上 下
16 / 23
こんなに苦しくないのかな

しおりを挟む
 「えー、図書委員は月に5回集まりがあります。他の委員会よりもかなり多めですが、『日本一の読書の高校』を目標としており、本にはかなり力を入れております。なので、くれぐれもサボるといった行為は……」


 去年と同様、おじいちゃん先生がゆっくりと説明を始める。心を無にしている3年生、気だるそうな2年生、何も知らずに入り期待に目を輝かせる1年生。
 きっとこの子達は、来年一人もいないだろう。


 サナとは同じクラスになれたものの、今宮とは離れてしまった。私が1組で、今宮が5組。体育の時間も同じにならない。


 「クラスが離れても、図書委員に入ろう」


 そう約束したのに。今ここに、今宮の姿がなかった。3年5組には、知らない顔が二つ。
 今宮がいないのなら、図書委員になった意味がない。そもそも何でいないわけ⁉ そっちが言ってきたのに! うわー、なんかムカついてきた。私だって、好きで入ったんじゃない。


 万年不人気で、毎年図書委員はじゃんけんで負けた人がなるのに、今年は私のおかげですぐに決まった。神だと崇められた。全く嬉しくない。


 「すみません。辞退したいのですが」
 「却下です」


 おじいちゃんが私の声に被せるように言った。最悪だ。


 ーー三年生にもなると、途端に進路進路進路。新学期早々気が滅入る。


 「いやー、花凛が進学とはね。明日にはオーロラが見えるというか何というか」


 サナがケラケラと笑いながら、お昼の菓子パンを頬張る。なんて失礼な発言なんだ。


 「サナは美大だっけ」
 「うん。絵描くの好きだからね~。……そのことで、真面目な話がある」


 サナが咳ばらいをする。食べかけのメロンパンが、袋に入ったまま机に置かれた。


 「私、オタ卒するね」
 「……え?」


 オタ卒って。なんで、そんな急に。


 「いや~、あの、実は……。違う界隈の子の特典会ついて行ったらさ~見事釣られちゃいまして。てへ」
 「てへじゃないよ! 久我君どうすんの! 初期から応援してたじゃん!」
 「いや~WORLDもう十分有名になったじゃん? もうドームやるかもって噂だし。私、まだあんまり出てない子推すの好きなんだよね。
 てことで、名義何個か使う? 必要情報教えるけど」
 「3つください」
 「了解した」


 中学生の時からオタクをやっているのだ。おまけに目を引く美人だから注目されるのは当然のことで。顔の広いサナだから、友達はたくさんいる。特典会に呼ぶことがあれば、逆に呼ばれることがあった。
 サナが、いなくなってしまった。
 こんなに価値観合う子、いなかったのに。……次からは、一人かぁ。寂しい。


 「でもさ! もし一緒に行く人いなかったりしたらいつでも誘って! オタクの行けたら行くは、絶対行くだから」
 「わかった。そうする」


 どんどん変わる、周りの環境。
 春休み前に、私はプロットを元に一本の小説を書き上げた。タイトルは「君の指先は恋を奏でる」。人生で初めて書いた、私だけの作品。


 せっかく今宮に見てもらおうと思ったのに、いないし。あの日、委員会が終わってからすぐにスマホのメッセージアプリを使ってメッセージを入れた。そしたら、今年は変わった子がいて立候補され取られてしまったと。いやそこは負けるなよ、とスマホに向かって思わず文句を言ってしまった。


 それなら、PDFにでもして送ろうかな? 何より初めて最後まで書き上げた作品だ。何でもいいから、感想が聞きたい。
 そう思った矢先のことだった。


 今宮が、国立大学を狙っていると聞いたのは。学年一の秀才の進路、情報が漏れるのはあっという間だった。
 この自称進学校から国立大合格なんて出たら、きっと翌日には学校の外に垂れ幕がかかるだろう。それくらい珍しく、無謀。


 バカな私でもわかる。今宮はこれから、死ぬほど勉強しなくてはならない。
 勉強だけじゃない。アイツは「零」の名前も背負ってる。
 今のところ、活動休止やそれと言った情報は見ていない。つまり、受験と平行しながら執筆活動も続けるということだ。


 そんな多忙な生活になるのに。私の駄文を見てもらうなんて、申し訳なくなった。
 もしかしたら、図書委員に入らなかったのも意図してのことだったのかもしれない。そうだよね、忙しいのにこんなことやってられないよね。
 でも、大丈夫。今の私には、友達がいるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...