安易に異世界を選んだ結果、食われました。

野鳥

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本編

28 オルタリア家の人たち

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「おい、いつまで揉んでるんだよ」

ニコニコ笑いながら、もにもにとおれの腕を揉んでいたロズディオンに、ディオーレンが注意しながら握っていた手を叩き落として腕を解放してくれた。
ベシリと叩かれた手をプラプラと揺らしながら、

「ああ、残念。もっと触らせてくれてもいいのに」

と残念そうに眉を下げているがやっぱり目が笑ってる。

「減る」
「減らないよ」
「なんでお前が決めるんだよ」
「ね?テンもそう思うよね?」

ひえっ…こっちに話ふらないでよ…っ!

ビクリと震えたおれを、ディオーレンが左に寄せてロズディオンから見えない所に匿ってくれた。
ディーの双子の弟のロズディオンはちょっぴり苦手だ。


……………すみません。ちょっぴりじゃないです…だいぶ苦手です。
何考えてるか分からないんだもん。

ディオーレンと同じ赤毛に琥珀色の瞳で目尻は少し下がっている。甘い雰囲気を醸し出す外見はさぞや恋人に事欠かないであろう。
特に次期侯爵当主であるロズディオンは外面も良い。ニコニコ微笑みながら人の裏を探るのが趣味だってディーに聞いたことがある。
なんつー趣味だよ。
ディーには人の裏を読むって無理だもんね…そんなディーだから好きなんだけど…って恥ずっ。

だから初対面の時にはずっとニコニコ微笑んでいるロズディオンが怖くて怖くて…。普通の子供だったら微笑んでいるお兄さんにしか見えないから安心して懐くかもしれないけど、おれには威嚇されているようにしか思えなかった。
極力関わらないようにしていたら、それがロズディオンには新鮮だったみたいで、何故かめちゃくちゃ懐かれたんだよ…何で?

それから何かとちょっかいをかけられるようになったんだけど、被害があるわけじゃないから嫌とも言えない。
ただこっちが勝手に警戒してるだけなんだよねぇ。なんか怖いから。

隠れてホッと息をついたところをオルタリア家のご両親に微笑ましげに見られていた。

「ふふっオーリもロジィもテンちゃんの事が大好きだね。もちろん私達も大好きだけどね」
「ああ、こんなに可愛くておもしろ…頼もしい嫁がオーリのところに来てくれるなんて嬉しい限りだ」

ちょっ、ディーの父ちゃん!今面白いって言ったよね!?聞こえてるかんな!!

侯爵家当主のブレイブ・オルタリアは赤毛に琥珀色瞳で当主になる前は王族の近衛兵隊長を勤めていた。隊長と言うだけあって筋骨隆々……とまではいかないが、かなり鍛えられているのがわかる。
実践向きの筋肉って感じ?
おれの左に座っているのはディーの母親、侯爵夫人のラバニャ・オルタリア。
腰まである真っ直ぐの栗毛は緩く一つにまとめて前に垂らしていて、ディーと同じ翡翠色の瞳はいつも優しく、身長が190センチを超えてなければ女性にしか見えない。

甘々なオルタリア家の人達だが、テンをからかって遊ぶのもまた楽しんでいるので、色んな表情で反応するテンが可愛くてしょうがない。

ぷくっと頬を膨らまして不満気なテンの姿に、オルタリア家の人は見悶える。
うちの子(嫁)可愛い…!!と。

「ゴホン…皆様、そろそろ宜しいですか?お祭りについて話し合いを進められないとテン様との御昼食会は無しになりますよ」

執事のドムさんが窘めるように発言すると、一斉に「ではお祭りについて詳しく聞こうか」と姿勢を正した。
ドムさんありがとう…!でも昼食会って何?今初めて聞いたけど?普通のお昼ご飯の事だよね?

執事のドムさんは50歳くらいの細身のナイスミドル。細身とは言っても適度な筋肉がついていて、190オーバーの身長に見合った肉体はシュッとしていて凄く格好いい。
ディーの剣術の師匠としての面を持つ凄腕の執事さんだ。うーん、マンダム。

「さっきの紙をもう一度見せてくれるかな?」
「…はい」

侯爵家当主であるブレイブ・オルタリアは先程までの甘さはなりを潜め、仕事のスイッチを入れたようだ。
この切り替えにテンはちょっぴり怖気付く。
真剣に紙を見つめながら色々と質問をしてくるブレイブに、必死でテンは答えを返す。
どんな出店がいいのか、人混みはどのくらいになるのか、御神輿は何故人が担ぐのか、時間はどのくらいになるのかetc.etc.etc.……

必死なあまりにテンは7歳とは思えない程の知識と応答に、オルタリア家の人達は苦笑を漏らしながらも自領にとってのメリットとデメリットを計算していく。

テンの目がくるくると回り始めた頃、ようやくお昼になり、解放された。
くるくるどころじゃないお目目はぐるぐるだ。

くったりと疲れきっているテンの背中をポンポンと宥めながら、ディオーレンはテンを抱えて移動する。テンはこっくりこっくりと船をこいでいる。
それを眺めながら隣を歩くのはロズディオンだ。

「うーん、テンは天使のテンだったんだねぇ?」
「はあ?」
「だって神の御使いでしょ?天使って」
「何言ってんだ?テンが天使なのは今に始まった事じゃねぇだろ」
「そういう意味じゃないんだけどね。オーリは相変わらず脳筋だねぇ」
「あ?バカにしてんのか?」
「してないよ。そのままでいてねって話」

ニコニコと笑うロズディオンに、ディオーレンはため息をつく。

「あんまりテンをからかってやるなよ。まだ警戒してんだろーが」
「いやぁ、それが可愛くてしょうがないんだよ。周りにはベタベタと近寄ってくる奴しかいないからね」
「それが楽しくてしょうがねぇって顔してる奴は誰だよ」
「誰だろうねぇ?」

ふふふふっと笑うロズディオンに、ディオーレンはイイ性格してるよとため息をつく。
だがそのお陰で侯爵家を継がなくていいのだからディオーレンにとっては幸いだった。







********




テンちゃんのパパママより先に出るオルタリア家のご両親(笑)


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