恩返し勢が帰ってくれない

エイ

文字の大きさ
上 下
64 / 64

ずっと一緒

しおりを挟む

「ねえ……そういえば、メディオラ様が私の魂を抜き取ろうとしたけど失敗したでしょう? それが私と皆の魂がつながっているからできないんだってピクシーが言っていたけど、あれってどういう意味? 使い魔の契約って、いわば雇用契約だから魂に干渉したりしないよね?」

 ただ不思議に思ったから訊いてみたのだが、その質問をされた魔物たちは一斉に目線を逸らして、アメリアが重ねて訊ねてもなにやら誤魔化そうとしてはっきりしない。

「えっ? なんか変なこと訊いた? 説明できないことがあるの?」
「いや、別に変なことはしてないわよ。ただ、ちょーっと使い魔より繋がりが深い契約をしたっていうか~」
「アメリアと引き離されない強固なつながりを作っただけで、何も悪いことはしてないぞ」
「そうそう、ただの使い魔だとすぐ解除できちゃうからさ! 切れない縁を作ったんだよ!」
「魔物とヒトの婚姻契約ですよ! ヒトと魔物の命をつないで生涯を共に生きるっていう、魔物流の結婚です!」
「「「馬鹿! それはまだ内緒だって!」」」

 空気を読まないヘルハウンドが本当の契約内容を暴露して、三匹から頭をぶん殴られる。
 コンイン? って何? と言葉の意味をすぐには理解できすにいたアメリアだったが、婚姻=結婚だと理解したとたんに、頭が爆発しそうになった。

「待って待って結婚したなんて聞いてない! しかも全員としたってことだよね? 嘘でしょ? 私そんなの聞いてないんだけど!」
「でもずっと一緒にいたいってアメリアも言ってたじゃない。契約の名称なんてどうでもいいでしょ?」
「しょうがねーじゃん。アメリアを守るにはこっちのほうが都合よかったんだよ」
「結局この契約にしておいたから助かったんだし、むしろ褒めてほしいんだけど?」
「この契約は生涯あなたを愛しますっていう魔物なりの誠意なんですよ」
 
 どっちかっていうと、寿命を削ることになる魔物が代償を払う契約なのだから、アメリアに損はないと言われ、そんなことを知ってしまったら反論のしようがない。

「うう……助かったのは事実だし有難いけど、そんな重要な契約にするなら先に相談してほしかったよ……」

 がっくりと項垂れるアメリアを魔物たちが、そっかごねんねー、とあまり心のこもらない謝罪をする。

「それより、どの国へ行くか考えようよ。僕は海に面した国に住みたいなー」
「しばらく旅する感じでいんじゃね? アメリアも外国は初めてなんだしいろんなとこ行こうぜ」
「アタシは湖水地方がいいわあ。いろんなことがあってアメリアも疲れてるでしょ? 気候の良い土地でゆっくり過ごすほうがいいじゃない」
「食事が美味しいとこがいいと思います! 食が合わないとアメリアさんがまたガリガリになっちゃいますから!」

 皆がワイワイと楽しそうに、これからの話をしている。
 彼らの言う「これから」には、当たり前のようにアメリアが含まれていて、その会話を聞いていると温かくなる。未来の話を彼らとできることを嬉しく思う。

「ずっと、一緒……」

 ポツリとこぼれた呟きに自分で驚く。
 
 
「アメリア、何か言った?」
「うん、みんなのこと、大好きだなあって思って」

 ひとりになりたいと思っていたあの頃の自分はもういない。

 遠ざけようとしていた頃が嘘のように、今はただ、純粋に彼らが愛おしい。
 お互いが望むなら、使い魔契約でも婚姻でも、関係性の名前なんてどうでもいいのかもしれない。
 その気持ちを素直に言葉にしたら、魔物たちが慌てだした。

「アメリアどうしたの? 何か辛いこと思い出しちゃった?」
「大丈夫か? やっぱり母親のことがショックだったんだ」
「家族がアレだったもんね。辛すぎてどうかしちゃったんだ」
「アメリアさん! もう大丈夫ですよ! もうあの母親は黄泉から二度と帰ってこないですから!」

 わっと皆が集まってアメリアの心配をし始める。どうやらアメリアがショックのあまりおかしくなってしまったのだと思われているらしい。
 正直、いやなんでそうなる!? と突っ込みたくなる。

「とりあえず、国を抜けたらどこかで休みましょう。早く疲れを癒しましょうね」

 よしよし、と労わるようにピクシーが頭を撫でてくれる。
 大きな手のひらを頭に感じながら見上げると、優しく微笑むピクシーと目が合う。
 このこみ上げる愛しさを、いつかちゃんと伝えられるといいな、とアメリアは心の中だけで呟いた。



 終わり


 

 ====

 これにて完結です!
 最後まで読んでくださってありがとうございました!
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

conn
2024.08.18 conn

今の連載中の作品の展開が辛すぎて、途中で辛くて読むのを止めていたこちらを読まさせていただきました。
面白かったです!面白くて最後にスッキリする作品ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。