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うまく言葉にできなくて
Ⅵ
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「いや、でも『あげる』とは言われてないから見せびらかしただけの可能性も」
「そんなことしないよ。2個づつ食べよう」
えっ? どうしたの? 本当に今宮? 買いに行ってる間、誰かと入れ替わった? いきなりどうしたんだろう。頭が何でで埋め尽くされる。だって、こんなことすると思わないじゃん。これって彼氏がやることじゃん。
「千里さんも買って来て良いよ」
「あ、うん。ありがとう」
席を立ち、すぐ近くにあった蕎麦屋さんで温かいとろろ蕎麦を頼む。
も、もしかして! 今宮って、実はモテる!?
頭は良いし背も高い。顔はよくわからないけど、そんなに悪くないんじゃないか。それで、次のターゲットは私とか!?
残念だな、私には和泉君がいるから無理だ。
席に戻ると、食べずに待ってくれていたみたいだ。今宮は読んでいた本をしまうと、ドーナツのお皿を真ん中に置いた。
「何で今宮って、小説家になったの?」
二人でいただきます、と手を合わせ割り箸を割る。急に困る質問をしてしまったのか、今宮がキュッと唇を結んだ。
「……書くの好きだったから、応募しただけで。理由とかは、特になかった。でも人に自慢できるようなものも誇れるようなものもなかったし。だったら、『コレ』で一番になろうって」
そう答えた今宮の耳が赤い。書くの好きで応募して、中学生で大賞取るって、すごいよアンタ。天才だよ。
何だか自分がずかしくなってきた。私って、一番になれるようなものがあっただろうか。今まで適当に生きてきて、ただ必死にキンブレを振ってきただけだ。
「でも、理由なんて何でも良いと思う。賞金目当てで応募して来た人も知ってるし、周りに自慢するためだけになった人も知ってる。
だから、千里さんの理由は立派だと思う」
……立派、なのか? そう聞き返しそうになったけれど、やめた。
「頑張ろう。なるべくサポートするから」
「……ありがと」
わからない。
なぜ今宮は私に親切にしてくれるのだろうか。委員会サボって、アンタに押し付けてたんだよ? ああもう、本当にやるしかない。
絶対なる。小説家。それで和泉君に、私の書いた作品を演じてもらうんだ。そしてSNSで騒がれている様子を見て、とんでもない優越感に浸る。
それが、私の理由。
決意を固めた後に食べたいちごドーナツは、いつもより甘かった。
ーー「こんにちは! もし良かったら、見て行って下さいね」
お目当てのFのい、のブース「さふぁいあ」に着いたのは14時すぎのことだった。
ぽっちゃりとした、女の子らしい体型の子が私に小説を差し出す。きっちりと結われた三つ編みに、青のチェックのワンピース。真面目そう、というのが第一印象だった。何というか、私と正反対だ。
さふぁいあを目的にした理由は、いくつかある。
まず、出店者が同い年。そもそも高校生の出店が少なくて、今までに一人見たくらいだ。そして恋愛小説を主として書いている。私と全く同じ。だから、参考になるかと思った。
置いてあるのは三種類。私はとりあえず右から一冊ずつ取り、会計をお願いした。それでもまだ、本はかなり積まれている。
「あ、ありがとうございます!」
売り子の子が驚いたような表情を浮かべる。新刊が四百円で、既刊は三百円。千円札を財布から取り出す。今宮が言っていた。こういうイベントは、だいたいが完売できずに終了する、と。
「あの、おまけでしおり付けておきます」
そう言って、桜の花が散りばめられたピンク色のしおりを挟んでくれた。私はお礼を言うと、本をバッグにしまう。ミッション達成。隣で待ってくれていた今宮に目で合図をすると、通路を抜け出した。
「そんなことしないよ。2個づつ食べよう」
えっ? どうしたの? 本当に今宮? 買いに行ってる間、誰かと入れ替わった? いきなりどうしたんだろう。頭が何でで埋め尽くされる。だって、こんなことすると思わないじゃん。これって彼氏がやることじゃん。
「千里さんも買って来て良いよ」
「あ、うん。ありがとう」
席を立ち、すぐ近くにあった蕎麦屋さんで温かいとろろ蕎麦を頼む。
も、もしかして! 今宮って、実はモテる!?
頭は良いし背も高い。顔はよくわからないけど、そんなに悪くないんじゃないか。それで、次のターゲットは私とか!?
残念だな、私には和泉君がいるから無理だ。
席に戻ると、食べずに待ってくれていたみたいだ。今宮は読んでいた本をしまうと、ドーナツのお皿を真ん中に置いた。
「何で今宮って、小説家になったの?」
二人でいただきます、と手を合わせ割り箸を割る。急に困る質問をしてしまったのか、今宮がキュッと唇を結んだ。
「……書くの好きだったから、応募しただけで。理由とかは、特になかった。でも人に自慢できるようなものも誇れるようなものもなかったし。だったら、『コレ』で一番になろうって」
そう答えた今宮の耳が赤い。書くの好きで応募して、中学生で大賞取るって、すごいよアンタ。天才だよ。
何だか自分がずかしくなってきた。私って、一番になれるようなものがあっただろうか。今まで適当に生きてきて、ただ必死にキンブレを振ってきただけだ。
「でも、理由なんて何でも良いと思う。賞金目当てで応募して来た人も知ってるし、周りに自慢するためだけになった人も知ってる。
だから、千里さんの理由は立派だと思う」
……立派、なのか? そう聞き返しそうになったけれど、やめた。
「頑張ろう。なるべくサポートするから」
「……ありがと」
わからない。
なぜ今宮は私に親切にしてくれるのだろうか。委員会サボって、アンタに押し付けてたんだよ? ああもう、本当にやるしかない。
絶対なる。小説家。それで和泉君に、私の書いた作品を演じてもらうんだ。そしてSNSで騒がれている様子を見て、とんでもない優越感に浸る。
それが、私の理由。
決意を固めた後に食べたいちごドーナツは、いつもより甘かった。
ーー「こんにちは! もし良かったら、見て行って下さいね」
お目当てのFのい、のブース「さふぁいあ」に着いたのは14時すぎのことだった。
ぽっちゃりとした、女の子らしい体型の子が私に小説を差し出す。きっちりと結われた三つ編みに、青のチェックのワンピース。真面目そう、というのが第一印象だった。何というか、私と正反対だ。
さふぁいあを目的にした理由は、いくつかある。
まず、出店者が同い年。そもそも高校生の出店が少なくて、今までに一人見たくらいだ。そして恋愛小説を主として書いている。私と全く同じ。だから、参考になるかと思った。
置いてあるのは三種類。私はとりあえず右から一冊ずつ取り、会計をお願いした。それでもまだ、本はかなり積まれている。
「あ、ありがとうございます!」
売り子の子が驚いたような表情を浮かべる。新刊が四百円で、既刊は三百円。千円札を財布から取り出す。今宮が言っていた。こういうイベントは、だいたいが完売できずに終了する、と。
「あの、おまけでしおり付けておきます」
そう言って、桜の花が散りばめられたピンク色のしおりを挟んでくれた。私はお礼を言うと、本をバッグにしまう。ミッション達成。隣で待ってくれていた今宮に目で合図をすると、通路を抜け出した。
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