上 下
20 / 23
好き好き目を見て言えたなら

しおりを挟む
 机に置いてあるスマホが震える。私は体を起こし目を覚ます。そしてここが図書室だと言うことを思い出し、慌ててアラームを解除した。開いたままのパソコンは画面が暗くなっている。散乱している授業プリント。


 あー、やらかした。課題やろうとしたら、寝た。そもそもアラームをかけた時点で、昼寝しに来たようなものだ。最悪。私は書きかけのレポートをUSBに保存する。この90分で3行しか書いてない。
 私の通うS女子大とひかるちゃんの通うF女子大は、新宿を経由して10分ほど。そんなに離れていないことがわかり、今日は授業後にご飯に行く約束をしていたのだ。


 大学生になっても、私はちまちまと文章を書いていた。相変わらずみんなの文学部ではランキング圏外だし、感想も全然来ないけれど。ここ最近、和泉君うんぬんよりも本気で小説家になりたいと思っている自分がいた。いや和泉君には主演演じてもらいたいけど。


 3月に出した、日本純文学大賞。ひかるちゃんだけが、一次通過した。
 おめでとうって、言えた。でも悔しかった。


 ひかるちゃんに比べたら、私なんてまだまだ。足元にも及ばない。そもそもそんなに作品を書いていない。だいたい、文学賞に応募したのも
 元から負けず嫌いな性格の私のことだ。一気に火がついた。
 悔しい。悔しい。悔しい。私だって。
 ひかるちゃんは好き。
 優しいし、面白いし、よく気遣ってくれる。でも、ライバル。きっとひかるちゃんは、私のこと友達にしか見てないだろうけど。


 筆記用具を適当にバッグに詰める。そういえば、WORLDからツアー申し込み開始のメールが来てたな。よーし、バイト増やさなきゃ。行くところは毎年一緒。東京、名古屋、大阪。余裕があったら、福岡も追加。和泉君、待っててね。


 ーー「冒頭だけ文学賞?」
 「そう。200字詰め原稿用紙2枚以内。一人何作でも応募可、だって」


 久しぶりに会うひかるちゃんは、何というか、自信に満ち溢れている感じがした。そりゃそうだ、あの日本純文学大賞の一次を通過したのだ。応募総数2012。狭き門。私はオムライスをつつく。


 「一緒に応募してみない? 文字数も少ないし、腕試し! って感じで」
 ……また、ひかるちゃんだけが通ったら?
 文字数が少なかろうが、私にとっては立派な文学賞だ。


 そもそも文学省って、こうやって約束して応募するものなのか? 個人の戦いをイメージしていたから、何だか違和感。言葉めちゃくちゃ悪いけど、慣れあっていたらいつまでも大賞なんて取れないんじゃないか。


 「ちょっと考えとく! 今小説大賞にも応募しようか悩んでて」
 「今年の審査員、零さんなんだよね。私もそこは出すつもり」


 零が?
 名前を聞いた途端、スプーンに乗っけていた卵がお皿に落ちた。
 そういえば、今宮がデビューしたのって小説大賞だよね。今6月で、締め切りが11月。あと5ヶ月しかない。しかも今書きかけの作品が2つある。普通に考えて、時間がない。


 でもどうしても、応募したい。
 今宮に、私これだけ書けるようになったよって。アンタの手助けなくても、一本書けるようになったよって。そもそも今宮が読むかわからないけど。


 「ジャンル不問だけど、どんなの書く?」
 「えっ」


 たった今応募を決めたからそんなの考えてるはずがない。
 私はざっと計算をする。


 WORLDのライブが、1ヶ月後に始まる。まず大阪からスタート。まあ行ける。その2ヶ月後が名古屋。これも行けるな。そしてオーラス、東京。5ヶ月後。


 「丸被りじゃんかよ!」


 いきなり大声を出した私を、ひかりちゃんは若干引いたような顔で見る。
 噓でしょ、5ヶ月後? 本当に11月? 私はスマホでツアー日程を確認する。嘘だ嘘だ。画面には、無慈悲にも東京11月28~30日、の文字。
 行かないという選択肢はない。そうこれは、神からの試練。やってみせますとも。


 「実は今から練って書き始める。今連載してるの、更新止まったら察してください」
 「おっけー。頑張ろうね!」


 このチャンス、逃すわけにはいかない。今宮に、絶対読ませてみせる。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

狐火の夜

nayut@
ライト文芸
800年の時を越えて出会う少年ときつねの物語

隠し事は卒業する

ばってんがー森
ライト文芸
卒業式後の教室での先生の最後の授業が始まる……?

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...