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軍部警察との対立

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「誰の許可を得て私の部下を拘束しているのです? これは不当逮捕に当たりますよ」

 この件は正式に軍部へ抗議いたします、と低い声で問い質す師団長に、応じた憲兵は一瞬ひるんだが、すぐに持ち直して嫌味を交えながら反論してきた。

「お身内のことですからね、事前にそちらに知らせたら部下をかばって口裏を合わせたりする可能性があったため師団長にご相談するわけにはいかなかったのですよ」

「確実な証拠があって容疑が固まっているならともかく、容疑者の一人の証言がエリザの名を出しただけでいきなり強制連行するのはおかしいでしょう」

 大佐の指示だと強気の姿勢を崩さない憲兵だったが、魔法師団のトップである師団長の抗議を突っぱねることはできないようで、しぶしぶエリザの取り調べは終了して解放すると了承した。

「ですが彼女の容疑が晴れたわけではありません。こちらが証拠固めに動いているところを邪魔される可能性もあるので、監視をつけさせていただきます」

「容疑が晴れればよいのだろう? その証言をした構成員の聴取をさせてもらおうじゃないか」

 現在軍部警察に勾留されているフィルに直接話をさせろという師団長の要求に、憲兵は難色を示したが、現在この捜査に関しては軍部警察と魔法師団で捜査協力をしているので、拒否できる理由がない。

「……分かりました。取り調べを許可します。ただし、我々も立ち会わせていただきますので」

 こちらを信用していないのを隠そうともしない姿勢に鼻白むが、ひとまず取り調べが先であるため大人しく憲兵の後について取調室を出た。その際に、エリザの拘束具を外すように師団長が指摘してくれたため、ようやく不自由な体制から解放され小さく息をつく。

 今回捕らえられたのは、以前から軍部警察が目星をつけていた地下組織の構成員が、仲間と接触したところを一斉確保された者たちである。そのほとんどは下っ端の運び屋ばかりで、そのなかにフィルが含まれていた。

 独房の前にある取り調べ用の遮音室で待っていると、手足を鎖でつながれたフィルが現れた。数日前に現れた時もすさんだ雰囲気になったと感じていたが、さらに目が落ちくぼみ肌は土気色になっていてまるで別人の容貌になっていた。
 エリザがその場にいることに気が付くと、憎しみのこもった目で凝視してくる。

「最初から自白魔法を使って証言させれば、つまらない嘘がつけなくなるから手っ取り早いだろ。エリザ、お前がやるか?」

 師団長が後ろにいるエリザを振り返る。確かに自白魔法を使えば嘘の証言などすぐに覆せるのだから、あんな長時間拘束される必要などなかった。
 元恋人のフィルに対し、犯罪者に使う自白魔法を使う日が来るとは非常に複雑な気分だが、仕掛けてきたのはあちらのほうだ。
 魔法を展開しようと右手を持ち上げた瞬間、フィルが憲兵に向かって叫んだ。

「憲兵さん! 止めさせてください! コイツが自白魔法と見せかけて洗脳するかもしれないじゃないですか! 全部俺に罪をかぶせて自分だけ逃げるつもりなんだ!」

「もし違う魔法をかけようとしていたら俺が気づかないわけがないだろう。エリザにかけられたくないなら俺がやってやるからこれ以上醜態をさらすな」

 なんとか自白魔法から逃れようと悪あがきするフィルに師団長が一喝してくれたが、それに対し彼はとんでもないことを言い出した。

「師団長は自分の愛人であるエリザをかばうに決まっている! 二人がグルなら魔法に不正があっても憲兵には見抜けないだろ! 絶対に拒否する!」

「この期に及んで嘘を並べ立てるのはやめて!」

 愛人というのもそもそもフィルが流した嘘なのに、それを根拠に因縁をつけてくるその卑怯さにカッとなって声を荒らげてしまう。この人はいつからこんなに最低な人間になってしまったのか。それともエリザの目が節穴だっただけで、元から彼は最低な本性を隠していたのだろうかと情けない気持ちになる。

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