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下駄箱から少し離れた所にあるガラス扉に背中を預けて待っていたほのかは待ち人を見つけて微笑んだ。
「月島さんどうしたの? もう先に帰ったと思ってた」
【たまには一緒に帰ろうと思って待ってた】
「俺を・・・・・・?」
自分を待っていてくれた。
そんな言葉だけで嬉しくて、陽太は舞い上がってしまいそうな気持ちになった。
「冬真は?」
【さっきまで居たけど、用事があるから先に帰るって言ってた】
「そっか・・・・・・じゃあ帰ろうか」
そう言って陽太は歩き出し、その後ろをほのかが付いて歩いた。
ほのかと一緒に帰るのは久し振りだった。
冬真を先に帰らせてでも自分の事を待っていたという事は何か話でもあるのだろうか?
そう思うとますます緊張し、陽太は自然と歩みが早くなった。
潮の香りがする風、少し冷たい空気、海鳥の鳴き声、それらを感じ取りながら歩いていると波の音に紛れて小走りをする様な足音が聞こえた。
その音が段々と大きくなっていき、それがほのかのものだ気が付いたのはほのかに腕を掴まれてからだった。
それ位に陽太はボーッとしていた。
「あ、ごめん! 早く歩きすぎた」
ほのかの顔を見れば怒ってもおらず、いつものどこか遠慮がちで何か言いたげな表情をしていた。
「えっと・・・・・・どうかした?」
陽太はほのかの言葉を引き出すべくそう尋ねた。
すると、ほのかはスケッチブックに文字を書き、書き終えるとそれを陽太に見せた。
【ちょっと寄り道】
そしてほのかは海岸の方を指さした。
海が一望出来る海岸前の大階段に二人は腰掛けた。
そこは以前冬真を含めて三人で来た場所だった。
ほのかは前に来た時の事を思い出し、陽太に【アイス買ってくる?】と訊いた。
「この時期にアイスは少し寒くない?」
【じゃあ他の物を買ってくる!】
そう書いて立ち上がろうとするほのかを陽太は手を掴んで引き止めた。
「いや、いいよ。それより少し話さない?」
陽太がそう言うとほのかは言う通りに再び階段に腰掛けた。
「・・・・・・」
話そうと言ったものの、陽太は何を話せばいいか思いつかず、ただただ沈黙した。
時に荒く、時に穏やかに、引いては寄せる波の音を聞いていると何故だか早く何か言わなければと急かされているようで落ち着かなかった。
ふと、陽太が真横を見るとほのかはじっと陽太が話し出すのを見詰めながら待っていた。
それに気が付いた陽太はほのかの視線に耐え切れず、すぐに顔を背けてしまった。
「あ、ごめん、いや、その嫌だったとかじゃなくて、ってこれじゃ何言ってるか分からないよな」
ほのかから背を向けて呟いていた陽太は意を決してほのかに向き直った。
「・・・・・・・・・・・・」
陽太はほのかと目を合わせた。
そしてゆっくりと数を数えた。
一・・・・・・、二・・・・・・
「あのさ・・・・・・」
三・・・・・・、四・・・・・・
ほのかの瞳に自分の顔が映り、自分の瞳にはほのかの顔が映っている。
そう思った時、再び恥ずかしさが込み上げた陽太は目線を逸らしてしまった。
「やっぱ無理!」
五秒、それが今の陽太の限界だった。
ほのかはさっきからそっぽを向いてばかりの陽太が気になり後ろを向いている陽太の前に回り込み、ちょこんと座った。
そして陽太の顔色を伺いながらスケッチブックに【どうかしたの?】と書いた。
「何でもない、話をしようと思ったのに全然ちゃんと出来なくて、その・・・・・・」
ほのかは何か言い難い事でもあるのだろうかと気になった。
だが、最近のよそよそしい陽太の様子からきっと何か悩み事があるのかもしれないとほのかは思った。
【それは私で何か役に立てる? 協力するから】
「協力? いや、これは自分が変わらないといけない事で」
【それはすぐに変わらないといけないの?】
ほのかにはそれが何なのか全く分からなかったが、今の陽太はどこか急いている様に感じた。
「すぐに?」
陽太はほのかの言葉に目を白黒とさせた。
「はは、俺何で一人で焦ってたんだろう・・・・・・」
海は相変わらず荒く、穏やかに、波を寄せていた。
だが、今はもう焦る気持ちがなくなっていた。
「一つだけ質問いい?」
ほのかはその問いに頷いた。
「席替えして暫く経ったけど、どう?」
【氷室君が勉強を良く教えてくれる。かなりスパルタ】
ほのかはいつもの勉強を教える冬真の姿を思い出して青ざめた。
「あはは、あいつらしいな」
【でも春野君と席が離れてさびしい】
「えっ・・・・・・」
寂しい、ほのかも自分と同じ気持ちでいてくれた事に陽太は嬉しくなった。
ほのかのちょっとした一言で一喜一憂してしまう自分は何て単純な生き物なのかと陽太は可笑しく思った。
だが、今はその一言で十分だった。
「うん、俺も寂しい」
陽太は心を決め、勢い良く階段から立ち上がると砂浜へと駆けた。
そして笑ってほのかに向かって叫んだ。
ほのかは陽太が何を言っているのか良く見ようとして階段から立ち上がった。
「今はまだ五秒だけど、絶対・・・・・・、絶対待ってて!」
ほのかには何が五秒なのかも分かっていなかったが、波飛沫が反射する光も相まって陽太の笑顔がキラキラと輝いている様に見えた。
それが陽の光みたいないつもの笑顔でほのかはほっとした。
そしてその笑顔につられて笑って頷いた。
今はまだ五秒、だけれど、いつかその時が来たら・・・・・・。
陽太は拳を握り赤紫色の空を見上げた。
「月島さんどうしたの? もう先に帰ったと思ってた」
【たまには一緒に帰ろうと思って待ってた】
「俺を・・・・・・?」
自分を待っていてくれた。
そんな言葉だけで嬉しくて、陽太は舞い上がってしまいそうな気持ちになった。
「冬真は?」
【さっきまで居たけど、用事があるから先に帰るって言ってた】
「そっか・・・・・・じゃあ帰ろうか」
そう言って陽太は歩き出し、その後ろをほのかが付いて歩いた。
ほのかと一緒に帰るのは久し振りだった。
冬真を先に帰らせてでも自分の事を待っていたという事は何か話でもあるのだろうか?
そう思うとますます緊張し、陽太は自然と歩みが早くなった。
潮の香りがする風、少し冷たい空気、海鳥の鳴き声、それらを感じ取りながら歩いていると波の音に紛れて小走りをする様な足音が聞こえた。
その音が段々と大きくなっていき、それがほのかのものだ気が付いたのはほのかに腕を掴まれてからだった。
それ位に陽太はボーッとしていた。
「あ、ごめん! 早く歩きすぎた」
ほのかの顔を見れば怒ってもおらず、いつものどこか遠慮がちで何か言いたげな表情をしていた。
「えっと・・・・・・どうかした?」
陽太はほのかの言葉を引き出すべくそう尋ねた。
すると、ほのかはスケッチブックに文字を書き、書き終えるとそれを陽太に見せた。
【ちょっと寄り道】
そしてほのかは海岸の方を指さした。
海が一望出来る海岸前の大階段に二人は腰掛けた。
そこは以前冬真を含めて三人で来た場所だった。
ほのかは前に来た時の事を思い出し、陽太に【アイス買ってくる?】と訊いた。
「この時期にアイスは少し寒くない?」
【じゃあ他の物を買ってくる!】
そう書いて立ち上がろうとするほのかを陽太は手を掴んで引き止めた。
「いや、いいよ。それより少し話さない?」
陽太がそう言うとほのかは言う通りに再び階段に腰掛けた。
「・・・・・・」
話そうと言ったものの、陽太は何を話せばいいか思いつかず、ただただ沈黙した。
時に荒く、時に穏やかに、引いては寄せる波の音を聞いていると何故だか早く何か言わなければと急かされているようで落ち着かなかった。
ふと、陽太が真横を見るとほのかはじっと陽太が話し出すのを見詰めながら待っていた。
それに気が付いた陽太はほのかの視線に耐え切れず、すぐに顔を背けてしまった。
「あ、ごめん、いや、その嫌だったとかじゃなくて、ってこれじゃ何言ってるか分からないよな」
ほのかから背を向けて呟いていた陽太は意を決してほのかに向き直った。
「・・・・・・・・・・・・」
陽太はほのかと目を合わせた。
そしてゆっくりと数を数えた。
一・・・・・・、二・・・・・・
「あのさ・・・・・・」
三・・・・・・、四・・・・・・
ほのかの瞳に自分の顔が映り、自分の瞳にはほのかの顔が映っている。
そう思った時、再び恥ずかしさが込み上げた陽太は目線を逸らしてしまった。
「やっぱ無理!」
五秒、それが今の陽太の限界だった。
ほのかはさっきからそっぽを向いてばかりの陽太が気になり後ろを向いている陽太の前に回り込み、ちょこんと座った。
そして陽太の顔色を伺いながらスケッチブックに【どうかしたの?】と書いた。
「何でもない、話をしようと思ったのに全然ちゃんと出来なくて、その・・・・・・」
ほのかは何か言い難い事でもあるのだろうかと気になった。
だが、最近のよそよそしい陽太の様子からきっと何か悩み事があるのかもしれないとほのかは思った。
【それは私で何か役に立てる? 協力するから】
「協力? いや、これは自分が変わらないといけない事で」
【それはすぐに変わらないといけないの?】
ほのかにはそれが何なのか全く分からなかったが、今の陽太はどこか急いている様に感じた。
「すぐに?」
陽太はほのかの言葉に目を白黒とさせた。
「はは、俺何で一人で焦ってたんだろう・・・・・・」
海は相変わらず荒く、穏やかに、波を寄せていた。
だが、今はもう焦る気持ちがなくなっていた。
「一つだけ質問いい?」
ほのかはその問いに頷いた。
「席替えして暫く経ったけど、どう?」
【氷室君が勉強を良く教えてくれる。かなりスパルタ】
ほのかはいつもの勉強を教える冬真の姿を思い出して青ざめた。
「あはは、あいつらしいな」
【でも春野君と席が離れてさびしい】
「えっ・・・・・・」
寂しい、ほのかも自分と同じ気持ちでいてくれた事に陽太は嬉しくなった。
ほのかのちょっとした一言で一喜一憂してしまう自分は何て単純な生き物なのかと陽太は可笑しく思った。
だが、今はその一言で十分だった。
「うん、俺も寂しい」
陽太は心を決め、勢い良く階段から立ち上がると砂浜へと駆けた。
そして笑ってほのかに向かって叫んだ。
ほのかは陽太が何を言っているのか良く見ようとして階段から立ち上がった。
「今はまだ五秒だけど、絶対・・・・・・、絶対待ってて!」
ほのかには何が五秒なのかも分かっていなかったが、波飛沫が反射する光も相まって陽太の笑顔がキラキラと輝いている様に見えた。
それが陽の光みたいないつもの笑顔でほのかはほっとした。
そしてその笑顔につられて笑って頷いた。
今はまだ五秒、だけれど、いつかその時が来たら・・・・・・。
陽太は拳を握り赤紫色の空を見上げた。
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