きみこえ

帝亜有花

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Marble Flag

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    各々が日にちのギリギリまで書道の練習をし、皆それぞれ思い思いに書いた作品を提出した。
    そして、結果が出たのは冬休みが終わり、新学期が始まってしばらく経った頃だった。



「皆さん、コンクールの結果と応募した作品が返ってきました」

    ほのかと幽霊部員の三人は翠の言葉を固唾を飲んで待った。
    壁には全員の作品が並んで掛けられていた。

「なんと、皆さんの中に入賞者が居ました! あの短期間で本当に素晴らしい事です」

    翠は本当に嬉しそうにホクホクとした笑顔で言った。

「おい翠、勿体ぶってないで早く言ったらどうなんだよ」

    痺れを切らした夏輝は他の陽太達の言葉を代弁するかの様に翠を急かした。

「やれやれ、せっかちさんですね。では発表しますね、今回佳作に入賞したのは・・・・・・・・・・・・」

    ほのかは一体誰が入賞したのか、翠がその名を口にするのを今か今かと待ち構えた。
    陽太も夏輝もそれは同じで真剣な眼差しで翠を見ていた。

「氷室君です」

    その言葉にほのか達は一斉に冬真を見た。

「おめでとうございます。氷室君」

    翠は穏やかに笑い拍手した。

「ありがとうございます」

「文化祭の時の作品も素晴らしいと思ってましたが、もしかして書道の経験がおありですか?」

「はい、中学の頃まで習い事で少し・・・・・・」

「やはり! そうでしたか。通りで基礎がしっかりとしていると思ってましたよ」

「いえ、しっかり大賞を取った露木先輩にはまだまだ及びません」

「あはは、大賞を取ったことは黙っていようと思ってましたが、バレバレでしたか」

「大賞!? マジか・・・・・・」

    陽太は驚きの声を上げ翠の作品を見た。
    かなり大きな紙に陽太には読めない書体で難しそうな詩が長々と書かれ、しかも薄墨を一緒に使い景色の背景まで描かれていた。
    これが大賞なら納得も出来る作品だった。

「まあ、あいつが大賞取っても不思議はないぞ。あいつ、小学生の時から書道のコンクールとかは賞を総ナメしていくレベルでバケモンだったからな」

「ええ!? 総ナメ・・・・・・」

    それは凄い事には間違いないが、あまりにも世界が違い過ぎて陽太は少し引いていた。
    そんな会話がされる中、ほのかは改めて冬真の作品を見ていた。
    そこに書かれていた『冬嶺秀孤松』は、一つ一つの文字がとても繊細で、端の端まで美しさを感じさせる文字だった。
    文字の手本に出てきそうな端正な文字は『冬嶺秀孤松』のイメージにもとても合っていた。
    感銘を受けたほのかは冬真をキラキラとした目で見た。

【氷室君、是非書道部に入部を】

「いや、既に入部済みだから」

「そうですよ、月島さん、ただでさえ無理を言って今回参加してもらいましたし、これ以上甘えてはご迷惑でしょう」

    そう言いながら翠は木の札に冬真の名前を書いていた。

「先輩、そう言いながら部室に来た時壁に掛ける名札を作り出すのやめてもらえますか」

「おっと、私とした事が・・・・・・。そうだ、約束通りこのペアチケットは氷室君に差し上げますね」

「流石は冬真だな」

「やるな一年坊主」

    陽太と夏輝は悔しそうにしながらも冬真の実力は明らかでその才能を認めていた。

「・・・・・・・・・・・・」

    冬真は手元のチケットを見詰めた。
    そして周りには分からない程度に小さく溜息を一つするとほのかと向き合った。

「月島さんはこっちとこっち、どっちの作品が好き?」

    冬真の指さす先は壁に掛けられた陽太の書いた作品と夏輝の書いた作品があった。
    ほのかはどっちの作品も良く仕上がっていて選ぶのは至極困難に感じた。

【どっちも捨て難い。両方とも好きじゃダメ?】

「気持ちは分かるが一つだけ選んでもらおうか」

    そう言われてほのかは改めて二つの作品を交互に見やった。
    陽太の『春水満四澤』、作品の中では一番墨が薄めで、文字に丸みがあり穏やかさや優しさを感じ、まさに春のイメージにピッタリな作品だった。
    対して、夏輝の『夏雲多奇峰』は筆の文字が一番大きく紙の端から端までびっしりと書かれていた。
    力強くダイナミック、とても夏輝らしく夏のイメージにも合っていた。
    どちらがいいかと言われても見れば見る程迷いに迷った。

「ほら、そんなに深く考えずに、直感でいいから」

    冬真に結論を催促され、ほのかは思い切って直感で好きな方の作品を指さした。


それは『夏雲多奇峰』の方だった。→とろけるお誘い
それは『春水満四澤』の方だった。→きらめくお誘い
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