上 下
4 / 23
私が生まれてきた理由

しおりを挟む
 ホームルームが終わり、運動部の子たちが颯爽と教室を出ていく。私は活動日数の少ない軽音部。だってバイトしなきゃだし。帰宅部の予定満々だったけれど、一、二年生は部活動必須ということを入学後に知った。ヘンな高校だ。
 置き勉のおかげで空っぽのリュックを片手に教室を出ようとした、ときだった。


 「あの、千里さん」


 私の机にやってきたのは、今宮だった。蒸し暑くなってきたというのに、第一ボタンまでキッチリしめネクタイまでしている。暑くないのだろうか。


 「な、何かついてる?」


 あまりにもくだらないことを考え返事をするのを忘れたせいか、今宮が重たい前髪をいじり始めた。なんか鼻につく。


 「や、何?」
 「今日月曜日なんだけど……」
 「月曜日?」


 なんかあったけ?


 「図書室の当番……」


 あー、あったわ。
 結局2ヶ月、当番をすっぽかしていた。我ながらなんてダメ人間だろうとも思うし、委員会に出るたび先生からも注意されていたけれど、鋼のメンタルでフル無視していた。てか、今宮いるから良くない? クビでも良いんだけど。私、いる意味ないし。


 「俺も注意されてて……」
 「てきとーに体調不良とか言っといてよ」
 「もう5回くらい使っちゃって」


 マジか。でも今日バイト入れちゃったしなあ。何の罪もない今宮にまで被害が及んでいると思うと、こんな私でも少し申し訳なくなった。まさか、かばってくれているとは。ごめんよ、今宮。


 「わかった。来週は絶対出る。これは本当に約束する。だから今日は見逃して! お願い!」


 目の前で両手を合わせる。ちらっと片目を開けると、今宮が困ったような顔をして頷いた。前髪のせいで、ぶっちゃけ表情はほぼわからないけれど。


 こんなことを言ってしまったから、月曜日は必ず図書室に行かざるをえなくなった。一週間も経つとめんどくさい気持ちの方がかなり大きくなり、再びバックレる方法を探していた。が、今宮を見るとやはり良心が痛む。まあ放課後だし、そんなに利用する人いないよね? すぐ帰れるよね? 頑張れ私、明日は当落なんだから、少しでも徳を積まなきゃ。と思いつつも、やはり朝から気が重かった。相手が和泉君だったら、毎日でも当番やるのに。


 「えっと、まず新刊のカード作りと、返却された本のチェック、それから掃除と、二週間後に予定されてるホラー特集の紹介カード作り」


 ナニコレ忙しいじゃん。いつもならすぐに駐輪場に向かっている時間、私は重い腰を上げ図書室へと来ていた。カウンターのパイプ椅子はさびれていて、動くたびに不快な音を鳴らす。隣に座る今宮は早速本を自分の前に置き、パラパラとめくり始めた。埃っぽくて、ツンと来るような独特な匂い。正直クサイ。


 「ホラー特集の本は、もう終わってるから」
 「ありがと。私本全然読まないからわからないや」


 思った通り、放課後の図書室は利用者が少ない。それも3年生であろう、必死に机に向かっている人がぽつぽつと見えるだけだ。シャーペンが走る音、ページをめくる音、それしか聞こえず、居心地が悪い。何て言うの、こういう空間苦手なんだよね。真面目ムードが、伝染しそうで。


 「てか、私もやるよ。今までアンタに押し付けてたから」


 足を組み、今宮から数冊本を奪う。乱丁がないか確かめる作業だから、私でも出来ると思った。


 「じゃあ、カード作っちゃうね。もし終わったら、声かけて」


 教室では存在感ゼロの覇気のない今宮が、生き生きとして見える。私は気の抜けた返事をすると、作業に取り掛かり始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ラブ・ソングをあなたに

天川 哲
ライト文芸
人生なんて、何もうまくいかない どん底に底なんてない、そう思っていた ──君に出会うまでは…… リストラ、離婚、借金まみれの中年親父と、歌うたいの少女が織り成す、アンバランスなメロディーライン 「きっと上手くなんていかないかもしれない。でも、前を向くしかないじゃない」 これは、あなたに ラブ・ソングが届くまでの物語

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...