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Friendly Kitchen
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冬真がお米を炊く準備を終えるとほのか達はまだ野菜を切っていた。
周りの班はもうどこも具材を炒める作業を終え煮込み出していた。
「まだ野菜の下処理終わってなかったのか? そろそろ炒めないと間に合わなくなるぞ」
「氷室君も見てくれたまえこの包丁さばき! ニンジンの桂剥き~」
「は?」
健は包丁を器用にかつ素早く動かしその刃からサランラップ並に薄く透き通りそうなニンジンとはとても思えないものを生み出していった。
「ほお、これは見事だな。まるで絹の様に極薄でしなやか・・・・・・」
ほのかと花梨も健の桂剥きに拍手をして見ていた。
だが、冬真はすぐに冷ややかな顔をした。
「で? その薄いニンジン、カレーに適しているとでも?」
「え!」
そこで健の手は止まり今まで途切れずにいたニンジンがまな板の上に落ちた。
「すまない、つい夢中になってしまった。ははははは!」
「まったく・・・・・・」
健に反省の色はあまり見えなかった。
あの薄いニンジンは鍋に入れたらすぐに崩れて溶けて消えてしまうだろう。
残りのニンジンが無事かどうか気になった冬真はほのかのまな板の上を覗き込んだ。
「月島さん、それって・・・・・・」
ほのかがのんびりと時間を掛けて切っていたのは星の形をしたニンジンだった。
「ずっとそれ作ってたのか?」
【星の形にしたらかわいいと思って】
ほのかは作り方手順にあった乱切りの指示を無視して輪切りにしたニンジンをひたすら星の形に切った。
だが、そのスピードはかなり遅くまだ三枚しか完成していなかった。
冬真は悟った。
このままでは確実に授業時間内に作り終わらないと。
「わ、分かった。だが時間が無いから四つだけにして他は乱切りにしようか」
ほのかは冬真にそう言われ、少し残念に思ったが素直に頷いた。
「そう言えばカレーのルーはどうした? 見当たらないんだが」
「おお、それなら僕が担当でちゃんと持ってきたぞ!」
佐田島は作業台の上に大きな缶を差し出した。
そこには大きく『ブレンドスパイス』と書かれていた。
それを見て冬真は嫌な予感がした。
「ねえ、あんたどうしてルーじゃなくてスパイス持ってきたの?」
その嫌な予感がしたのは花梨も同じだった。
「え? 本格的なカレーはスパイスから作るんじゃないのか?」
「これ・・・・・・ほとんどただの黒胡椒と白胡椒だろ。これだけだとどう考えてもカレーにはならない」
「・・・・・・・・・・・・え!! そうなのか? いやー参ったな、スーパーのおばちゃんにオススメを教えて貰ったのだが、はははは!」
「~~~~あんた! どー言う事よ! 折角今日は調理実習で滋養と強壮にいいカレーが食べられるって言うから登校したのに!」
花梨は涙目になりながら健の両肩を勢い良く揺さぶった。
「す、す、す、す、すまない! 急いで、買って、くるから許してくれ!」
花梨が手を離すと健は早速カレールーを買いに教室を出た。
「佐田島が戻って来る前に俺達は出来る事をしよう。だが・・・・・・もしかすると時間内に終わらない可能性が高い」
他の班は既にカレールーを入れて煮込んでおり、スパイシーな香りを鍋から漂わせていた。
牛肉やジャガイモ、ニンジンは煮込むのに時間が掛かる。
冬真は残りの時間を計算したが具材が硬いままのカレーしか出来そうになかった。
ほのかは時間が無い時、どうすれば良いのかを必死に考えた。
今まで生きてきた記憶を全てひっくり返して漁り、アイデアを探し、そして記憶の片隅から希望の光掴んだ。
ほのかは包丁を手に取ると星の形のニンジンを小さく刻み、みじん切りにした。
「月島さん、それ折角作ったのに切っちゃうの?」
花梨がそう問うとほのかはスケッチブックに【具材を細かくすれば早く火が通るから】と書いた。
ほのかは時雨が煮物を作っていた時にそう教わっていた。
「そうか! 鈴村さんもジャガイモをみじん切りにするんだ、それから玉ねぎも」
冬真はほのかの意図を汲み取り包丁を持つと牛肉を細かく刻み始めた。
健がコンビニから帰ってきた時、ほのか達は具材を全て切り終えた所だった。
「急ごう、残り時間は十分しかない。野菜はレンジで温めて」
冬真はフライパンに油をひくとミンチにした肉を炒めた。
塩と健の持ってきた胡椒と料理酒を入れ更に軽く温めた野菜を次々に炒めていった。
そして仕上げにカレールーを加え水を少なめに入れなんとか形にした。
ほのか達は更にカレーを盛り付けると時間ギリギリに先生に提出した。
「あら、あなた達のはキーマカレーなのね」
ほのか達が作ったのはカレーはカレーでも世に言うキーマカレーというひき肉とみじん切りにした野菜を使用ものだった。
「ダメよ~、ちゃんと野菜の皮が剥けてるかとか~、乱切りが出来てるかとか~、野菜や牛肉に火が通ってるかとかを採点するのに~」
落合先生のその言葉に全員が不合格を言い渡される覚悟をした。
「でーもー、先生はちゃんと見てましたよ~。あの残り少ない時間で皆良く工夫を凝らしました。料理の世界ではトラブルは付きもの。臨機応変に作るのは大事な事よ~、だから今回は特別に合格にします」
「「ありがとうございます!」」
【ありがとうございます!】
昼食の時間、四人は自分達で作ったカレーを食べていた。
「どうだ花梨! カレーは美味しいか?」
「美味しいわ・・・・・・こんなカレーを食べたのは初めてよ」
「そうか・・・・・・うん、良かった。本当に良かった」
健はカレー美味しそうに食べる花梨の姿を見て目尻に涙を浮かべた。
「ちょ、ちょっと! なんであんたが泣くのよ」
「いや、あれだけ何も食べられなかった花梨がカレーまで食べられるようになって嬉しくてな」
「お、大袈裟なのよあんたは!」
花梨がここまで回復するのに長い長い年月を必要とした事をほのかも冬真も他のクラスメイトも知らない。
健だけが知っている事だった。
「月島さんもカレー美味しい?」
冬真はほのかにそう問うと、ほのかは【友達の皆と食べるカレーはウルトラハイパー美味しい!】と書いた。
「友達・・・・・・」
花梨はほのかと同じレベルで友達が少なかった。
「そうね! 友達と食べると美味しいわ!」
そこに『友達になろう』なんて言葉は必要なかった。
花梨もほのかも笑いあい、健と冬真はその様子を柔らかい笑みで見守っていた。
周りの班はもうどこも具材を炒める作業を終え煮込み出していた。
「まだ野菜の下処理終わってなかったのか? そろそろ炒めないと間に合わなくなるぞ」
「氷室君も見てくれたまえこの包丁さばき! ニンジンの桂剥き~」
「は?」
健は包丁を器用にかつ素早く動かしその刃からサランラップ並に薄く透き通りそうなニンジンとはとても思えないものを生み出していった。
「ほお、これは見事だな。まるで絹の様に極薄でしなやか・・・・・・」
ほのかと花梨も健の桂剥きに拍手をして見ていた。
だが、冬真はすぐに冷ややかな顔をした。
「で? その薄いニンジン、カレーに適しているとでも?」
「え!」
そこで健の手は止まり今まで途切れずにいたニンジンがまな板の上に落ちた。
「すまない、つい夢中になってしまった。ははははは!」
「まったく・・・・・・」
健に反省の色はあまり見えなかった。
あの薄いニンジンは鍋に入れたらすぐに崩れて溶けて消えてしまうだろう。
残りのニンジンが無事かどうか気になった冬真はほのかのまな板の上を覗き込んだ。
「月島さん、それって・・・・・・」
ほのかがのんびりと時間を掛けて切っていたのは星の形をしたニンジンだった。
「ずっとそれ作ってたのか?」
【星の形にしたらかわいいと思って】
ほのかは作り方手順にあった乱切りの指示を無視して輪切りにしたニンジンをひたすら星の形に切った。
だが、そのスピードはかなり遅くまだ三枚しか完成していなかった。
冬真は悟った。
このままでは確実に授業時間内に作り終わらないと。
「わ、分かった。だが時間が無いから四つだけにして他は乱切りにしようか」
ほのかは冬真にそう言われ、少し残念に思ったが素直に頷いた。
「そう言えばカレーのルーはどうした? 見当たらないんだが」
「おお、それなら僕が担当でちゃんと持ってきたぞ!」
佐田島は作業台の上に大きな缶を差し出した。
そこには大きく『ブレンドスパイス』と書かれていた。
それを見て冬真は嫌な予感がした。
「ねえ、あんたどうしてルーじゃなくてスパイス持ってきたの?」
その嫌な予感がしたのは花梨も同じだった。
「え? 本格的なカレーはスパイスから作るんじゃないのか?」
「これ・・・・・・ほとんどただの黒胡椒と白胡椒だろ。これだけだとどう考えてもカレーにはならない」
「・・・・・・・・・・・・え!! そうなのか? いやー参ったな、スーパーのおばちゃんにオススメを教えて貰ったのだが、はははは!」
「~~~~あんた! どー言う事よ! 折角今日は調理実習で滋養と強壮にいいカレーが食べられるって言うから登校したのに!」
花梨は涙目になりながら健の両肩を勢い良く揺さぶった。
「す、す、す、す、すまない! 急いで、買って、くるから許してくれ!」
花梨が手を離すと健は早速カレールーを買いに教室を出た。
「佐田島が戻って来る前に俺達は出来る事をしよう。だが・・・・・・もしかすると時間内に終わらない可能性が高い」
他の班は既にカレールーを入れて煮込んでおり、スパイシーな香りを鍋から漂わせていた。
牛肉やジャガイモ、ニンジンは煮込むのに時間が掛かる。
冬真は残りの時間を計算したが具材が硬いままのカレーしか出来そうになかった。
ほのかは時間が無い時、どうすれば良いのかを必死に考えた。
今まで生きてきた記憶を全てひっくり返して漁り、アイデアを探し、そして記憶の片隅から希望の光掴んだ。
ほのかは包丁を手に取ると星の形のニンジンを小さく刻み、みじん切りにした。
「月島さん、それ折角作ったのに切っちゃうの?」
花梨がそう問うとほのかはスケッチブックに【具材を細かくすれば早く火が通るから】と書いた。
ほのかは時雨が煮物を作っていた時にそう教わっていた。
「そうか! 鈴村さんもジャガイモをみじん切りにするんだ、それから玉ねぎも」
冬真はほのかの意図を汲み取り包丁を持つと牛肉を細かく刻み始めた。
健がコンビニから帰ってきた時、ほのか達は具材を全て切り終えた所だった。
「急ごう、残り時間は十分しかない。野菜はレンジで温めて」
冬真はフライパンに油をひくとミンチにした肉を炒めた。
塩と健の持ってきた胡椒と料理酒を入れ更に軽く温めた野菜を次々に炒めていった。
そして仕上げにカレールーを加え水を少なめに入れなんとか形にした。
ほのか達は更にカレーを盛り付けると時間ギリギリに先生に提出した。
「あら、あなた達のはキーマカレーなのね」
ほのか達が作ったのはカレーはカレーでも世に言うキーマカレーというひき肉とみじん切りにした野菜を使用ものだった。
「ダメよ~、ちゃんと野菜の皮が剥けてるかとか~、乱切りが出来てるかとか~、野菜や牛肉に火が通ってるかとかを採点するのに~」
落合先生のその言葉に全員が不合格を言い渡される覚悟をした。
「でーもー、先生はちゃんと見てましたよ~。あの残り少ない時間で皆良く工夫を凝らしました。料理の世界ではトラブルは付きもの。臨機応変に作るのは大事な事よ~、だから今回は特別に合格にします」
「「ありがとうございます!」」
【ありがとうございます!】
昼食の時間、四人は自分達で作ったカレーを食べていた。
「どうだ花梨! カレーは美味しいか?」
「美味しいわ・・・・・・こんなカレーを食べたのは初めてよ」
「そうか・・・・・・うん、良かった。本当に良かった」
健はカレー美味しそうに食べる花梨の姿を見て目尻に涙を浮かべた。
「ちょ、ちょっと! なんであんたが泣くのよ」
「いや、あれだけ何も食べられなかった花梨がカレーまで食べられるようになって嬉しくてな」
「お、大袈裟なのよあんたは!」
花梨がここまで回復するのに長い長い年月を必要とした事をほのかも冬真も他のクラスメイトも知らない。
健だけが知っている事だった。
「月島さんもカレー美味しい?」
冬真はほのかにそう問うと、ほのかは【友達の皆と食べるカレーはウルトラハイパー美味しい!】と書いた。
「友達・・・・・・」
花梨はほのかと同じレベルで友達が少なかった。
「そうね! 友達と食べると美味しいわ!」
そこに『友達になろう』なんて言葉は必要なかった。
花梨もほのかも笑いあい、健と冬真はその様子を柔らかい笑みで見守っていた。
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