1 / 7
第一話
しおりを挟む
進路希望について 本郷渡
小学生のころになりたい職業だなんて、実際そう面白かったりかっこよかったりするものでは無かったというのに気が付いたのは、いつごろだっただろうか。高校生になって現実というものを悟ってしまったこの俺も、幼稚園の時はまあ生意気にお巡りさんになって悪い奴を捕まえるだとか、新幹線の運転士になってビュンビュン新幹線を走らせるのだとか、よくもまあそんな男児のテンプレ通りに考えられるなと今になっては思うくらいだ。しかしだ。成長して現実を知るとこういう夢も薄れてくる。あこがれていた交番のお巡りさんはしょせん下っ端で安月給だし、新幹線の運転士も規則や指令員、ダイヤに縛られて好き勝手出来ないことは俺の夢への情熱を徐々に奪っていったものだ。目の前にある進路希望用紙とかいう紙切れ一枚にすら何も書けずにいる俺がまさにその夢が薄れていった結果を表しているといってもいいだろう。
しかし、本当にそれでいいのだろうか。男児というものはいつまでも男児たりうることが条件であり、美徳ではないだろうか。これすなわち果てしない夢を持ち続けるということが男児の条件ではないだろうか。しかし、この現実世界に理想がないのもまた事実である。そこで、俺は声を大にして言いたい。もはや、男児が男児として夢を持ち続けるには異世界転生しかないのだと。すなわち、俺の進路希望としては異世界転生を希望する。なるべく早いうちにだ。
「これは何だね。本郷君」
担任の本所が俺の前に一枚の紙を叩きつけて言った。確か、それは俺が書いた進路希望用紙だ。
「進路希望用紙ですか」
「そうだ。なぜこんな突拍子もない結論になってる。真面目に書け」
「俺としては割と真面目なんですが。ほら、先生もリゼロとか、このすば!とか知りませんか? 俺はそれを参考に進路希望を……」
「理屈はいいから、書き直せ! なんだこの第一志望、異世界転生ってのは! 書かんと推薦やらんぞ!」
「ひぃっ! それだけは勘弁してください!書き直しますから!」
「わかったら、さっさと書き直して提出しろ」
そう言って、本所は俺に白紙の進路希望用紙を指しだして、俺に記入するように迫った。
「明日の朝でいいですか?」
「今日中に出せ。馬鹿もん」
それだけ言うと、本所はもう用はないとばかりに、椅子を回転させ、俺に背を向けた。俺はその背中に一礼し、職員室を去る。強制残業タイムのはじまりだ。なんで俺は学生のころから残業なんてさせられてるんだろうね。教師も、残業ではなく居残りだと言って、このクソ残業を肯定したがる。頼むから帰らせてくれ。
仕方なく俺は教室に戻って再び貰って来た進路希望用紙とやらに無難なことを記入する。こういうのはたいてい第一志望から第三志望まで全部大学名で埋めれば何とかなるものだ。ましてや、ここは大学付属校。系列大学の学部を片っ端から記入しておけば、それだけで進路希望用紙としてのていは保たれるし、教師も付属校からの進学実績が上がって生徒募集や偏差値向上に拍車がかかってウィンウィンの関係が構築される。
さっさと書いて提出して帰らせてもらおう。俺は自分以外誰もいない教室の教卓で、進路希望用紙を書き始めた。系列の早稲山大学の学部で端から端まで埋める。理由には、テキトーに就職で有利だとか、ネームバリューのある大学で学びたいとかそれらしいことをサラッと書いておく。あとは、これを提出するだけだ。そう思ったとき、急激な眠気が俺を襲った。物凄く眠い。立っているのにもかかわらず、俺は急激に睡魔の海に引きずり込まれていく。これを出して帰ったら、いや、これを出して帰りの電車の途中まで。せいぜい持ってくれ。そう思いながら、俺は自らの瞼が閉じていくのを感じた。
夢というのは不思議なもので、たいてい自分の都合によいように出来ている。今の状況がそうだ。教室で眠気に負けて眠ってしまったはずなのに、俺は今目の前に教科書で見た古代ギリシアの彫刻のような人物がたたずんでいるのが分かった。しかし、俺が住んでいる日本にはそんな人間は見かけることは少ない。ああ、これは夢だなと判断し、俺はその男に話しかける。
「すみません。夢なのにむさくるしいおっさんが出てくるって何事ですか。もっとこう、美少女とかなかったんですか」
「俺はむさくるしいおっさんではない。デウスという名の神だ」
「そうですか。それで、俺に何か用ですか」
「うん。君に異世界転生してもらうことにした。なに。心配するな。日本語が通じるところだ」
「はあ、それは確かに望んでいましたが、なにか能力でも授けてくださるんですか。魔法とか習得させてくれるんですか」
「そんなものはない世界だ。そんなのを許したら、せっかく俺が作った世界が崩壊するかもしれんだろう。俺の作った世界は我が子のようなものなんだ。では、行ってこい」
そう言うと、デウスと名乗ったその男は俺に対して呪文のような言葉を話す。それを聞くと、俺は再び強烈な睡魔に襲われて眠ってしまった。夢の中で眠るって経験、なかなか新鮮だな。
小学生のころになりたい職業だなんて、実際そう面白かったりかっこよかったりするものでは無かったというのに気が付いたのは、いつごろだっただろうか。高校生になって現実というものを悟ってしまったこの俺も、幼稚園の時はまあ生意気にお巡りさんになって悪い奴を捕まえるだとか、新幹線の運転士になってビュンビュン新幹線を走らせるのだとか、よくもまあそんな男児のテンプレ通りに考えられるなと今になっては思うくらいだ。しかしだ。成長して現実を知るとこういう夢も薄れてくる。あこがれていた交番のお巡りさんはしょせん下っ端で安月給だし、新幹線の運転士も規則や指令員、ダイヤに縛られて好き勝手出来ないことは俺の夢への情熱を徐々に奪っていったものだ。目の前にある進路希望用紙とかいう紙切れ一枚にすら何も書けずにいる俺がまさにその夢が薄れていった結果を表しているといってもいいだろう。
しかし、本当にそれでいいのだろうか。男児というものはいつまでも男児たりうることが条件であり、美徳ではないだろうか。これすなわち果てしない夢を持ち続けるということが男児の条件ではないだろうか。しかし、この現実世界に理想がないのもまた事実である。そこで、俺は声を大にして言いたい。もはや、男児が男児として夢を持ち続けるには異世界転生しかないのだと。すなわち、俺の進路希望としては異世界転生を希望する。なるべく早いうちにだ。
「これは何だね。本郷君」
担任の本所が俺の前に一枚の紙を叩きつけて言った。確か、それは俺が書いた進路希望用紙だ。
「進路希望用紙ですか」
「そうだ。なぜこんな突拍子もない結論になってる。真面目に書け」
「俺としては割と真面目なんですが。ほら、先生もリゼロとか、このすば!とか知りませんか? 俺はそれを参考に進路希望を……」
「理屈はいいから、書き直せ! なんだこの第一志望、異世界転生ってのは! 書かんと推薦やらんぞ!」
「ひぃっ! それだけは勘弁してください!書き直しますから!」
「わかったら、さっさと書き直して提出しろ」
そう言って、本所は俺に白紙の進路希望用紙を指しだして、俺に記入するように迫った。
「明日の朝でいいですか?」
「今日中に出せ。馬鹿もん」
それだけ言うと、本所はもう用はないとばかりに、椅子を回転させ、俺に背を向けた。俺はその背中に一礼し、職員室を去る。強制残業タイムのはじまりだ。なんで俺は学生のころから残業なんてさせられてるんだろうね。教師も、残業ではなく居残りだと言って、このクソ残業を肯定したがる。頼むから帰らせてくれ。
仕方なく俺は教室に戻って再び貰って来た進路希望用紙とやらに無難なことを記入する。こういうのはたいてい第一志望から第三志望まで全部大学名で埋めれば何とかなるものだ。ましてや、ここは大学付属校。系列大学の学部を片っ端から記入しておけば、それだけで進路希望用紙としてのていは保たれるし、教師も付属校からの進学実績が上がって生徒募集や偏差値向上に拍車がかかってウィンウィンの関係が構築される。
さっさと書いて提出して帰らせてもらおう。俺は自分以外誰もいない教室の教卓で、進路希望用紙を書き始めた。系列の早稲山大学の学部で端から端まで埋める。理由には、テキトーに就職で有利だとか、ネームバリューのある大学で学びたいとかそれらしいことをサラッと書いておく。あとは、これを提出するだけだ。そう思ったとき、急激な眠気が俺を襲った。物凄く眠い。立っているのにもかかわらず、俺は急激に睡魔の海に引きずり込まれていく。これを出して帰ったら、いや、これを出して帰りの電車の途中まで。せいぜい持ってくれ。そう思いながら、俺は自らの瞼が閉じていくのを感じた。
夢というのは不思議なもので、たいてい自分の都合によいように出来ている。今の状況がそうだ。教室で眠気に負けて眠ってしまったはずなのに、俺は今目の前に教科書で見た古代ギリシアの彫刻のような人物がたたずんでいるのが分かった。しかし、俺が住んでいる日本にはそんな人間は見かけることは少ない。ああ、これは夢だなと判断し、俺はその男に話しかける。
「すみません。夢なのにむさくるしいおっさんが出てくるって何事ですか。もっとこう、美少女とかなかったんですか」
「俺はむさくるしいおっさんではない。デウスという名の神だ」
「そうですか。それで、俺に何か用ですか」
「うん。君に異世界転生してもらうことにした。なに。心配するな。日本語が通じるところだ」
「はあ、それは確かに望んでいましたが、なにか能力でも授けてくださるんですか。魔法とか習得させてくれるんですか」
「そんなものはない世界だ。そんなのを許したら、せっかく俺が作った世界が崩壊するかもしれんだろう。俺の作った世界は我が子のようなものなんだ。では、行ってこい」
そう言うと、デウスと名乗ったその男は俺に対して呪文のような言葉を話す。それを聞くと、俺は再び強烈な睡魔に襲われて眠ってしまった。夢の中で眠るって経験、なかなか新鮮だな。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。


今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる