23 / 37
軍部警察との対立
しおりを挟む「誰の許可を得て私の部下を拘束しているのです? これは不当逮捕に当たりますよ」
この件は正式に軍部へ抗議いたします、と低い声で問い質す師団長に、応じた憲兵は一瞬ひるんだが、すぐに持ち直して嫌味を交えながら反論してきた。
「お身内のことですからね、事前にそちらに知らせたら部下をかばって口裏を合わせたりする可能性があったため師団長にご相談するわけにはいかなかったのですよ」
「確実な証拠があって容疑が固まっているならともかく、容疑者の一人の証言がエリザの名を出しただけでいきなり強制連行するのはおかしいでしょう」
大佐の指示だと強気の姿勢を崩さない憲兵だったが、魔法師団のトップである師団長の抗議を突っぱねることはできないようで、しぶしぶエリザの取り調べは終了して解放すると了承した。
「ですが彼女の容疑が晴れたわけではありません。こちらが証拠固めに動いているところを邪魔される可能性もあるので、監視をつけさせていただきます」
「容疑が晴れればよいのだろう? その証言をした構成員の聴取をさせてもらおうじゃないか」
現在軍部警察に勾留されているフィルに直接話をさせろという師団長の要求に、憲兵は難色を示したが、現在この捜査に関しては軍部警察と魔法師団で捜査協力をしているので、拒否できる理由がない。
「……分かりました。取り調べを許可します。ただし、我々も立ち会わせていただきますので」
こちらを信用していないのを隠そうともしない姿勢に鼻白むが、ひとまず取り調べが先であるため大人しく憲兵の後について取調室を出た。その際に、エリザの拘束具を外すように師団長が指摘してくれたため、ようやく不自由な体制から解放され小さく息をつく。
今回捕らえられたのは、以前から軍部警察が目星をつけていた地下組織の構成員が、仲間と接触したところを一斉確保された者たちである。そのほとんどは下っ端の運び屋ばかりで、そのなかにフィルが含まれていた。
独房の前にある取り調べ用の遮音室で待っていると、手足を鎖でつながれたフィルが現れた。数日前に現れた時もすさんだ雰囲気になったと感じていたが、さらに目が落ちくぼみ肌は土気色になっていてまるで別人の容貌になっていた。
エリザがその場にいることに気が付くと、憎しみのこもった目で凝視してくる。
「最初から自白魔法を使って証言させれば、つまらない嘘がつけなくなるから手っ取り早いだろ。エリザ、お前がやるか?」
師団長が後ろにいるエリザを振り返る。確かに自白魔法を使えば嘘の証言などすぐに覆せるのだから、あんな長時間拘束される必要などなかった。
元恋人のフィルに対し、犯罪者に使う自白魔法を使う日が来るとは非常に複雑な気分だが、仕掛けてきたのはあちらのほうだ。
魔法を展開しようと右手を持ち上げた瞬間、フィルが憲兵に向かって叫んだ。
「憲兵さん! 止めさせてください! コイツが自白魔法と見せかけて洗脳するかもしれないじゃないですか! 全部俺に罪をかぶせて自分だけ逃げるつもりなんだ!」
「もし違う魔法をかけようとしていたら俺が気づかないわけがないだろう。エリザにかけられたくないなら俺がやってやるからこれ以上醜態をさらすな」
なんとか自白魔法から逃れようと悪あがきするフィルに師団長が一喝してくれたが、それに対し彼はとんでもないことを言い出した。
「師団長は自分の愛人であるエリザをかばうに決まっている! 二人がグルなら魔法に不正があっても憲兵には見抜けないだろ! 絶対に拒否する!」
「この期に及んで嘘を並べ立てるのはやめて!」
愛人というのもそもそもフィルが流した嘘なのに、それを根拠に因縁をつけてくるその卑怯さにカッとなって声を荒らげてしまう。この人はいつからこんなに最低な人間になってしまったのか。それともエリザの目が節穴だっただけで、元から彼は最低な本性を隠していたのだろうかと情けない気持ちになる。
823
お気に入りに追加
1,472
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。
櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。
才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。
敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。
新たな婚約者候補も…。
ざまぁは少しだけです。
短編
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
婚約破棄されたので、被害者ぶってみたら国が滅びた
ひよこ1号
恋愛
とある学園の卒業パーティーで行われる断罪劇。
その動きを事前に察知した公爵令嬢クローディアは、ギャクハーエンドなるものを目指していた男爵令嬢マリアンヌの様に、被害者ぶって反撃を開始する。
学内の大掃除のつもりが、どんどん事態は大きくなって……?
***
全五話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる