7 / 103
どうも、戦闘訓練です
どうも、授業開始です
しおりを挟む
きちんと、とあえて言うのは、着いていない輩もいるからである。
「じゃあ戦闘訓練の授業を始めるぞ~」
シラがだるそうに宣言する。
戦闘訓練の授業の担当はシラらしい。
確かに一介の教師にはあるまじき勘の良さだよな、怠惰だが。俺がせっかく身に余る魔王のオーラを隠してやっているというのに、奴は身に余る怠惰のオーラを垂れ流している…などとアゲハが余計なことまで考え終わってから、シラが口を開いた。
「ん? なんだ、勇者がまだじゃないか」
シラがそう言った瞬間に、後ろからドタドタと音が近づいてくる。
そう。もちろん、着いていない輩とは残念勇者様御一行である。
アゲハは足音を聞きながら、どうやらゴブリンの群れでも接近してきたようだ、とのんびりしていた。
そのくらい、時間的にも余裕があったということだ。
「お~い勇者、初日から遅れるな~? しかも戦闘訓練だぞ~?」
なんだ、ゴブリンではなかったか。しかし知能はゴブリン並みと考えて問題ないな。と、失礼なことを考える暇さえある。
「すみません! 教室がわからなくて…」
「そこの取り巻きたちに聞けよ、アゲハはちゃんと着いてんぞ~」
女子たちは教師にも取り巻き認定されていた。あれほど騒がしければ無理もないだろう。
休み時間も勇者の取り合いをしていて移動授業に気づかなかったんだろうな、と皆が推測していた。
「勇者様のせいではありませんわ‼ この方々が勇者様の取り合いをするから…」
「な…⁉ 王女様! 王女様も勇様を自分のものにしようとなさっていたではありませんか‼」
「そうですわ‼ わたくしたちにだけ責任を押し付けるなんて…」
「いくら王女様でも、酷いですわ‼」
令嬢を貶める王女と、王女を責めているように見えて、ちらちらと残念の様子を窺っている令嬢。
「ふむ、茶番だな」
アゲハは小さく呟く。
自分のために他者を貶すとは…。醜悪とされている魔族よりも余程醜悪だ。
そして魔族は醜悪ではない。体のつくりが人間とやや異なるだけだ。頭がふたつあったり、腕が六本あったり…うむ、個性だな。
と、旧友を思い出していると、鋭い声に邪魔された。
「っ‼ わたしは王女なのよ? 国の代表たる勇者様の傍にいて当然なのですわ!」
「勇者様は民衆の英雄です! 王女様のものではないのですわっ!」
そこから再開された言い争いは、けたたましい以外の何物でもなかった。個人個人が口々に、あまりにも叫ぶように主張している。
なんだ、ゴブリンのほうが可愛いかったか。
アゲハは溜息をつく。
収束がつかなくなったところへ、バンバンバンバンと何かをぶつける音が響いた。
「授業始めるから静かにしろ~」
気だるそうなシラが出席簿で女子生徒たちの頭を叩いていた。
ついでに勇も。
叩かれた女子生徒が涙目でシラを見上げる。
「叩くなんて酷いですわ!」
「暴力教師!」
「なんで僕まで!?」
「戦闘訓練なんだから攻撃は当たり前だぞ~」
口答えすると、さらに出席簿を翳して叩くフリをするシラ。
「ふむ、良い性格だな」
「普段は怠そうにしてるだけなんだけどな」
つい漏れてしまった本音にフレイが答える。
「シラ先生が動くところはなかなか見られないんだ」
ほう。うちのケルベロスと同じか。
彼奴もなかなか動かないが、動けば一歩で城壁を壊せる。門番には最適…いや、最適か? まあバアルがいるから心配ないか。
珍獣扱いされているらしいシラを興味深く眺める。
だるそうだが一切隙のない身のこなしに、完璧に制御された魔力。ぼさぼさの銀髪がなんとも残念だが、皮を剥げば逸材だろう。皮を脱ぐ気はなさそうだが。
「さて、勇者も揃ったことだし、魔武器の生成と使い魔召喚をするぞ~」
勇者ごと取り巻きを出席簿で黙らせたシラが、再び怠そうな顔に戻って言った。
その足元にはいつの間にか、藁の籠に入った大量の石ころが置かれている。
「タイミングが良すぎないか? 俺たちが召喚されて初回で魔武器生成と使い魔召喚なんて」
アゲハがこちらにいた頃には、入学して初回の授業で召喚していた。その時期には魔族が喚び出されることもあったからよく知っている。
しかし今の時期は、地球でいう梅雨。
8年前よりも数カ月遅くなっている計算になる。
「ああ、今年は勇者召喚が決まっていたから、勇者が来てからすることになっていたんだ。どうせなら一緒にしたほうが良いって理事長の決定でさ」
「なるほど。では今までは魔法の訓練?」
「そうそう! あと筋トレとか地道に体力トレーニングだな! って、アゲハやっぱり飲み込み早すぎ」
人間の情報を探っているだけだ…とは答えず、秘技「困ったときは勇者のせい」を使う。
「まあ…あれを見ているうちに順応性は上がったかな」
快活に笑うフレイに苦笑を返すアゲハ。
2人の視線の先には、アンデッド並みにしぶとく復活した女子に腕を組まれ、もみくちゃにされている勇の姿。
「なるほど…」
フレイとクレアが同時に言う。残念勇者の残念さが理解できたようだった。
「じゃあ戦闘訓練の授業を始めるぞ~」
シラがだるそうに宣言する。
戦闘訓練の授業の担当はシラらしい。
確かに一介の教師にはあるまじき勘の良さだよな、怠惰だが。俺がせっかく身に余る魔王のオーラを隠してやっているというのに、奴は身に余る怠惰のオーラを垂れ流している…などとアゲハが余計なことまで考え終わってから、シラが口を開いた。
「ん? なんだ、勇者がまだじゃないか」
シラがそう言った瞬間に、後ろからドタドタと音が近づいてくる。
そう。もちろん、着いていない輩とは残念勇者様御一行である。
アゲハは足音を聞きながら、どうやらゴブリンの群れでも接近してきたようだ、とのんびりしていた。
そのくらい、時間的にも余裕があったということだ。
「お~い勇者、初日から遅れるな~? しかも戦闘訓練だぞ~?」
なんだ、ゴブリンではなかったか。しかし知能はゴブリン並みと考えて問題ないな。と、失礼なことを考える暇さえある。
「すみません! 教室がわからなくて…」
「そこの取り巻きたちに聞けよ、アゲハはちゃんと着いてんぞ~」
女子たちは教師にも取り巻き認定されていた。あれほど騒がしければ無理もないだろう。
休み時間も勇者の取り合いをしていて移動授業に気づかなかったんだろうな、と皆が推測していた。
「勇者様のせいではありませんわ‼ この方々が勇者様の取り合いをするから…」
「な…⁉ 王女様! 王女様も勇様を自分のものにしようとなさっていたではありませんか‼」
「そうですわ‼ わたくしたちにだけ責任を押し付けるなんて…」
「いくら王女様でも、酷いですわ‼」
令嬢を貶める王女と、王女を責めているように見えて、ちらちらと残念の様子を窺っている令嬢。
「ふむ、茶番だな」
アゲハは小さく呟く。
自分のために他者を貶すとは…。醜悪とされている魔族よりも余程醜悪だ。
そして魔族は醜悪ではない。体のつくりが人間とやや異なるだけだ。頭がふたつあったり、腕が六本あったり…うむ、個性だな。
と、旧友を思い出していると、鋭い声に邪魔された。
「っ‼ わたしは王女なのよ? 国の代表たる勇者様の傍にいて当然なのですわ!」
「勇者様は民衆の英雄です! 王女様のものではないのですわっ!」
そこから再開された言い争いは、けたたましい以外の何物でもなかった。個人個人が口々に、あまりにも叫ぶように主張している。
なんだ、ゴブリンのほうが可愛いかったか。
アゲハは溜息をつく。
収束がつかなくなったところへ、バンバンバンバンと何かをぶつける音が響いた。
「授業始めるから静かにしろ~」
気だるそうなシラが出席簿で女子生徒たちの頭を叩いていた。
ついでに勇も。
叩かれた女子生徒が涙目でシラを見上げる。
「叩くなんて酷いですわ!」
「暴力教師!」
「なんで僕まで!?」
「戦闘訓練なんだから攻撃は当たり前だぞ~」
口答えすると、さらに出席簿を翳して叩くフリをするシラ。
「ふむ、良い性格だな」
「普段は怠そうにしてるだけなんだけどな」
つい漏れてしまった本音にフレイが答える。
「シラ先生が動くところはなかなか見られないんだ」
ほう。うちのケルベロスと同じか。
彼奴もなかなか動かないが、動けば一歩で城壁を壊せる。門番には最適…いや、最適か? まあバアルがいるから心配ないか。
珍獣扱いされているらしいシラを興味深く眺める。
だるそうだが一切隙のない身のこなしに、完璧に制御された魔力。ぼさぼさの銀髪がなんとも残念だが、皮を剥げば逸材だろう。皮を脱ぐ気はなさそうだが。
「さて、勇者も揃ったことだし、魔武器の生成と使い魔召喚をするぞ~」
勇者ごと取り巻きを出席簿で黙らせたシラが、再び怠そうな顔に戻って言った。
その足元にはいつの間にか、藁の籠に入った大量の石ころが置かれている。
「タイミングが良すぎないか? 俺たちが召喚されて初回で魔武器生成と使い魔召喚なんて」
アゲハがこちらにいた頃には、入学して初回の授業で召喚していた。その時期には魔族が喚び出されることもあったからよく知っている。
しかし今の時期は、地球でいう梅雨。
8年前よりも数カ月遅くなっている計算になる。
「ああ、今年は勇者召喚が決まっていたから、勇者が来てからすることになっていたんだ。どうせなら一緒にしたほうが良いって理事長の決定でさ」
「なるほど。では今までは魔法の訓練?」
「そうそう! あと筋トレとか地道に体力トレーニングだな! って、アゲハやっぱり飲み込み早すぎ」
人間の情報を探っているだけだ…とは答えず、秘技「困ったときは勇者のせい」を使う。
「まあ…あれを見ているうちに順応性は上がったかな」
快活に笑うフレイに苦笑を返すアゲハ。
2人の視線の先には、アンデッド並みにしぶとく復活した女子に腕を組まれ、もみくちゃにされている勇の姿。
「なるほど…」
フレイとクレアが同時に言う。残念勇者の残念さが理解できたようだった。
42
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる