千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう

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好き好き目を見て言えたなら

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 机に置いてあるスマホが震える。私は体を起こし目を覚ます。そしてここが図書室だと言うことを思い出し、慌ててアラームを解除した。開いたままのパソコンは画面が暗くなっている。散乱している授業プリント。


 あー、やらかした。課題やろうとしたら、寝た。そもそもアラームをかけた時点で、昼寝しに来たようなものだ。最悪。私は書きかけのレポートをUSBに保存する。この90分で3行しか書いてない。
 私の通うS女子大とひかるちゃんの通うF女子大は、新宿を経由して10分ほど。そんなに離れていないことがわかり、今日は授業後にご飯に行く約束をしていたのだ。


 大学生になっても、私はちまちまと文章を書いていた。相変わらずみんなの文学部ではランキング圏外だし、感想も全然来ないけれど。ここ最近、和泉君うんぬんよりも本気で小説家になりたいと思っている自分がいた。いや和泉君には主演演じてもらいたいけど。


 3月に出した、日本純文学大賞。ひかるちゃんだけが、一次通過した。
 おめでとうって、言えた。でも悔しかった。


 ひかるちゃんに比べたら、私なんてまだまだ。足元にも及ばない。そもそもそんなに作品を書いていない。だいたい、文学賞に応募したのも
 元から負けず嫌いな性格の私のことだ。一気に火がついた。
 悔しい。悔しい。悔しい。私だって。
 ひかるちゃんは好き。
 優しいし、面白いし、よく気遣ってくれる。でも、ライバル。きっとひかるちゃんは、私のこと友達にしか見てないだろうけど。


 筆記用具を適当にバッグに詰める。そういえば、WORLDからツアー申し込み開始のメールが来てたな。よーし、バイト増やさなきゃ。行くところは毎年一緒。東京、名古屋、大阪。余裕があったら、福岡も追加。和泉君、待っててね。


 ーー「冒頭だけ文学賞?」
 「そう。200字詰め原稿用紙2枚以内。一人何作でも応募可、だって」


 久しぶりに会うひかるちゃんは、何というか、自信に満ち溢れている感じがした。そりゃそうだ、あの日本純文学大賞の一次を通過したのだ。応募総数2012。狭き門。私はオムライスをつつく。


 「一緒に応募してみない? 文字数も少ないし、腕試し! って感じで」
 ……また、ひかるちゃんだけが通ったら?
 文字数が少なかろうが、私にとっては立派な文学賞だ。


 そもそも文学省って、こうやって約束して応募するものなのか? 個人の戦いをイメージしていたから、何だか違和感。言葉めちゃくちゃ悪いけど、慣れあっていたらいつまでも大賞なんて取れないんじゃないか。


 「ちょっと考えとく! 今小説大賞にも応募しようか悩んでて」
 「今年の審査員、零さんなんだよね。私もそこは出すつもり」


 零が?
 名前を聞いた途端、スプーンに乗っけていた卵がお皿に落ちた。
 そういえば、今宮がデビューしたのって小説大賞だよね。今6月で、締め切りが11月。あと5ヶ月しかない。しかも今書きかけの作品が2つある。普通に考えて、時間がない。


 でもどうしても、応募したい。
 今宮に、私これだけ書けるようになったよって。アンタの手助けなくても、一本書けるようになったよって。そもそも今宮が読むかわからないけど。


 「ジャンル不問だけど、どんなの書く?」
 「えっ」


 たった今応募を決めたからそんなの考えてるはずがない。
 私はざっと計算をする。


 WORLDのライブが、1ヶ月後に始まる。まず大阪からスタート。まあ行ける。その2ヶ月後が名古屋。これも行けるな。そしてオーラス、東京。5ヶ月後。


 「丸被りじゃんかよ!」


 いきなり大声を出した私を、ひかりちゃんは若干引いたような顔で見る。
 噓でしょ、5ヶ月後? 本当に11月? 私はスマホでツアー日程を確認する。嘘だ嘘だ。画面には、無慈悲にも東京11月28~30日、の文字。
 行かないという選択肢はない。そうこれは、神からの試練。やってみせますとも。


 「実は今から練って書き始める。今連載してるの、更新止まったら察してください」
 「おっけー。頑張ろうね!」


 このチャンス、逃すわけにはいかない。今宮に、絶対読ませてみせる。
 
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