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冤罪

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「それで、どうして私が地下組織の構成員だなんて容疑がかかったんですか?」

 軍部の取調室に押し込まれ、椅子に座らされてようやく手首の拘束を解いてもらえた。
 地下組織と称されているのは、現在魔法師団も捜査している薬物を出回らせている集団のことを指す。もともとは人身売買をおこなっている組織として魔法師団の捜査対象になっていた。
 それがどうしてエリザがその組織の構成員などという話になったのか。

「逮捕した組織の構成員からお前の名前が挙がっていた。それによると、お前は魔法師団の立場を利用して捜査の手が組織に及ばないよう手を回していたと証言が取れている。薬物の移送にも手を貸していたそうじゃないか」

「……全く身に覚えがありません。どうして私の名が出たのかそこは分かりませんが、その容疑のどれにも関与していないので、ちゃんと調べれば全くの冤罪だとすぐ分かるはずですよ」


 その構成員の証言だけで何の証拠もないのに強制連行したのなら、軍部の責任問題になりますよと指摘したが、憲兵の表情は変わらない。
 
「お前が関与していたのは間違いないんだよ。なぜならその証言をしたのはお前の恋人だからな」

「……はあっ!? 恋人? って、まさか……」

「元士官学校生。元はヘルバネッセン家の息子だったが、現在は養子先からも除名されて平民になっている……。フィルという男はお前の恋人で間違いないな?」

 憲兵が手元の書類を見ながら、エリザもよく知るフィルの経歴を語る。逮捕された組織の構成員というのは、彼で間違いないようだ。
 まさか軍事警察の取調室で元恋人の名を聞くことになるとは。

「魔法師団のエリザ・ルインストンは給金も全てそいつに貢いで恋人の言いなりだと有名な話らしいじゃないか。ついには犯罪の片棒も担ぐとは、馬鹿な女だな」

 別れを告げられた時に士官学校を辞めて仕事を始めたと自信満々に言っていたのは、地下組織の構成員として働くことだったのか。
 仮にも軍部の士官を目指していた者が地下組織の構成員になるだなんて、予想もしていなかった。

「確かにフィルとは恋人同士でしたが、少し前に別れています。彼が犯罪に手を染めていたのも知りませんでした。当然ですが、師団の機密事項を彼の前で喋ったこともありません」

「あの男は薬の運び屋だった。その受け渡しをお前も手伝っていたと証言している。師団員ならば軍事警察の動きもある程度把握できるからな。安全な移送ルートと受け渡し場所の情報提供をしていたというじゃないか。知らぬ存ぜぬが通ると思うなよ」

「それは彼の証言だけでなんの証拠もないですよね? 彼は私を陥れるために嘘の証言をしたんでしょう。もしくは捜査を混乱させるためか……罪を軽くしたいがためか」

「そいつはアジトに捜査の手が入るという情報をお前から聞いたと言っている。そしてその証言のとおりに、師団が踏み込む前に首領は逃亡して、薬物の保管庫を爆破されてしまった。あの時点では師団しかあのアジトの存在を知らなかったはずだぞ。それだけで十分な証拠になる」

 だからエリザが情報をリークしたはずだと言い、憲兵は最初からエリザが協力者であると決めつけてくる。
 結局それもフィルの証言だけを証拠とした容疑なのに、こちらの反論は全く聞こうとしない。同じ問答の繰り返しで体力を消耗させられる。

 連行された時点でもうすでに深夜近い時間だったのに、そこから休憩も入れずに何時間も聴取が続いている。
 これは恐らくエリザの精神を削って自白させようとしているのだろう。任務で数日眠らず活動することがあるから徹夜くらい耐えられるけれど、このやり方は腹が立つ。
 お互いの主張が平行線のまま時間だけ過ぎ、憲兵たちが苛立ちを隠せなくなってきた頃、取調室がノックされた。

「中尉、魔法師団長が来ています」

 入ってきた男がそう告げると、目の前の憲兵は憎々し気にエリザを睨んだ。いや、こっちを睨むのはお門違いでしょと軽く睨み返す。
 ドアの外で何かもめるような声が聞こえると同時に扉が開かれ、渋い顔をした師団長が無遠慮に入ってきた。

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