きみこえ

帝亜有花

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ランチタイム

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「ここが食堂な」

    陽太はほのかに『食堂』と書かれたプレートを見せて言った。
    扉を開けるととても広く、生徒や先生達で盛況な様子だった。
    ほのかが中を覗いていると、陽太は自分のメモ帳に何かを書き、ほのかに手渡した。

【俺は購買でパンを買ってくるから、先に中で待っていてくれ】

    購買は大分前に通り過ぎた所にあったのをほのかは思い出した。
    ほのかは返事をする様にこくりと頷いて見せた。
    それを見た陽太は「じゃあまた」と言って手を振った。
    ほのかはただ待っているのも退屈に思い、どんなメニューがあるのかが気になって券売機を覗いた。
    券売機のボタンにはAランチやBランチ、カレーライス、うどん等定番のメニューが書かれていた。
    AランチやBランチがどんな物なのかが気になり、隣のテーブルを見ると、レストランに飾ってあるようなサンプルが置いてあった。
    【本日のランチ Aランチ サバの味噌煮定食 Bランチ ハンバーグ&オムライス定食】と献立のボードに書いてあるのを見て、ほのかはBランチを買おうと決めた。
    ほのかは五百円玉を握り締めて券売機の前に立つとフリーズした。
    その券売機にはお金を入れる所が無かった。
    ほのかは券売機の右側面や、左側面も見たが投入口は見つからなかった。
    もしやと思い背伸びをして上を見てもやはり投入口は見つからなかった。
    どこをどう探してもお金を入れる所が見つからず、困っていると後ろから誰かの手が伸びボタンを押した。
    後ろを見るとその手は冬真の手だった。

「ちょっと、後ろ詰まるから取り敢えずこっち」

    冬真はほのかの手を引いて食堂の隅に移動した。

【ここの食堂は学生証にお金をチャージして、券売機で買うスタイルだから】

    冬真は自分のメモ帳にそう書き、ほのかに見せた。
    そして目の前にあるチャージ機でのチャージの仕方を冬真は自分の学生証を使って教えた。
    仕組みとしては駅にあるような券売機と大差はなかった。
    ほのかは冬真が説明する様子をじっと見詰め、ひたすら頷いていた。

「おばさん、Bランチ二つー」

    冬真は先程の券売機の所で買った券を食堂のおばさんに差し出した。
    ほのかが慌てていると冬真にトレーやスプーンやフォークを持たされ、スケッチブックに何かを書く暇すら無かった。
    ほのかは口を開きかけて、すぐに口をつぐんだ。
    すぐに言いたい事を伝えられない自分をもどかしく感じた。
    ほかほかな定食を運びながら冬真の後ろをついて行き、テーブルにトレーを置くとすかさずほのかはスケッチブックを手にした。

【色々教えてくれてありがとう】

    ほのかはスケッチブックにそう書き、ずっと渡そうと思っていた五百円玉を差し出した。
    その五百円玉を冬真は受け取ること無く、メモを取り出し、何かを書くとほのかに見せた。

【いいよ、俺からの転校祝い? Bランチで良かった?】

    ほのかはそれを見てぶんぶんと大きく首を縦に振った。
    冬真はその様子にくすりと笑った。

「そう、それは良かった」

【ありがとう】

    ほのかの冬真の第一印象では氷を感じさせる様な冷たそうな表情で、いつも冷静な人だと思っていたが、面倒見が良く、優しい人なんだと分かった。
    そしてその初めて見る冬真の笑った顔に一瞬心臓が跳ねたような気がした。

「お、二人ともここに居たのか」

    そこに呑気な声で現れたのは陽太だった。
    陽太は両手いっぱいにパンを抱えていた。

「お前、また肝心な時に・・・・・・」

「悪い悪い! 今日の購買はいつもより混んでてさ」

    ほのかはつい冬真のテーブルにトレーを置いてしまったが、今になってここに居ていいのか分からなくなり、トレーを持ち上げ、他の席を探そうとした。
    その様子に陽太と冬真は顔を見合わせると二人はメモを書き始めた。

【何してんの、さっさと座れば?】

【俺達とご飯食べるの嫌か? 嫌じゃなかったら一緒に食べよう】

    冬真と陽太は同時にほのかにメモを見せた。
    ほのかはそれを見て、こくりと頷き席に着いた。
    誰かと一緒にお昼ご飯を食べるのは本当に久しぶりだった。
    ほのかは前の学校では、今まで一人で食事していた事を思い出した。
    一人で居る事は楽だった。
    だけれど、本当はとても寂しかった。
    楽しそうに友達とご飯を食べている皆が羨ましかった。
    そして、今日は同じ席に二人のクラスメイトと一緒に食事が出来る事に嬉しさが込み上げてきた。

    【いただきます】

    ほのかは目尻に涙を浮かべながらも笑顔でスケッチブックを掲げた。
    その陽太と冬真は様子を見て何かを感じながらも特に何かを聞く事もなく、微笑みながら「いただきます」と言った。
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