璧に制御された魔力。ぼさぼさの銀髪がなんとも残念だが、皮を剥げば逸材だろう。皮を脱ぐ気はなさそうだが。

「さて、勇者も揃ったことだし、魔武器の生成と使い魔召喚をするぞ~」

 勇者ごと取り巻きを出席簿で黙らせたシラが、再び怠そうな顔に戻って言った。

 その足元にはいつの間にか、藁の籠に入った大量の石ころが置かれている。

「タイミングが良すぎないか? 俺たちが召喚されて初回で魔武器生成と使い魔召喚なんて」

 アゲハがこちらにいた頃には、入学して初回の授業で召喚していた。その時期には魔族が喚び出されることもあったからよく知っている。

 しかし今の時期は、地球でいう梅雨。
 8年前よりも数カ月遅くなっている計算になる。

「ああ、今年は勇者召喚が決まっていたから、勇者が来てからすることになっていたんだ。どうせなら一緒にしたほうが良いって理事長の決定でさ」

「なるほど。では今までは魔法の訓練?」

「そうそう! あと筋トレとか地道に体力トレーニングだな! って、アゲハやっぱり飲み込み早すぎ」

 人間の情報を探っているだけだ…とは答えず、秘技「困ったときは勇者のせい」を使う。

「まあ…あれを見ているうちに順応性は上がったかな」

 快活に笑うフレイに苦笑を返すアゲハ。

 2人の視線の先には、アンデッド並みにしぶとく復活した女子に腕を組まれ、もみくちゃにされている勇の姿。

「なるほど…」

 フレイとクレアが同時に言う。残念勇者の残念さが理解できたようだった。
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