22 / 23
好き好き目を見て言えたなら
Ⅲ
しおりを挟む
ーーどう電車に乗ったのか、覚えていない。ただ、あれからの会場がお通夜状態だったことは覚えている。
和泉君が本当に脱退してしまうことを突きつけたのは、配信された時事ニュースだった。
「WORLD 和泉裕斗(21)、本日付で脱退&芸能界引退」
「花凛! 今日入ってるよね? 大丈夫?」
サナから連絡が入る。返事ができない。指が動かせない。窓から見える真っ暗な景色が、ただ流れてゆく。
千歩譲って、脱退は良い、良くないけど。でも、引退って。そんな急に。案の定、ファンからは何かしでかしたんじゃないかと噂されている。
家に着くと、電気も付けずにベッドに飛び込んだ。ただいまも言わない私に、お母さんの小言がブツブツと聞こえた。
壁に貼ってある、和泉君のポスターと目が合う。この頃から、脱退とか考えていたのかな、なんて勘繰ってしまい、余計落ち込んだ。
あ、小説の更新。……明日でいいや。
今は何も考えたくない。私はゆっくり目を閉じた。
翌朝目を覚ますと、もうお昼だった。授業のサボりが決定した。おまけに化粧を落としていない。最悪だ。気のせいか、目がゴロゴロする。
無意識にスマホを触る。WORLDの公式アカウントからは、和泉君の写真が消えていた。あっけない。こんなものなのか。
中学三年生、5月3日。見るもの全てにキラキラのエフェクトがつくほど、世界が輝いて見えた。和泉君が与えてくれたのは、将来の夢と生きがいと幸せ。
大学一年生、11月30日。好きだったのに。誰よりも応援してたのに。光が消えちゃった。私の体は、ほとんどが和泉君で出来ている。
私は、午前中で授業が終わるサナを近所のレストランに呼び出した。そして、思い切り泣いた。人目も憚らず、気が済むまで泣いた。
「最近さ、芸能人もインフルエンサーとして活躍してる人増えてるじゃん? だから、和泉君も近いうち個人アカウント開設するんじゃない? てか、もう事務所決まってたりして」
テーブルにてんこ盛りになったティッシュには目もくれず、サナはハンバーグを切っていく。私は何度目かわからない鼻をかむ。
「だと良いんだけど」
「てか、和泉君が一抜けとはねー。佐野かと思ったわ。あ、失礼か」
この日も、その翌日も、明明後日も。私はこまめにSNSを見ていたけれど、和泉君らしきアカウントが見つかることはなかった。
和泉君のいの字すら見なくなった頃。私は全てを諦めた。そしてそれと同時、「みんなの文芸部」を開くことをやめた。
どうしよう、何もやる気が起きない。授業にも出たくない。今まで何であんなに動けてたんだろう、私。あっという間に堕落した生活に逆戻りだ。
和泉君、今さら一般人なんかに戻れるのだろうか。小学生から今まで芸能界にいて、就職活動なんて出来るのだろうか。
何であんな急に辞めたんだろう。理由は一向に語られない。一度も女と撮られたことのない、完璧なアイドルだった。もしかして本当に、クスリとか犯罪絡み? うわ、嫌すぎる。和泉君はそんなことしない。ぶんぶんと頭を振る。軽い脳震盪。アホすぎる。
私の夢、なくなっちゃった。
和泉君が本当に脱退してしまうことを突きつけたのは、配信された時事ニュースだった。
「WORLD 和泉裕斗(21)、本日付で脱退&芸能界引退」
「花凛! 今日入ってるよね? 大丈夫?」
サナから連絡が入る。返事ができない。指が動かせない。窓から見える真っ暗な景色が、ただ流れてゆく。
千歩譲って、脱退は良い、良くないけど。でも、引退って。そんな急に。案の定、ファンからは何かしでかしたんじゃないかと噂されている。
家に着くと、電気も付けずにベッドに飛び込んだ。ただいまも言わない私に、お母さんの小言がブツブツと聞こえた。
壁に貼ってある、和泉君のポスターと目が合う。この頃から、脱退とか考えていたのかな、なんて勘繰ってしまい、余計落ち込んだ。
あ、小説の更新。……明日でいいや。
今は何も考えたくない。私はゆっくり目を閉じた。
翌朝目を覚ますと、もうお昼だった。授業のサボりが決定した。おまけに化粧を落としていない。最悪だ。気のせいか、目がゴロゴロする。
無意識にスマホを触る。WORLDの公式アカウントからは、和泉君の写真が消えていた。あっけない。こんなものなのか。
中学三年生、5月3日。見るもの全てにキラキラのエフェクトがつくほど、世界が輝いて見えた。和泉君が与えてくれたのは、将来の夢と生きがいと幸せ。
大学一年生、11月30日。好きだったのに。誰よりも応援してたのに。光が消えちゃった。私の体は、ほとんどが和泉君で出来ている。
私は、午前中で授業が終わるサナを近所のレストランに呼び出した。そして、思い切り泣いた。人目も憚らず、気が済むまで泣いた。
「最近さ、芸能人もインフルエンサーとして活躍してる人増えてるじゃん? だから、和泉君も近いうち個人アカウント開設するんじゃない? てか、もう事務所決まってたりして」
テーブルにてんこ盛りになったティッシュには目もくれず、サナはハンバーグを切っていく。私は何度目かわからない鼻をかむ。
「だと良いんだけど」
「てか、和泉君が一抜けとはねー。佐野かと思ったわ。あ、失礼か」
この日も、その翌日も、明明後日も。私はこまめにSNSを見ていたけれど、和泉君らしきアカウントが見つかることはなかった。
和泉君のいの字すら見なくなった頃。私は全てを諦めた。そしてそれと同時、「みんなの文芸部」を開くことをやめた。
どうしよう、何もやる気が起きない。授業にも出たくない。今まで何であんなに動けてたんだろう、私。あっという間に堕落した生活に逆戻りだ。
和泉君、今さら一般人なんかに戻れるのだろうか。小学生から今まで芸能界にいて、就職活動なんて出来るのだろうか。
何であんな急に辞めたんだろう。理由は一向に語られない。一度も女と撮られたことのない、完璧なアイドルだった。もしかして本当に、クスリとか犯罪絡み? うわ、嫌すぎる。和泉君はそんなことしない。ぶんぶんと頭を振る。軽い脳震盪。アホすぎる。
私の夢、なくなっちゃった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる