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うまく言葉にできなくて
Ⅸ
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ーー「はじめまして。先日文芸マーケットにて3冊購入した者です。どの作品もドキドキしながら一気に読んでしまいました。すごく面白かったです! それから、同い年ということもあり親近感がわいてしまいました(笑)。これからも応援しています」
先日、私が送ったこのメッセージをきっかけに、ひかりさんと仲良くなった。
同じ東京都に住んでいて、高校は女子高。零の作品を読んでから、自分も小説家になりたいと思ったことを知った。めちゃくちゃファンじゃん。紹介したい。
「凛ちゃんも、小説家希望なの?」
「はい! まだ本当に、書き始めたばかりですが……」
「書き始めは不安だよね。何かわからないことあったら、いつでも聞いてね」
みんなの文芸部に登録するにあたって、ニックネームが必要だった。特に何も考えずに、本名を文字って凛にしたけれど、もう少しひねれば良かったかな。
ひかりさんは、優しかった。今宮は、必要以上に仲良くするなって言ってたけど、ひかりさんが新人賞を受賞したら心から喜べる自信がある。
いつのまにか、風が冷たくなっていた。季節は冬に差し掛かる。
「今宮はさー、やっぱり大学行くの?」
「うん、まあ」
「当たり前か」
毎週水曜日、いつもの放課後。空調がきき過ぎて、暑いくらいの図書室。この時期になると、3年生が一気に増える。みんなが一心不乱にシャーペンを動かしページをめくる。
お互いに返却された本のチェックを行いながら、同じく静かに口を動かしていく。
「千里さんは?」
「うーん。迷い中」
本当は、高校を卒業したら働くつもりだった。和泉君に、たくさん会うために。でも今は、本気で小説家になりたいと思っている自分がいた。
だから、大学に行きたいなんて考えてる。この私が。珍しいにもほどがある。
「クラス替え。来年アンタと同じになるかな」
「え?」
「私、3年生になってもアンタと図書委員やりたい」
今宮が黙る。不思議に思って横目で伺うと、耳を真っ赤にしていた。
「ちょ、変な意味じゃないからね!? まだ教わるためだからね⁉︎」
「う、うん。知ってる」
飛んだ勘違いだ。私は再び手を動かす。
「じゃあ、別々になってもお互い図書委員にだけはなろう」
「うん、そうね。どうせ人気ないだろうし」
「……ちょっと活動日数多すぎるよね」
「あ、やっぱ? 今宮でもそう思うんだ」
「そうだ。新作、読む? 今の時間だけだけど。ついこの間終わったんだ」
「良いの?」
絶対秘密ね。今宮はそう付け加えて、何十枚もの原稿用紙の束を私に手渡した。
校正やら手直しが入った完成型。こんなものを、私が先に読んで良いのか? 少し緊張する。私はスカートで手のひらをはらい、ページをめくる。
まだ誰も知らない、零の新作。時間が許す限り目を通す。そして読み進めていくうちに疑問を抱く。
何でこんなに書けるんだろう?
今宮の小説は大半が長編だ。でも飽きない。次から次へと展開が変わる。なのにごちゃごちゃしてなくて、読みやすい。
次はどうなるんだろう、どんな伏線回収がくるんだろう。
面白いのに、数百ページある作品をもちろん一時間なんかで読み切れるはずがなく。下校を知らせる予冷のチャイムが鳴り響く。はっと顔を上げると、たくさんいたはずの3年生はもういない。
「来週までに、プロット作ろう」
「プロット?」
「話の流れとか、登場人物とか。千里さんが書きたいものを、とりあえずまとめてみて」
読むの早くなったね。
今宮はそう付け加えると、新作の原稿を整えリュックにしまう。
心の奥で、湧き上がってきた気持ち。私の書きたいもの。私が書きたいもの。恋愛小説。
ジャンルは違う。むしろ正反対、だけれど。
「私、アンタみたいな文章が書きたい」
今宮みたいに、なりたい。
「アンタを、目標にする」
今宮が書く世界が、好きだ。
「……ありがとう」
照れくさそうに頬をかく。私は零の、ファンになっていた。
先日、私が送ったこのメッセージをきっかけに、ひかりさんと仲良くなった。
同じ東京都に住んでいて、高校は女子高。零の作品を読んでから、自分も小説家になりたいと思ったことを知った。めちゃくちゃファンじゃん。紹介したい。
「凛ちゃんも、小説家希望なの?」
「はい! まだ本当に、書き始めたばかりですが……」
「書き始めは不安だよね。何かわからないことあったら、いつでも聞いてね」
みんなの文芸部に登録するにあたって、ニックネームが必要だった。特に何も考えずに、本名を文字って凛にしたけれど、もう少しひねれば良かったかな。
ひかりさんは、優しかった。今宮は、必要以上に仲良くするなって言ってたけど、ひかりさんが新人賞を受賞したら心から喜べる自信がある。
いつのまにか、風が冷たくなっていた。季節は冬に差し掛かる。
「今宮はさー、やっぱり大学行くの?」
「うん、まあ」
「当たり前か」
毎週水曜日、いつもの放課後。空調がきき過ぎて、暑いくらいの図書室。この時期になると、3年生が一気に増える。みんなが一心不乱にシャーペンを動かしページをめくる。
お互いに返却された本のチェックを行いながら、同じく静かに口を動かしていく。
「千里さんは?」
「うーん。迷い中」
本当は、高校を卒業したら働くつもりだった。和泉君に、たくさん会うために。でも今は、本気で小説家になりたいと思っている自分がいた。
だから、大学に行きたいなんて考えてる。この私が。珍しいにもほどがある。
「クラス替え。来年アンタと同じになるかな」
「え?」
「私、3年生になってもアンタと図書委員やりたい」
今宮が黙る。不思議に思って横目で伺うと、耳を真っ赤にしていた。
「ちょ、変な意味じゃないからね!? まだ教わるためだからね⁉︎」
「う、うん。知ってる」
飛んだ勘違いだ。私は再び手を動かす。
「じゃあ、別々になってもお互い図書委員にだけはなろう」
「うん、そうね。どうせ人気ないだろうし」
「……ちょっと活動日数多すぎるよね」
「あ、やっぱ? 今宮でもそう思うんだ」
「そうだ。新作、読む? 今の時間だけだけど。ついこの間終わったんだ」
「良いの?」
絶対秘密ね。今宮はそう付け加えて、何十枚もの原稿用紙の束を私に手渡した。
校正やら手直しが入った完成型。こんなものを、私が先に読んで良いのか? 少し緊張する。私はスカートで手のひらをはらい、ページをめくる。
まだ誰も知らない、零の新作。時間が許す限り目を通す。そして読み進めていくうちに疑問を抱く。
何でこんなに書けるんだろう?
今宮の小説は大半が長編だ。でも飽きない。次から次へと展開が変わる。なのにごちゃごちゃしてなくて、読みやすい。
次はどうなるんだろう、どんな伏線回収がくるんだろう。
面白いのに、数百ページある作品をもちろん一時間なんかで読み切れるはずがなく。下校を知らせる予冷のチャイムが鳴り響く。はっと顔を上げると、たくさんいたはずの3年生はもういない。
「来週までに、プロット作ろう」
「プロット?」
「話の流れとか、登場人物とか。千里さんが書きたいものを、とりあえずまとめてみて」
読むの早くなったね。
今宮はそう付け加えると、新作の原稿を整えリュックにしまう。
心の奥で、湧き上がってきた気持ち。私の書きたいもの。私が書きたいもの。恋愛小説。
ジャンルは違う。むしろ正反対、だけれど。
「私、アンタみたいな文章が書きたい」
今宮みたいに、なりたい。
「アンタを、目標にする」
今宮が書く世界が、好きだ。
「……ありがとう」
照れくさそうに頬をかく。私は零の、ファンになっていた。
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