19 / 23
こんなに苦しくないのかな
Ⅳ
しおりを挟む
――「卒業生代表、今宮悠人」
今宮は、相変わらずぼさっとした髪で立派に答辞を読んでいた。マイクを通しているから、珍しくはっきりと声が聞こえる。
桜がちらちらと咲き始め、体育館をゆったりとした風が流れてく。三月中旬、卒業式。高校生が、終わってしまった。
……秀才幼馴染と、何をしてもダメなクラスメイト。うん、アリ。
暇があれば、こうして少しでも小説のネタになるようなものを探す癖がついてしまった。
結局、連絡を取らないまま卒業式を迎えてしまった。そもそも何で私だけこんな必死なんだろう。今宮は、私のこと気にならないのだろうか。気にならないか。ただのクラスメイトだし。いや、今はそもそもクラスメイトでもない。
こんな頭脳も文章力も天地の差がある私なんか、気にも留めないか。
わかっているのに、悔しいというかムカつくと言うか。
本当に、これで良いのかな? だって、明日からもう登校しないんだよ。制服のスカートを握り締める。
壇上にいる今宮が、答辞を読み終えると頭を下げた。体育館を拍手が包む。
時間だけが、淡々と進んでいく。
結論から言うと、私と今宮は会えなかった。
高校生活最後のホームルームが終わって、一目散に5組の教室に行ったけれど、今宮はもういなかった。用事があるらしくて、すぐさま出て行ってしまったと言う。周りがハグを交わしたり写真を撮る中、私はトボトボと廊下を歩いていた。
その時。目の前から猪みたいな勢いで誰かがやってきた。
「かりーん! ウチらの友情は永遠だからね、卒業しても遊ぼうね」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のサナが抱きついてきた。私はさりげなく避けつつ、ティッシュを渡す。
「そうだね、ウチら家近いし定期的に会おう」
「本当さ、花凛だけだったよ、オタクの価値観合うの。なーんか今の界隈、しっくりくる子いなくてさ」
「奇遇。私も同じこと思ってたよ」
「にしても、わざわざ走ってまで今宮に会いに行くとはねえ。もっと早く教えてくれればいくらでも協力したのに」
「変な誤解してない?」
私が好きなのは、和泉君だけなので。でも、変な心残りが出来てしまった。
夕方から、クラスで焼肉に行くらしい。本当に、高校生が終わってしまった。一つの大きなチャンスを、私は逃したのだ。
和泉君が好き、大好き。世界で一番好き。ピアノ、弾いてほしい。幼馴染に一途な男子高校生役を演じてほしい。でもいくら好きでも、出来ることと出来ないことがある。私が小説家になるのは、後者なのかもしれない。
今宮は、相変わらずぼさっとした髪で立派に答辞を読んでいた。マイクを通しているから、珍しくはっきりと声が聞こえる。
桜がちらちらと咲き始め、体育館をゆったりとした風が流れてく。三月中旬、卒業式。高校生が、終わってしまった。
……秀才幼馴染と、何をしてもダメなクラスメイト。うん、アリ。
暇があれば、こうして少しでも小説のネタになるようなものを探す癖がついてしまった。
結局、連絡を取らないまま卒業式を迎えてしまった。そもそも何で私だけこんな必死なんだろう。今宮は、私のこと気にならないのだろうか。気にならないか。ただのクラスメイトだし。いや、今はそもそもクラスメイトでもない。
こんな頭脳も文章力も天地の差がある私なんか、気にも留めないか。
わかっているのに、悔しいというかムカつくと言うか。
本当に、これで良いのかな? だって、明日からもう登校しないんだよ。制服のスカートを握り締める。
壇上にいる今宮が、答辞を読み終えると頭を下げた。体育館を拍手が包む。
時間だけが、淡々と進んでいく。
結論から言うと、私と今宮は会えなかった。
高校生活最後のホームルームが終わって、一目散に5組の教室に行ったけれど、今宮はもういなかった。用事があるらしくて、すぐさま出て行ってしまったと言う。周りがハグを交わしたり写真を撮る中、私はトボトボと廊下を歩いていた。
その時。目の前から猪みたいな勢いで誰かがやってきた。
「かりーん! ウチらの友情は永遠だからね、卒業しても遊ぼうね」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のサナが抱きついてきた。私はさりげなく避けつつ、ティッシュを渡す。
「そうだね、ウチら家近いし定期的に会おう」
「本当さ、花凛だけだったよ、オタクの価値観合うの。なーんか今の界隈、しっくりくる子いなくてさ」
「奇遇。私も同じこと思ってたよ」
「にしても、わざわざ走ってまで今宮に会いに行くとはねえ。もっと早く教えてくれればいくらでも協力したのに」
「変な誤解してない?」
私が好きなのは、和泉君だけなので。でも、変な心残りが出来てしまった。
夕方から、クラスで焼肉に行くらしい。本当に、高校生が終わってしまった。一つの大きなチャンスを、私は逃したのだ。
和泉君が好き、大好き。世界で一番好き。ピアノ、弾いてほしい。幼馴染に一途な男子高校生役を演じてほしい。でもいくら好きでも、出来ることと出来ないことがある。私が小説家になるのは、後者なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
女難の男、アメリカを行く
灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。
幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。
過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。
背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。
取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。
実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。
大学名に特別な意図は、ございません。
扉絵はAI画像サイトで作成したものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる