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私が生まれてきた理由

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 何で私、こんなじゃんけん弱いんだろ。

 
 「えー、図書委員は月に5回集まりがあります。他の委員会よりもかなり多めですが、『日本一の読書の高校』を目標としており、本にはかなり力を入れております。なので、くれぐれもサボるといった行為は……」


 なにが日本一の読書の高校だ、私の周り誰一人として読んでないんですけど。図書室のホワイトボード前で話すのは、眠気を誘う話し方をするおじいちゃん先生。こんな人いたっけ。そんな失礼なことを思いながら時計に目をやり、小さくため息をつく。月に5回って、もう週一じゃん。最悪。本当最悪。活字なんて授業くらいでしか触れないのに。  


 「あの、千里さん。当番決めなんだけど……」
 「は? ごめんけど、私忙しいんだよね。出れる日だけ出るわ」


 隣に座る今宮が、おどおどしながら話しかけてきた。一番忙しい図書委員に配属されて最悪なのに、おまけにコイツと一緒とかツイてなさすぎる。


 今宮悠人いまみやゆうとは、クラス一の変わり者。何でよりによって和泉君と同じ名前なんだ。休み時間はひとりごとをブツブツと呟きながら、パソコンとにらめっこ。女子からは不気味がられている。誰一人として話しかけようとしない。男子でさえも、今宮はヤバい奴だと認識している。ただ勉強は出来るので、一年生からテストでは一位をキープしていた。


 だいたい、私は忙しい。夏に向けて貯金しなきゃならないから、今月からシフトを増やしてもらったのだ。


 「うん、わかった」


 今宮は蚊の鳴くような声で返事をすると、ボードに向かい月曜日の隣に「2年3組」とチョークで書いていく。放課後の図書室管理は、一学期だけだ。我慢我慢。


 丸まった猫背に、ひょろっと細い頼りない体。目を覆うほどの前髪に、常にきゅっと結ばれた唇。やっぱ無理、何か生理的に無理。私は頬杖をつき、時計を見る。まだ10分しか経っていない。


 ――「花凜本当ドンマイ」
 「ドンマイどこじゃないよ」
 「まー、本なら今宮が全部やってくれるでしょ。てかツアー日程やばくない? 東京2公演しかない」
 「それ。絶対当たらないよ」
 「ほんと、頑張らなきゃね。バイト詰め込んだよ早速」


 同じく清掃委員会終わりのサナが、駐輪場で待ってくれていた。放課後ということもあり、スカート丈は思い切り膝上だ。自慢の細くて長い脚が剥き出しになっている。


 私とサナは、同じ高校に入学した。


 あの日のライブから、私は髪を振り乱しながら机に向かった。自宅から自転車で行ける、近所の高校に進学するためだ。そのためには、偏差値を20近く上げなければなかった。


 通学代なんて出したくない。ざっと一ヶ月一万円ちょっとだ。もったいない。そのお金で何が出来る? ファンクラブの名義、2つは増やせる。だったらもう、勉強するしかなかった。


 塾長に相談したら、「今からじゃ死ぬ気でやらないととても無理」なんて笑われた。そんなのわかっていた。でも私は、どうしてもあの高校に行ってなんとかお金を浮かせねばならなかった。そして、笑ったハゲの塾長を見返してやると決めた。


 大嫌いな数学は1年生から洗い直した。もう途方に暮れたけれど、辛い時はホーム画面にしている和泉君を見て心を落ち着かせた。初めてペンダコが出来た。


 結局入試直前になっても安全圏には届かなかったけれど、運が良かったのか合格。そしてそのまま、家の近くのファミレスの面接を受けた。


 嗚呼、やっと和泉君に集中できる。頑張ったよね、私。


 WORLDはというと、最近露出が増え人気に火がつき、ファンクラブの会員数はうなぎ登り。メディアの露出も増え、今はテレビで見ない日がないくらい。もちろん嬉しくない。だってその分チケットが取りにくくなるわけで。前なら余るほど取れていたのに、今は落選続き。


 「とりあえず、全部賭けるかー。どれか引っかかれば良いんだけど」


 ファンクラブ名義を数十個持っているサナが、けだるそうにスマホをいじりながら言った。一緒に動いていく中で、何も知らない私に色々教えてくれた。表には出ていない、パスワードつき転売チケットサイトとか。大きな声では言えないことばかりだが。


 やっと、やっとツアーが始まった。このためにバイトをしていると言っても過言ではない。最後に会ったのは、もう半年以上前だ。大好きな和泉君に、やっと会える。

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