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夫視点
side:レイモンド13
しおりを挟むそれだけ長く一緒にいれば、子ができるのも当然だった。
屋敷に移り住んでから三月もしないうちに、彼女に妊娠の兆候が現れた。
医師の診察を受けて、おそらく懐妊しているだろうと分かると、それまでなにも言わずにいた家令が俺に進言してきた。
「レイモンド様、お子ができたのならば、イザベラさんには別宅に移っていただきましょう。いつまでも愛人を本宅に置くものではありません。特に今は奥様が不在なのですから、外聞も悪いですし、いつまでも隠しておくのも限界です」
「それは……だが、俺の目の届かないところでなにかあっては困る。イザベラを快く思わない者に嫌がらせを受ける可能性もある。ハンナ信者は多いからな、信用できる者がいない今、彼女を遠くに離すことはできない」
「は?そのような……ご心配でしたら護衛を雇い屋敷に常駐させましょう。お世話をする者は私が選抜して付けますので」
「お前こそがハンナ寄りの人間ではないか。イザベラも初めての妊娠で不安がっている。出産までここで面倒をみたほうがいいだろう。もともと子を産むまでの契約なのだ。身二つになって、子に乳母をつけてから、契約終了ということで出て行ってもらった方が合理的だろう」
「お、奥様寄りの人間だなど!奥様は尊敬しておりますが、私はレイモンド様のご指示に背くような真似をした覚えはありません!ほかの使用人も、主人の命を忠実に守っております。彼女を客人として尊重し、きちんとお世話申し上げております」
「ではイザベラの出産まで、お前がきちんと取り計らえ。彼女には、なにかされたら必ず俺に報告するように言ってある。イザベラを尊重できない者は辞めてもらっていい」
「……承知しました。ですが……あの、奥様はどうされていますか?あれから一度も別荘に伺っておられないではないですか。手紙も、きっと奥様は心待ちにしておられるでしょうに、一度も出していらっしゃらない。せめて、冬になる前に、様子を見に行かれてはどうですか?」
痛いところを突かれて、俺は言葉に詰まった。
様子を見に行くべきだとは分かっている。だがどうしても、あの呪いに侵された姿を思い浮かべると、胃のあたりがぎゅっとつかまれたような苦しさに襲われ、体が拒否してしまうのだ。
「……分かっている。だが今すぐは難しい。手紙で近況を聞いてみるから、それでいいだろう」
何かまだ言いたげな家令を残し、俺はイザベラの元へ向かった。
ハンナには我慢ばかりさせているが、俺の子が生まれたらきっと喜んでくれるだろう。ハンナの献身のおかげで、このアシュトン家も断絶せずに済む。
俺はこの選択が最善だと信じて疑わなかった。
全てが順調に回っていると思っていた俺の身に異変が起きるのは、冬が深まって新しい年を迎えた頃からだった。
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